生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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心から求める人

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sideリラ


もうひと頑張りするつもりが、開始10分で心が折れそう。


正直、限界だったりする。


ギリギリまで血を抜かれて、逆さ吊りにされて、眠ることさえしていない。



でも、ルーカスに何かあったらいけないから私は起きていないと。



ロレンジアさんが何かするかもしれないし。



体力がなくてびっくりする。



ルシアスなら、こんな状況でも誰かを守る力があるのに。


私もルシアスみたいに強くなりたい。


ルシアスみたいに、強くて温かい人になれたらどんなにいいか。



ルシアスのことを考えるのはよくない。



自分自身を傷つけてどうするの。



会いたくても今は会えないのに。


分かっていてもあなたを思い出す。



あの大きな手が私に優しく触れる感触。



好きで好きでたまらない。



会いたい…。



1分でいいから…ルシアスと一緒にいたい。



********************

sideルシアス


左の薬指がピリピリと痛む。


危機が迫っている訳ではなさそうだ。


リラの心情や状況によって指輪から与えられる痛みが変わる。


甘い鈍痛は俺の期待を一気に膨らませた。



リラに呼ばれている。



「クロウ…少し抜ける、リラたちの様子が気になる。」


こんな夜中まで俺はクロウと図書室で呪文調べに没頭していた。


「あぁ、俺も気になっていた。ついでに休憩するから行ってこい。」


「すぐ戻る。」


俺はすぐに図書室を出た。



指輪の痛みが心地良い。



情報は何もない。


収穫もない。



合わせる顔がないのにも関わらず、俺は呼ばれたら簡単に会いに行ってしまう。



そりゃそうだろう、リラより大切なものは他にはない。

















森に近づけば近づくほど期待は膨らむ。



そして、森に入った途端その期待は崩れ去った。




「……血の匂い…。」



心底愛している女の血の匂いがする。



リラがいるのはかなり先なのに。



大量の血が流れたってことだ。



浮かれていた自分が嘘のように消えてしまった。



********************

sideリラ


「リラ!!」


幻聴??



ルシアスの声だ。



「リラ!どうしたんだ、リラ。」


あれ??ルシアス!?



「ルシアス…」
「何だ、この怪我!」


ルシアスは私の傷だらけの体を見て珍しく焦っている。



傷が残っているのは、大量に血を抜かれたからだ。


回復が追いついていない。



「リラ、顔が真っ青だぞ…」


ルシアスはそう言って私の頬に触れた。


「何で…何があった?」


私を労るその手に触れたかった。


嬉しい。



「ルシアス…嬉しい、会いたかったんです。」



ルシアスの手のひらに顔を傾ける。



「そんな事より俺の血を飲め、体も冷たくなってる。」



癒されていたのも束の間、ルシアスは私の頬から手を離し自らのシャツのボタンを外し始めた。



「ルシアス、大丈夫です。明日狩に行きますから。」



わざわざルシアスの血を貰うほどでもない。


ルシアスは寝ずに解決法を探しているんだから。



「いいから、ほら。」


ルシアスに首筋を見せられて自分の牙が疼いたのが分かった。


私の体は渇き切って飢えている。



「……だ…ダメです…。」


私は口元を手で覆い、ルシアスに背を向けた。



必死に耐えていると……



「他所でやってくれないか?夫婦のソレを見せられるのはごめんだ。」



いつ起きたのか知らないけど、ロレンジアさんとバッチリ目が合った。


「だがあまり与えるな、また血を抜く羽目になる。」


その言葉を聞いてルシアスが黙っているわけはない。


「聞き捨てならないな、お前がリラをここまで弱らせたのか?」



ルシアスの額には既に筋が一本。


もう一本その筋が入ればここは山火事になる。



「あぁ、あの女が出て来たから弱らせた。殺してはいない、そう怒るな。」



ルシアスの額にもう一本の筋が入りかけた瞬間、私はルシアスに抱きついた。



「ルシアス、いいんです!」



やり方は強引だけど、ロレンジアさんは私を殺す気はなかった。



それは事実。



「どうか怒らないで…」



クラっときた。



世界が回転しているみたいに。



「リラ!」


ルシアスは膝から崩れ落ちそうになった私を受け止めた。



「あのイカれた木と話すよりお前が先だな。」



ルシアスはそう言って私を抱き上げた。


「ルシアス…」
「さっきも言ったがあまり回復はさせるな、体力があればあるほどあの女は出てくる。」




ロレンジアさんの忠告を聞いて鼻で笑うルシアス。



「知るかよ、そんな事。俺の女だ、お前に口出しされる筋合いはない。」



ルシアスはそれだけ言い放って、私を抱いたまま夜の森を駆けた。
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