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(異ファ)田舎で幻獣トリミング店を始めた私。捨てられた「ヘドロ」を洗ったら国宝級の聖獣でした
第一話 山奥の行列店と「汚物」の投棄
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標高の高いこの山奥には、朝露に濡れた森の香りと、透き通った水のせせらぎが満ちている。
かつて地下の廃棄処理場で「欠陥品」と蔑まれていた私、ミヤコの新しい職場は、この爽やかな風が吹き抜ける小さな平屋だ。
軒先には『ミヤコ幻獣トリミング』と書かれた手作りの看板。
そしてその前には、およそ人里離れた山中とは思えないような、異様な光景が広がっていた。
「はい、お次はケルベロスちゃん。左の頭、耳の裏に脂が溜まってますよ?」
「クゥゥ……」
三つの頭を持つ巨大な地獄の番犬が、私の前で借りてきた猫のように小さくなっている。
普通の人なら腰を抜かすような凶悪な牙も、今の私にとっては「磨き甲斐のある歯」でしかない。
私は特製の低刺激シャンプーを泡立て、三つの首を順番にゴシゴシと洗っていく。
背後では、看板犬のモップ――その正体は世界を喰らう終焉の獣フェンリル・ヴォイド――が、どっしりと座って行列を監視していた。
並んでいるのは、雲を突くような巨体のワイバーンや、全身から炎を噴き出すフレイムフェニックス。
彼らはモップの静かな眼光に射抜かれ、震え上がりながら「お座り」と「待ち」を完璧にこなしている。
「うん! 毛並みがふわふわになったわね。お疲れ様。はい、これ、ご褒美のジャーキー」
「ワフッ!」
三つの頭が同時にジャーキーを頬張り、嬉しそうに尻尾を振って帰っていく。
その様子を眺めていた次の客、古龍のグラン龍神が「次はワシの番かのう」と首を伸ばした、その時だった。
静かな森の空気を切り裂くように、けたたましい轟音が響き渡る。
現れたのは、銀色に輝く最新鋭の魔導装甲車。
そこから降りてきたのは、真っ白な軍服に身を包み、嫌なほどツンとした香水の匂いを漂わせた男だった。
「ふん。こんな肥溜めのような場所に、不届き者が潜んでいるとはな」
男は周囲に並ぶ伝説級の幻獣たちを「野良の雑種」を見るような冷淡な目で見下した。
彼は手にした鑑定モノクルを指先で弄びながら、私の方へと歩み寄ってくる。
「私は王都幻獣管理本部、特級監査官のサラザールだ。ミヤコ。貴様の営業は未認可であるとの通報を受けた。直ちにこの土地を接収し、営業を停止せよ」
サラザールと名乗った男は、私の返事も待たずに部下たちへ合図を送る。
部下たちが手際よく、トリミング用の桶やブラシを足蹴にしていく。
私は怒りで指先が震えるのを感じた。
「営業停止ですって? ここは私有地です。それに、認可なら旧センターが壊滅した際に特例で受けたはずですが」
「あのようなゴミ捨て場の言い分など通用せんよ。特級監査官である私の言葉が法だ。……それよりも」
サラザールの視線が、私の隣で欠伸をしていたモップに止まった。
彼の瞳に、隠しきれない強欲の色が混じる。
「その銀狼。なかなかの器だ。管理不届きの罰として、本国で没収させてもらう」
「モップは私の家族です。没収なんてさせません」
「黙れ。平民が。……ああ、そうだ。廃棄処理係だったお前に、おあつらえ向きの『仕事』を恵んでやろう」
サラザールは装甲車の後部座席から、一つの小さな檻を取り出した。
その中に入っていたのは、生き物かどうかも判別できない、どろどろとしたヘドロの塊だった。
悪臭が鼻を突き、周囲の木々がその気配だけで枯れていくような、禍々しい呪いの波動。
「王宮を巣食っていたゴミだ。鑑定不能、生存価値なし。本来ならその場で焼却するのだが、王宮内で殺生はご法度だからな。せっかくだ。廃棄係らしく、これを廃棄するのがお前の最後の仕事だ」
サラザールは笑いながら、檻の底に溜まっていた「汚物」を私の店の前にぶちまけた。
