生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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慣れた腕

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sideリラ


私は眠気と無気力と戦いながら地下牢を出た。


眠い、疲れた。


そしてやる気が削がれてしまった。


私の敵は大きすぎる。



「リラ。」


私が地上に顔を出した瞬間、ルシアスが現れた。


「大丈夫か?何もされてないな?」


ルシアスはそう言って私の頬に触れ、体全体を見回す。


「はい。…大丈夫です。」


ただ、憂鬱な時間かだった。


「何か嫌なことでも言われたか?」


私は首を横に振った。


「全然、私は何も言われていません。ただ…。」


黙りこくった私を心配したのか、ルシアスが私の両頬を優しく引っ張った。


「今日は誰も死んでない、葬式出てるみたいな顔すんなよ。」


私そんなに沈んだ顔してたの?


「そんな顔は…してません。」


多分だけど。


「とりあえず、またみんなを召集してください。……ライアスは来てくれるでしょうか。」


昨日のあの最悪な場面から一度も会っていない。


何だかんだ、ライアスは1日に一回は私に会ってくれていた。


だけど今日は姿を見ない上に気配すら感じない。


まるでどこかへ消えてしまったみたいに。


「来なければ来ないでいい。」


ルシアスはそれでいいかも知れないけど…


「私が嫌なんです…。このままライアスに会えないのは悲しい。」


嫌なところを見せてしまった。


それを心から謝りたい。


ライアスの言う通り、本気で私を愛しているのなら酷すぎる。


私が同じことをされたら耐えられない。




「そろそろ学習しろ。」


ルシアスが冷たく言い放ったと思えば私はすごい力で抱きとめられていた。


何をさられるかと思えば…

「ひっ!!!」


頸を思い切り噛まれた。



頭の先からつま先まで甘い痺れが駆け抜ける。



その刺激は私には強すぎて意識を朦朧とさせた。


きっとルシアスの毒のせいでもある。


「俺はライアスが大嫌いだ。ライアスに会えなくて悲しい?別に会わなくてもいいだろ、死ぬわけじゃない。」


ルシアスはそう言って私を片手で肩に担いだ。



「っ……」
「そんなに悲しいなら俺が側にいてやるし、忘れさせてやる。」



この言動から察するに、このままベッド直行かな。



今日はきっと手加減してくれない。


こんな状態でばかりルシアスと夜を過ごしてる。


訳の分からない状態にされて私はいつも乱れるばかり。


たまには普通に抱かれたいよ。


ルシアスの毒を体に入れていない状態で愛されたい。



「ルシアス……離して…」


だめだ、体に力が入らない。


「離したらどうする?ライアスのとこへ行くか?」


どこまでも誤解されていて悲しい。


「ルシアス…意地悪言わないでください…。」


あぁ、ふわふわしてしまう。


「意地悪じゃねぇよ、本当のこと言ってんだ。」


それが意地悪だって言っているのに。


私の意識が限界に近づいた。



あぁ、もうだめ……視界が暗くなってきた。



















何となく意識を取り戻した時に、お姫様のように腕の中に抱かれて運ばれているのが分かった。


ふわふわしているようで、安定している安心できる腕。


どこか懐かしい気がして目を開けた。


「ずっと眠っていてまるで眠り姫だね、リラ。」


私は言われた通り、眠り姫の如く眠っていた。


だけど、目を覚ましてすぐに会えるとは思っていなかったよ。


「ライアス……。」


また血だらけなの?


今回は何をしたの?



「なんで…こんな…」


重い腕を上げて、ライアスの前髪に付いている血を拭う。


「少し暴れてきた。」


少し?そんな傷じゃない。


ライアスの綺麗な顔にばっくり傷ができている。


「この傷は…」


痛々しくて触れることもできない。


「ルシアスにやられた。」


あぁ、やっぱりそうなんだ。


「今日はライアスが勝ったんだね。……今はどこに吊るしてるの?」


私が聞くとライアスはとびきりの笑顔を浮かべた。


「ルディの部屋。」


いとも容易く行われるえげつない行為。


ごめんね、ルディ。


「リラ、余裕そうだけど大丈夫?」


私はライアスの質問に首を傾げた。



「まともに体が動かないリラをどこに連れて行っていると思う?」



私は辺りを見回した。



森、森、森。



ひたすら森。


「ど…どこに行くの?」

「誰にも見つからない場所。」


私は急に怖くなった。


誰にも見つからない場所で何するの?


まさか私を殺すとか?


これが俗に言う、俺のものにならないならいっそ、ってやつかな?


「もう限界なんだよね…いろいろと。」


絶対そうだ、私を殺す気だ。


「ライアス…落ち着こう?ね?」


昨日は確かに最低なところを見せてしまったけど、私を殺すのはお門違いじゃない?


普通ならルシアスを殺すはず。


ルシアスが殺されて欲しいわけじゃないけど、どうして私が代わりに断罪されるの???



「僕は十分落ち着いてるよ、そんなに怖がらないで。多分、痛いことはしないから。」
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