生意気な妹がVTuber活動をやってるなんて、冗談だと言ってほしい!

あすぴりん

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第44話 ボイトレの先生はメイド長の凛々子さん!

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 皆がちょっとびっくりしている最中、上野さんが自ら説明していく。

「びっくりさせてごめんなさい。隠すつもりは無かったのですが、綾那様から驚かせたいとお願いされまして。私は以前プロの声優やナレーターの仕事もしていたのですが、ある事がきっかけで、こちらのサイバーユリカモメへ正社員として雇われたんです。それから色々あって、メイド長兼こちらの社員もやらせて頂いてます」

 とにかく上野さんが今回のボイトレ先生だと言う事らしい。元声優で会社員もやっていて、そしてメイド長って。そもそもメイド長ってだけで不思議な人だったのに、尚更上野さんの経歴を聞くと不思議さが増す。

「上野さんって専属メイド長だけじゃなかったのですの!?」

 どうやら彩夏ちゃんも知らなかったらしい。

「私は姫柊家の専属メイド長ですよ。最初は綾那様のお仕事もお手伝いして欲しいと言われ雇われました。そして私がこちらで働いていた時に、当主である旦那様にメイドとして勧誘されまして、色々あってそちらもやるようになりました」
「確かにいつもいる訳じゃないと思ったら、そうでしたのね」

 淡々と説明するけど、そんな経歴の人って世の中いるんだなって、学生の俺でも驚きを禁じ得ないぞ。まぁ海外とか行けばもっと凄い人はいるんだろうけど、自分の親父おやじとか、知っている限りの世間一般では、多分そういないはず。

「そ、そうなんですね……。上野さんって元々キャリアウーマンって感じがしましたが、それ以上に変わった経歴を持った人だったんですね。あはは……」

 竹中がつい思った事を口にするが、言われた当の本人も「う~ん、確かに言われたらそうなりますね」と、1人頷いている。

「ま、そういう事だから詳しい話は上野さんに何でも任せてるから。後はお願いします。私は下にいるから、何かあったら気軽に呼んでね」

 綾那さんはそう言って部屋を後にした。

「ではすみれさん、竹中さん、彩夏お嬢様。さっそく演技、歌、発声トレーニングをこれからどんな風にやるか、後はどれくらいのスケジュールで刻むかを調整致しましょう。後に軽く今日のトレーニングもやりますから、よろしくお願いします」

 任された上野さんがみんなに個別でスケジュールを取るために、手帳を取り出す。そして女性陣を収録部屋、今はトレーニング部屋へと案内して、すみれ達が部屋に入って行く。しかしそこで俺の方を見て何かに気付いたのか、こっちに向かって来た。

「渉さんにもお話する事がありました。実は渉さんにも彼女たちのトレーニングを、少しでも時間がある時で良いので、見てもらえないでしょうか」
「えっと、それはどうしてですか?」
「そうですね。理由としては、彼女達がどれくらい短期間で成長したか見てもらいたいのと、皆様の気分転換になるって言えば納得出来ますか?」
「手伝える事があるならもちろんやりますよ。事前に呼んでくれればいつでも行きますし」

 俺がみんなの役に立つと言うならば、協力するのは全く問題ないけど、いまいち必要性があるのか少しだけ疑問が浮かぶ。だが上野さんが必要だと言うなら、きっと何かしら意味があるのだろう。

「ありがとうございます。それにそこまで頻繁じゃなくても構いませんからね」
「分かりました」

 それからすみれ達は初めて上野さん指導の下でトレーニングを始めたのだった。腹式呼吸のやり方、簡単な朗読等を今はやっている。この練習で実際の生放送でも何か役に立つかも知れないな。

 俺は別室のモニタールーム越しからみんなが練習する様子を見させてもらった。こうやって一生懸命新しい事を挑戦する様を眺めていると、本当にみんながゲームのヒロインになるのかと、今になって少しだけ実感する。完成したらどんな物が出来上がるのか楽しみだな。

 発売されたらプレイ用と観賞用と保存用を買わないとなぁ、とかひっそり今から考えているのは、誰にも言えないけど。

 初日のトレーニングは2時間程度で終了した。上野さん曰く、本格的にやるなら1日3から4時間はやりたいらしい。歌の練習なら喉の事を考えるともっと少なくても良いけど、演技なのでこれくらいは練習したいとの事。素人には分からないけど、元プロが言うならそうなんだろう。

 全員がトレーニングを終えると、俺のいる部屋にやって来た。初めての事でみんな疲れているのが良く分かる。

「疲れた~。こんなにプロって練習をやっていると思うと、私達はまだまだだねって思うよ~」
「そうだね。これから頑張って恥ずかしくないレベルにしないとね、朱里に彩夏ちゃん」
「はい~。すみれさん。でも放送以外でこんなに声を使ったのは今日が初めてですの~」

 三者三様の感想だけど、とにかく初めてのトレーニングで疲れるのは仕方ない。

「皆様今日はお疲れ様でした。けれど皆さんVTuberをやっているだけだって、筋は悪くないですよ。これなら継続してトレーニングを続ければ十分通用するレベルになると思われます。それに演じるキャラクターはいつもやっているVTuberをモデルとされているので、作られているシナリオは皆さんにはやり易いものかと」

 上野さんも収録部屋から出て来て柔らかい口調で3人の女性陣を評価する。どうやらこの調子で行けば、実際の収録をする時には仕上がると考えているのかも知れない。

「それでは今日は皆さまお疲れ様でした。渉さんもありがとうございました。私はまだやる事がありますので、すぐにみなさんへスケジュール等の連絡をさせて頂きます」

「分かりましたの。先に帰ってますの」
「今日はありがとうございました、上野さん」
「凛々子さんまたよろしくお願いしまーす」

 竹中だけが上野さんに対し親しみを込めて呼ぶと、少しだけ頬を柔らかくして微笑んでくれた。今では頼りになるみんなのお姉さんって感じだな。

「よーっし。今日は頑張ったご褒美に、みんなで帰りにかき氷屋さんに寄って行こうよ!」
「かき氷なら私近くに良い店知ってるよ」
「じゃあ、全員で行きますの。渉さんも行きますのよね?」

 3人が俺の返事を待っている。そうだな、今日はみんな頑張ったし、行くとするか。

「もちろん行くよ」

 全員で収録部屋から出てエレベーターのボタンを竹中が押すと、すぐに到着して扉が開く。

「じゃあ、今日は兄貴の奢りだね」
「え、今日は赤坂君の奢り? ラッキー」
「まぁ、頑張ったわたくし達への労いですのね。さすがマネージャーですの」
「えぇ、まじかよ……」

 その場で止まってしまった俺の足を、強引に3人が押して行きエレベーターへ押し込まれる。

「仕方ない。今日くらい奢ってやるよ」

 後ろで「兄貴ったらちょろすぎ」って小さく聞こえたのは、気のせいにしておこう。

 それから俺達は帰りに、かき氷屋で美味しい氷を堪能してから帰宅した。
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