地面に広がった黒い粘液は、じりじりと土を焼き、異様な音を立てている。
「さあ、せいぜいその汚物と仲良くするがいい。接収の手続きが済むまでにな」
彼は優雅に背を向け、装甲車の中へと消えていった。
かつて地下の廃棄処理場で「欠陥品」と蔑まれていた私、ミヤコの新しい職場は、この爽やかな風が吹き抜ける小さな平屋だ。
軒先には『ミヤコ幻獣トリミング』と書かれた手作りの看板。
そしてその前には、およそ人里離れた山中とは思えないような、異様な光景が広がっていた。
「はい、お次はケルベロスちゃん。左の頭、耳の裏に脂が溜まってますよ?」
「クゥゥ……」
三つの頭を持つ巨大な地獄の番犬が、私の前で借りてきた猫のように小さくなっている。
普通の人なら腰を抜かすような凶悪な牙も、今の私にとっては「磨き甲斐のある歯」でしかない。
私は特製の低刺激シャンプーを泡立て、三つの首を順番にゴシゴシと洗っていく。
背後では、看板犬のモップ――その正体は世界を喰らう終焉の獣フェンリル・ヴォイド――が、どっしりと座って行列を監視していた。
並んでいるのは、雲を突くような巨体のワイバーンや、全身から炎を噴き出すフレイムフェニックス。
彼らはモップの静かな眼光に射抜かれ、震え上がりながら「お座り」と「待ち」を完璧にこなしている。
「うん! 毛並みがふわふわになったわね。お疲れ様。はい、これ、ご褒美のジャーキー」
「ワフッ!」
三つの頭が同時にジャーキーを頬張り、嬉しそうに尻尾を振って帰っていく。
その様子を眺めていた次の客、古龍のグラン龍神が「次はワシの番かのう」と首を伸ばした、その時だった。
静かな森の空気を切り裂くように、けたたましい轟音が響き渡る。
現れたのは、銀色に輝く最新鋭の魔導装甲車。
そこから降りてきたのは、真っ白な軍服に身を包み、嫌なほどツンとした香水の匂いを漂わせた男だった。
「ふん。こんな肥溜めのような場所に、不届き者が潜んでいるとはな」
男は周囲に並ぶ伝説級の幻獣たちを「野良の雑種」を見るような冷淡な目で見下した。
彼は手にした鑑定モノクルを指先で弄びながら、私の方へと歩み寄ってくる。
「私は王都幻獣管理本部、特級監査官のサラザールだ。ミヤコ。貴様の営業は未認可であるとの通報を受けた。直ちにこの土地を接収し、営業を停止せよ」
サラザールと名乗った男は、私の返事も待たずに部下たちへ合図を送る。
部下たちが手際よく、トリミング用の桶やブラシを足蹴にしていく。
私は怒りで指先が震えるのを感じた。
「営業停止ですって? ここは私有地です。それに、認可なら旧センターが壊滅した際に特例で受けたはずですが」
「あのようなゴミ捨て場の言い分など通用せんよ。特級監査官である私の言葉が法だ。……それよりも」
サラザールの視線が、私の隣で欠伸をしていたモップに止まった。
彼の瞳に、隠しきれない強欲の色が混じる。
「その銀狼。なかなかの器だ。管理不届きの罰として、本国で没収させてもらう」
「モップは私の家族です。没収なんてさせません」
「黙れ。平民が。……ああ、そうだ。廃棄処理係だったお前に、おあつらえ向きの『仕事』を恵んでやろう」
サラザールは装甲車の後部座席から、一つの小さな檻を取り出した。
その中に入っていたのは、生き物かどうかも判別できない、どろどろとしたヘドロの塊だった。
悪臭が鼻を突き、周囲の木々がその気配だけで枯れていくような、禍々しい呪いの波動。
「王宮を巣食っていたゴミだ。鑑定不能、生存価値なし。本来ならその場で焼却するのだが、王宮内で殺生はご法度だからな。せっかくだ。廃棄係らしく、これを廃棄するのがお前の最後の仕事だ」
サラザールは笑いながら、檻の底に溜まっていた「汚物」を私の店の前にぶちまけた。
地面に広がった黒い粘液は、じりじりと土を焼き、異様な音を立てている。
「さあ、せいぜいその汚物と仲良くするがいい。接収の手続きが済むまでにな」
彼は優雅に背を向け、装甲車の中へと消えていった。
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