いぬがみとうま🐾短編集

いぬがみとうま🐾

文字の大きさ
15 / 41
(異ファ)田舎で幻獣トリミング店を始めた私。捨てられた「ヘドロ」を洗ったら国宝級の聖獣でした

第一話 山奥の行列店と「汚物」の投棄

しおりを挟む
 標高の高いこの山奥には、朝露に濡れた森の香りと、透き通った水のせせらぎが満ちている。

 かつて地下の廃棄処理場で「欠陥品」と蔑まれていた私、ミヤコの新しい職場は、この爽やかな風が吹き抜ける小さな平屋だ。
 軒先には『ミヤコ幻獣トリミング』と書かれた手作りの看板。
 そしてその前には、およそ人里離れた山中とは思えないような、異様な光景が広がっていた。

「はい、お次はケルベロスちゃん。左の頭、耳の裏に脂が溜まってますよ?」

「クゥゥ……」

 三つの頭を持つ巨大な地獄の番犬が、私の前で借りてきた猫のように小さくなっている。
 普通の人なら腰を抜かすような凶悪な牙も、今の私にとっては「磨き甲斐のある歯」でしかない。
 私は特製の低刺激シャンプーを泡立て、三つの首を順番にゴシゴシと洗っていく。

 背後では、看板犬のモップ――その正体は世界を喰らう終焉の獣フェンリル・ヴォイド――が、どっしりと座って行列を監視していた。
 並んでいるのは、雲を突くような巨体のワイバーンや、全身から炎を噴き出すフレイムフェニックス。
 彼らはモップの静かな眼光に射抜かれ、震え上がりながら「お座り」と「待ち」を完璧にこなしている。

「うん! 毛並みがふわふわになったわね。お疲れ様。はい、これ、ご褒美のジャーキー」

「ワフッ!」

 三つの頭が同時にジャーキーを頬張り、嬉しそうに尻尾を振って帰っていく。
 その様子を眺めていた次の客、古龍のグラン龍神が「次はワシの番かのう」と首を伸ばした、その時だった。

 静かな森の空気を切り裂くように、けたたましい轟音が響き渡る。
 現れたのは、銀色に輝く最新鋭の魔導装甲車。
 そこから降りてきたのは、真っ白な軍服に身を包み、嫌なほどツンとした香水の匂いを漂わせた男だった。

「ふん。こんな肥溜めのような場所に、不届き者が潜んでいるとはな」

 男は周囲に並ぶ伝説級の幻獣たちを「野良の雑種」を見るような冷淡な目で見下した。
 彼は手にした鑑定モノクル片眼鏡を指先で弄びながら、私の方へと歩み寄ってくる。

「私は王都幻獣管理本部、特級監査官のサラザールだ。ミヤコ。貴様の営業は未認可であるとの通報を受けた。直ちにこの土地を接収し、営業を停止せよ」

 サラザールと名乗った男は、私の返事も待たずに部下たちへ合図を送る。
 部下たちが手際よく、トリミング用の桶やブラシを足蹴にしていく。
 私は怒りで指先が震えるのを感じた。

「営業停止ですって? ここは私有地です。それに、認可なら旧センターが壊滅した際に特例で受けたはずですが」

「あのようなゴミ捨て場の言い分など通用せんよ。特級監査官である私の言葉が法だ。……それよりも」

 サラザールの視線が、私の隣で欠伸をしていたモップに止まった。
 彼の瞳に、隠しきれない強欲の色が混じる。

「その銀狼。なかなかの器だ。管理不届きの罰として、本国で没収させてもらう」

「モップは私の家族です。没収なんてさせません」

「黙れ。平民が。……ああ、そうだ。廃棄処理係だったお前に、おあつらえ向きの『仕事』を恵んでやろう」

 サラザールは装甲車の後部座席から、一つの小さな檻を取り出した。
 その中に入っていたのは、生き物かどうかも判別できない、どろどろとしたヘドロの塊だった。

 悪臭が鼻を突き、周囲の木々がその気配だけで枯れていくような、禍々しい呪いの波動。

「王宮を巣食っていたゴミだ。鑑定不能、生存価値なし。本来ならその場で焼却するのだが、王宮内で殺生はご法度だからな。せっかくだ。廃棄係らしく、これを廃棄するのがお前の最後の仕事だ」

 サラザールは笑いながら、檻の底に溜まっていた「汚物」を私の店の前にぶちまけた。
 地面に広がった黒い粘液は、じりじりと土を焼き、異様な音を立てている。

「さあ、せいぜいその汚物と仲良くするがいい。接収の手続きが済むまでにな」

 彼は優雅に背を向け、装甲車の中へと消えていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

辺境ギルドの受付嬢ですが、冒険者の嘘は帳簿でぜんぶバレます

蒼月よる
ファンタジー
素材の重さが申告と合わない。鑑定書の書式がおかしい。冒険者が持ち込む報告書には、いつもどこかに嘘がある。 辺境の小さなギルド支部で、受付嬢ナタリアは今日も一人、帳簿を武器に冒険者たちの嘘と向き合っている。剣も魔法も使えない。でも素材を見る目と、数字の辻褄を見抜く勘だけは、誰にも負けない。 持ち込まれた棘鱗の産地が違う。新人冒険者の目が妙に鋭い。腕のいい薬師が素性を隠している。書類を処理するだけの毎日のはずが、カウンターの向こうには不思議な人々と、小さな謎が絶えない。 一話完結の日常謎解き。辺境の受付カウンターから覗く、冒険者たちの嘘と真実の物語。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...