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第37話 海で遊んだ後は美味しいご飯が待ってるよね!

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 水鉄砲サバイバルゲームを楽しみ、それからはみんな泳いだり、ボール遊びをしたりして空模様は夕焼けに染まっていた。さすがについてから遊び通しで疲れてきたみたいで、みんなレジャーシートに横になっている。

「いやー、今日は遊んだね~」
「わたくしはまだ遊びたいのですが、そろそろお腹も空きましたの」

 海が夕焼けの光を反射しており、とても神秘的だ。浜辺に立ち思いに耽っていると、

「兄貴なにかっこつけて立ってるの」

 すみれが俺の横顔を覗き込んできた。

「うぉっ、なんだすみれか」
「うぉっ、じゃないわよ。聞いてなかったでしょ、兄貴。上野さんが呼んでるよ」

 すみれに教えられて別荘の方を振り向くと、坂を下りた先に案の定上野さんが手を振って呼んでいる。

「皆様ー、そろそろお食事の時間なので戻って来てくださーい!」

 どうやら夕ご飯の支度をしてくれたらしい。

「私達は先にシャワー浴びてるからね~」

 すみれ達はさっさと別荘に戻って行く。

「俺も戻るか」

 というわけで、全員別荘に戻り順番にシャワーを浴びる。無論最後に浴びたのは誰だったのかは、言うまでもない。

 さてようやく身体をサッパリさせてリビングに入ると、テーブルにはスパイシーで美味しそうな匂いが漂っていた。この匂いはカレーだな。

 すみれ達女性陣は、着替え終わっており、ソファーに座って3人で雑談をしている。上野さんが今はスーツではなく、ラフなシャツとズボンに着替えており、テーブルに全員の食事の配膳をしてくれていた。

 盛り上がっている女性陣達に混ざる気にもなく、俺は上野さんの手伝いをする。

「上野さん、俺も手伝いますよ」
「ではお言葉に甘えて、このサラダをテーブルに運んでもらってもよろしいですか?」
「分かりました」

 渡された大きなボウルに、ぎっしり入ったシーザーサラダをテーブルに配置する。続けてまだ手伝う事を伝えると、冷蔵庫に入っている飲み物類を取ってほしいと頼まれたので、冷蔵庫を開ける。中にはペットボトルのお茶やジュースがぎっしり入っていた。

 俺はジュースやお茶を取り出し、テーブルに配膳されたグラスの横に置く。そうこうしている間に、上野さんがテキパキと料理を4人分並べ終える。

「さっ皆様、料理の準備が出来ましたのでどうぞ召し上がってください」

 その声で女性陣がすぐに会話を中断し、急いで各々椅子に座っていく。

「うわ~美味しそうですね。やっぱり海で遊んだ後のカレーって、特別に美味しく感じますね」

 すみれがカレーから漂ってくる香りを堪能している。そう言えばカレーが好物だったな。

「私もカレー大好きなんだよね。さすが上野さん、分かってるぅ!」
「上野さんの料理の腕も素晴らしいんですの。ね、上野さん」
「彩夏お嬢様に、それに皆様のお褒めの言葉ありがとうございます。どうぞ召し上がって下さい」

 実際にテーブルに配膳された料理はシーフードカレー、シーザーサラダ、パンプキンの冷製ポタージュ、ほうれん草とコーンのソテー等と、どれも上野さん特製の手料理だ。

 そこで4人分の料理で気付く。これは俺達の分しか並べられていないのだ。作ってくれた本人は俺達が食べるのを待っている。

「あれ、上野さんは食べないんですか?」
「私は皆様が食べ終った後で食べますから、大丈夫ですよ」

 そう言ってキッチンの方に行こうとするのを、彩夏ちゃんが呼び止めた。

「ちょっと待つですの、上野さん。今日はみんなで食べますの」
「ご飯はみんなで食べる方が美味しいから、上野さんも一緒に食べませんか?」

 彩夏ちゃんとすみれが席を立ちあがった。

「だよねっ。みんなで食べようよ」

 同時に竹中も席を立つ。そして俺も含め全員で上野さんの分のカレーや、別の料理を皿に盛りつけていく。そしてあっという間に1人分の料理がテーブルに増える。これでようやく全員で食べられるわけだ。やっぱりご飯はみんなで楽しく食べないとな。

