いぬがみとうま🐾短編集

いぬがみとうま🐾

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(異ファ)『呼吸をした:経験値+100』『瞬きをした:スキル獲得』

第3話 ドラゴンから逃げたら、ソニックブームで世界を救っていた

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 その日、空が燃えた。
 夕焼けではない。紅蓮の炎が天を覆い尽くしたのだ。

 ギルドでの騒動から数時間後。街は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
 上空に顕現したのは、全長百メートルを超える絶望の象徴。
 伝説上の存在とされる『終焉の炎竜(ヴォルカニック・エンペラー)』である。

「グオオオオオオオオッ!!」

 咆哮一発。それだけで大通りの建物がガラス細工のように砕け散る。
 吐き出される熱線は、石畳をマグマへと変え、逃げ惑う人々を絶望の底へ叩き落とした。

「退くな! 俺たちが止めなければ、この街は消滅するぞ!」

 試験官のゴズが叫び、巨大な戦斧を振るう。
 だが、竜の鱗には傷一つ付かない。逆に、竜が尻尾を軽く振っただけで、ゴズの巨体は枯れ葉のように吹き飛ばされた。

「ゴズさん!」

 セラフィナが悲鳴を上げる。
 彼女もまた、満身創痍だった。自慢の白銀の鎧は煤け、愛剣は折れている。
 騎士団の精鋭も、ギルドの上位冒険者たちも、すでに全員が地に伏していた。

(勝てない……。生物としての次元が違いすぎる)

 竜がゆっくりと、その巨大な顎(あぎと)を開いた。喉の奥で、全てを灰にする極大のブレスが輝き始める。

「……アレン様」

 死の淵で、彼女の脳裏に浮かんだのは、あの少年の姿だった。
 彼なら。あの「英雄」なら、この絶望を覆せるかもしれない。
 だが、彼はいない。きっと、民衆を避難させるために奔走しているのだろう。
 
 ――終わりだ。
 セラフィナは目を閉じた。

 その時である。
 戦場と化した広場の片隅、半壊した宿屋のベンチで、誰かが不機嫌そうに身じろぎした。

「……あー、うるさいなぁ。暑いし」

 アレンだった。
 彼は英雄として祭り上げられるのが面倒で、宿屋の裏でこっそり昼寝をしていたのだ。
 だが、あまりの騒音と熱気で目を覚ましてしまった。

「なんだよ、火事か? ……うわ、でっかいトカゲがいる。めんどくさ」

 アレンは炎竜を見上げ、心底嫌そうな顔をした。
 戦う気など毛頭ない。
 こんな災害に関わったら、間違いなく労働を強いられる。勇者として最前線に送られる未来しか見えない。

(帰ろう。今すぐ家に帰って、二度と出てこないようにしよう)

 アレンの決断は早かった。
 彼は竜に背を向けた。
 街の出口は、竜がいる広場の向こう側だ。だが、迂回するのは面倒だ。
 アレンは「全力でダッシュして、一瞬で家に帰る」ことを選択した。

「よっと……逃げるが勝ちってね!」

 アレンが地面を蹴った。
 ただの逃走。

 だが、その「逃げたい」という一心すらも、この狂ったシステムは英雄的な行為として解釈した。

『ピロリンッ♪』

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ㊗ 実績解除:【 全力逃走(本気) 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 ▷ 生存本能のリミッター解除を確認。
 ▷ 素晴らしい危機管理能力です!
 ▷ 判定:【 戦略的超光速・事象離脱 】
 ▷ 報酬:敏捷性(AGI)∞(インフィニティ)
 ▷ 特典スキル:《 因果置き去り(ソニック・ブレイク) 》

 世界から、色が消えた。
 アレン本人にも知覚できない速度。
 彼が一歩を踏み出した瞬間、その質量と速度は物理法則の限界を突破した。

 ドッッッッッッッッッッ!!!

 音すら置き去りにする衝撃波。
 アレンという弾丸が通り抜けた空間が、真空のトンネルとなって破裂した。
 その進路上には、運悪く炎竜がいた。

「グ……?」

 竜は、自分が死んだことすら認識できなかっただろう。
 アレンが駆け抜けた余波――ソニックブーム。
 たったそれだけで、鋼鉄よりも硬い竜の鱗が、肉が、骨が消し飛んだ。
 極大ブレスを吐こうとしていた口腔内に衝撃波が逆流し、竜の体内からまばゆい光が溢れ出す。

 ズドォォォォォォンッ!!

 天を衝くような大爆発。
 だが、不思議と街への被害はなかった。アレンが通り過ぎた後に発生した風圧が、爆炎ごと空の彼方へ吹き飛ばしてしまったからだ。

 数秒後。
 そこには、真っ青に晴れ渡った空と、塵一つ残らず消滅した竜の痕跡だけがあった。

「……え?」

 セラフィナは目を開けた。
 死んでいない。
 目の前にいたはずの絶望が、綺麗さっぱり消えている。

「い、今……何が見えた?」
 倒れていたゴズが、呆然と空を見上げていた。

「光だ……。一筋の閃光が、竜を貫いた……」
「速すぎて目視できなかったが、あれは……アレンか?」
「間違いありません!」

 セラフィナが叫んだ。彼女の目には、涙が溢れていた。
「彼は、瞬で竜を葬り去って風のように去っていったのです!」

 違う。ただ逃げただけだ。
 だが、その真実を知る者は誰もいない。
 静寂は、やがて爆発的な歓声へと変わった。

「英雄だ! 救国の英雄アレンだ!」
「ドラゴンを一撃だって!?」
「神だ! 彼こそが神の使いだ!」

 街中が「アレン」の名を叫び、涙を流して感謝の祈りを捧げている。

 ――一方その頃。
 街から数キロ離れた自宅のベッドに、アレンは頭から突っ込んでいた。

「はー……疲れた。なんか背後で凄い音がしたけど、まあいいや」

 アレンは布団を頭まで被り、安らかな寝息を立て始めた。
 外の世界で、自分の銅像の建立計画が始まり、国王が勲章を持って血眼になって自分を探していることなど、知る由もなく。

 そして。
 アレンの視界の隅で、システムウィンドウが不穏な赤色に明滅し始めたことに、彼はまだ気づいていなかった。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
 ⚠ 実績解除:【 世界を救済 】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 ▷ 対象の愛を確認しました。
 ▷ システム同期率:100%到達。
 ▷ 【 管理者権限(アドミニストレータ) 】 の譲渡を開始します……♡


 
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