生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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愚弄

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sideリラ

クロウ先生が魔法を使ったことで雰囲気がガラッと変わる。



兵の警戒心が尋常じゃない。


「貴様何者だ!!」
「拘束しろ!!」



恐れているようにも見える。


「そう騒ぐな、弱者どもが。」


そしてこの王様。


自分の部下に言うセリフだろうか。


ルシアスなら絶対に言わない。



「ただの人間ではないとら思ったが魔法使いか。通りで肝が据わっているわけだ。ところで、お前はどこの魔女団のものだ?」


魔女団??


何それ。


クロウ先生そんなの入ってるの??


宗教か何か??


「俺はどこの魔女団にも所属していない。野良の魔法使いだ。」



魔法使いに野良とかあるの…?



「尚のこと怪しいな。つまりは誰とでも組む事ができると言うわけだ。」


すごい威圧感。

それに圧倒されないクロウ先生はすごい。



「それって例えば、タランテラ・ガルシアとか?」


ライアスは挑発するように笑う。


どんな神経をしてるの??


「俺の前でその名を口にするな、汚らわしい女の名だ。」



私は口を挟む隙すらないのに。


「お前の息子たちと手を組んでいる。見れば分かるだろう。」


「やめとけ、クロウ。何言ったって信用されない。」



クロウ先生もルシアスもライアスも正気??



目の前にいるのは王様だよ?


私だって大好きなわけじゃないけど、挑発しようとは思わないよ。


「でもこれから協力していく仲になる、少しは信用してもらわないと。」



大人たちの交渉に、チーム☆ゴーストは全くノータッチ。



むしろ隙がない。


「もういいだろ、離れろよ。逃げないから。」

「あぁ、退け。俺も逃げない。」


ラルフとルディが私とダリアちゃんを拘束している兵を追い払った。


チーム☆ゴーストはこの圧縮されそうな空気に耐えるように互いにくっつく。


それより何より、キジャさんとルルドさんはどこにいるんだろう。


*******************

sideライアス

僕たちが交渉をしていると、リラたちは緊張した面持ちで互いにピタリとくっついている。


可愛いからそのままでもいいけど早く終わらせてあげないとね。


「信用されないのはお前たちに非があるからじゃないのか?」



王が何か言い出した。


「非?なんもねぇだろ。」


ルシアスは面倒くさそうに答える。


「禁断の果実を持っておきながら非がないと言えるのか?」


王はまだ状況を理解していない。


これ以上、ルシアスと王を話させたらルシアスがキレそうだから僕が説明した方がいいね。



「禁断の果実はもうこの世にはないよ。僕とルシアスが根絶やしにした。」


この手で、リラの人間の面を殺したんだ。



「じゃあそこの女は何だ?顔が全く同じ他人か?」


王がリラを指すとリラがビクッと反応する。



禁断の果実だ。気配で俺らの同族だって分かるだろ。」



ルシアスがイラついたように言うと王が声を上げて笑った。



「馬鹿を言うな、人間をヴァンパイアに変異させたらどうなるかは知ってる。」



まだ王が僕らくらい若い時代は戦争が始まったくらいだったからね。


それはそれはよく知っているはずだよ。



「そこにいる俺の妻はあいにく普通の人間じゃなかった。今では立派なヴァンパイアだ。」


王がリラを見た。


「妻?」


珍しく驚いている。

それもそのはず。


息子が勝手に結婚してしまってるんだからね。


「あぁ、妻だ。」



リラはルシアスが言い切ったことで慌てふためいた。


「お前はとことん物好きだ。美しくはあるが、元人間の欠陥品を娶るとは。」

「あ?」

欠陥品、その言葉に僕は心底腹が立った。


僕だけは冷静でいようと努力したけど、リラを愚弄されてまでその理性は保たなくていい。



気がつくと王の胸ぐらを掴んでいた。



「それ以上は言わないでくれるかな?」


僕が心の底から愛している子だ。


愚弄するのは絶対に許さない。


「これはこれは、お前まで見る目がないときたか。失望したぞ、ライアス。」


失望?



「それは僕も同じ言葉を返さないとね。まぁ、僕は父に望みを持った事なんて一度もないけど。」



殴りたくてたまらない。



リラを侮辱するのは本当に許せない。



「おいおい、交渉相手殴るなよ?冷静になれ。」


ルシアスが胸ぐらを掴んでいる僕の手をガッチリ掴んだ。


「落ち着いてるね、自分の妻を侮辱された男とは思えないよ。」



たいして何も感じないならさっさと離婚すればいいのに。



「もちろん腑が煮え繰り返ってる。でもここで全てを台無しにしてリラを守れないのは馬鹿の極みだろうが。」



僕とはまるで考え方が違うね。


ルシアスは結果を大事にする。


結果が実ればリラを侮辱していいの?


そんなわけはない。



「馬鹿でもなんでも僕は許せない。」


全く、僕だけこんなに怒りを露わにして滑稽にも程がある。



それほど愛しているとリラが理解してくれたら嬉しいけどね。
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