「皆様、そんな気をつかわなくても良いのですが……」
「駄目ですよ。俺も全員で食べた方が美味しいと思うし、食べましょうよ」
「そうですね。今日はお言葉に甘えて皆様と卓を一緒にさせて頂きますね」

 全員の要望で上野さんも座ると、俺を含めた全員も席に戻った。

 こうして大人数でテーブルを囲むのは、やっぱり楽しいかも知れないな。最近は自宅で食べる時も、家族全員で食べる機会は少ない。と言うより、両親も忙しいし、すみれも部屋で食べているし。かく言う俺もパソコンの前で1人食べる事の方が多いしな。

「それでは皆様いただきましょう」

 上野さんの声を切っ掛けに、

 全員が「いただきまーす!」と言って、料理に手を出していく。

 どの料理も美味しそうだが、やはりメインのシーフードカレーは見ているだけでよだれが出てしまう程だ。料理もこんなに上手とか、さすがメイド長という肩書は伊達じゃない。

「う~ん、このパンプキンのポタージュ、濃厚でおいひぃ~」
「サラダも新鮮でおいしいですのぉ」

 竹中も彩夏ちゃんもサラダやスープを口にして、とろけている。だが俺はまずはカレーを食べるとしよう。やはり男となればカレーが嫌いなやつはいないと思う。カレーは飲み物と呼ばれる程だしな。

 ではさっそくスプーンですくって口に運ぶ。たっぷりイカとタコも乗せていく。隣のすみれも同じカレーを口にしていく。カレーが入った瞬間ほどよい辛さと旨味が口の中に広がっていく。

「うまっー!」
「美味しいー!」

 俺は少し行儀が悪いが、ガツガツとスプーンを運んではカレーをバクバクと食べる。

「も~兄貴、行儀悪いなぁ」
「うるさいな。スプーンが止まらないんだよ。文句を言うなら美味しいカレーに言ってくれ」
「まぁまぁすみれ、良いじゃん。だってこんなに美味しいんだよ」

 竹中もカレーを口いっぱい頬張って食べている。ちょっとはしたないと言いたかったが、俺が言えたものじゃないし、気にしないでおこう。

「あらあら、そんなに美味しそうに食べてくれると作った甲斐がありますね。そんなに急いで食べなくてもお替りはありますから、大丈夫ですよ」

「いつもはわたくし、料理長のばかり食べていましたが、上野さんの料理も料理長顔負けですの」

 こうしてみんな料理を食べ終えると、全員で片づけをする事にしようとした。けれど上野さんはさすがにそれはわたしの仕事だと言い張って、1人でやり始めてしまった。しかしその代り俺に玄関に置いてある袋を取って来て欲しいと頼まれた。

 一体何だろうと思いながら玄関に来ると、隅っこにちょっと大きめな袋が確かに置かれていた。それを持ち上げて、リビングに戻る。

「取って来ましたよ」
「ありがとうございます。では開けてみて下さい」

 中身を開けてみると、そこには色とりどりの花火グッズが入っていた。それを見てソファーで微睡まどろんでいた彩夏ちゃんが、

「花火ですの!」

 と、興奮気味に大きな声を出す。ちょっとびっくりしたが、確かにこれは夏の定番、花火グッズだ。入っている花火の種類も多く、線香花火、ねずみ花火、打ち上げ花火、へび花火、手持ち花火と種類が充実している。これは相当楽しそうだな。

「凄い種類あるよ。おお、これねずみ花火じゃん。ずっこい懐かしい~」
「どうしたんですか、こんなに花火がたくさん」

 すみれが聞くと、

「もともとたくさんこの別荘に余ってまして、期限もまだ大丈夫でしたから、この際皆様に使ってもらおうと思いまして」

 そう言って俺にチャッカマンとバケツを上野さんは渡してきた。外で遊んで来て良いらしい。

「じゃあ早速花火大会ですの」
「なら私はまずは打ち上げ花火でかますよ」

 彩夏ちゃんと竹中が先に外へと出て行ってしまった。

「すみれさんも渉さんも楽しんできてくださいね」
「それじゃお言葉に甘えて私も遊んできますね。さっ、兄貴も行くわよ!」
「手を引っ張るなって」

 すみれが俺の手を引っ張って玄関へと向かおうとする。待て待て、花火が入った袋とバケツを忘れてるぞ。
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