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第六章 商人と剣術
068 商人剣術
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商人剣術には二つの流派が混ざっている。だからそれを分けて、一つの流派を習得すれば技倆がより上がるのではないか。昨日アーサーとスクロードが話していた「商人剣術」の話は、剣技が伸び悩んでいた俺にとって魅力的な話だった。そのために「商人秘術大全」の原本と俺の訳文を比較したいという話があったのだが、その約束を明後日にしたのは理由がある。
事前に剣術について調べておきたかったからだ。俺は『商人秘術大全』以外の剣術文献を見ていないし、見たことはない。というのも商人には剣術自体の取得が不可能とされていたからである。できないものは見るだけ無駄という心理が働き、全く目を通したことがないのだ。だから三限目が終わるとすぐさま図書館に入り、幾つかの剣術本を手にとった。
剣の構造や製造法、剣の種類、剣の種類別の剣術理論や剣と防具の組み合わせの解説など、ひと括りに剣術と言うが、その記述される本のジャンルは多岐にわたる。その中でも特に俺が興味を持ったのは、剣と刀の構造の違いについて解説している本で、どうして商人剣術が剣士に不向きなのかが理解できるものだった。
商人剣術で使うものは刀で、片一方にしか刃がない片刃。対して剣は両刃。斬ることに関しては刀が一日の長がある。というのも刀は刃に合わせて湾曲しており、滑らかに斬る事ができる。対して剣は両刃故にストレートな構造で、「斬る」事に関して言えば刀の威力に劣る。刀が「斬る」に対して、剣は「切る」なのだ。
対して剣が優位に立つのは「突き」や「叩き」だ。両刃のため突いて抜く剣技に向き、太さ厚さに余裕があるため、甲冑越しに剣で叩きつけ相手にダメージを与え、その後にトドメを刺すという戦い方ができる。また、相手の剣を受ける術も、剣身を大きくできる剣の方に軍配が上がる。
目を通す本に記述されているもの一つ一つがよく理解ができる。それはこれまで独自に鍛錬を積んだことに加え、決闘や『実技対抗戦』で経験を積んだからであろう。おそらく実戦経験を積んでなければ、ここまで理解しえなかったのは間違いない。何事も一日にしては成らずということだ。
商人剣術に合った刀も必要となる。確か『商人秘術大全』には、刀の鍛造法の記述もあったはず。図書館にある鍛造法の本と合わせて読み、鍛冶ギルドにかけあって、俺の戦い方に合った刀を作らなければならないだろう。
(よし、今度鍛冶ギルドに行って注文しよう)
「グ・レ・ン・♪」
はっ、として後ろを振り向くとそこにはアイリがいた。もうそんな時間なのか。
「珍しいですよね。立ち読みなんて」
いつものようにニッコリと微笑んでくる。俺はいつもの指定席に行こうと、アイリを誘った。
「この前はありがとうございます。とても楽しかったです」
お互い椅子に座るとアイリは丁寧に頭を下げてきた。
「アイリは疲れてないかい」
「大丈夫です。でもあんな速さで馬車を走らすなんて凄いですよね」
アイリが驚く高速馬車。あれは俺と運行業者が意見を交わして始めたもので、費用は高額なのだが、既に一部の貴族が使っているものだ。馬車に先行して早馬を走らせ、次の馬車駅で馬を用意しておき、馬を間断なく入れ替えて走り続ける事でスピードを上げ、連続走行が不安視されている貨車については複数用意することで、その問題を解決している。
その分、携わる人も多く、事前の運行設計などといった手間がかかるのがネックだが、「時は金なり」と思っている人には福音をもたらす。現に往復八日かかるモンセル王都間を僅か二日で走り抜け、移動と合わせて四日間でリサの説得とダンジョン攻略を行っているのだから、カネを出した以上の価値はあるだろう。
「いつでも誰でも使うことができるという訳じゃないのが弱点だけどな」
「でも私、次に帰る時には高速馬車までは言いませんが、高くても貸切馬車にしようと思いました。もうすぐ『シーズン』ですし」
シーズンかぁ。貴族が集まってドンチャンする季節。何をするのか知らんがレティは大変だと言っていた。貴族にとっては重要な時期なんだろうが、俺ら平民には無関係だもんな。
「アイリは帰るのかい」
「はい。休日が長いらしいですし」
じゃあ、暫くお別れだなというと、アイリは複雑そうな顔をした。うーん、どう言えばよかったのか。そうだ、鍛冶ギルドに行くため街に出るから誘ってみよう。
「今度、鍛冶ギルドに用があるんだけど、一緒に行くか?」
「鍛冶ギルド、ですか・・・・・」
「この前の『実技対抗戦』で、自分だけの刀が必要だと感じたんだ。だから作ってもらおうと思って。それを注文しに街に出るから、一緒にどうかな、と思って・・・・・」
俺はこれまでの経緯と、アーサーやスクロードとのやり取りについてアイリに話す。アイリも俺の剣術を知っているから興味深く聞いてくれた。
「だったら行きます! 行きましょう」
アイリが予想外に元気になった。よかった。でも何だろう、この気分。昔、佳奈と付き合っていた頃のデートのような感覚だな。
「仕方がないですよね、それは。でもお出かけ楽しみにしています」
「俺も楽しみだよ」
微笑むアイリを見ると心底そう言える。なんなんだろうなぁ。年甲斐もなくときめくようなこの感覚は。佳奈とは違った何かを感じるんだよなぁ。
俺たちはその後、読書をそっちのけで歓談した。これじゃ図書館じゃなくてもいいのではと思うが、人気がないので、いつも混んでいるスイーツ屋より、こちらの方が話しやすい。アイリには商人剣術について調べるため、今週は図書館に来ることができないかもと告げて、一緒に図書館を出た。
アーサーとスクローズとの約束、『商人秘術大全』の写本を見せるため、初めて自学室ところに入った。この自学室というのはゲーム『エレノオーレ!』では登場していない部屋。その自学室、数人が打ち合わせすることができる小部屋で、現実世界のミーティングルームそのままだ。
周りもこういう部屋がいくつもあり、器楽室と同様、生徒が自由に借りることができるようになっているという。アーサーによると自習として使うのはもちろん、打ち合わせにも使われているらしい。
「『実技対抗戦』のときはよく使われていたんだ」
スクロードが説明してくれた。ただ壁が薄く声が通るらしく、小声で言ったほうがいいよとも伝えてくれた。それだったら俺の打ち合わせには使えないな。そんなことを思いつつ、商人特殊技能【収納】で『商人秘術大全』の写本を取り出して広げた。
「これが原本・・・・・」
「凄い・・・・・」
スクロードもアーサーも声を抑えながらも興奮した口調で呟いた。本の読み方について二人に指摘した。
「この本、本の開き方がこっちの本とは逆なんだ。あと字が横書きじゃなくて、縦書き」
「え! そうなんだ・・・・・」
「そんな本、見たことないぞ!」
驚きながら、二人とも『商人秘術大全』に釘付けだ。だが書かれているのは日本語。全く読めないだろう。
「グレン。お前これ全部読めるのか」
「ああ。写本しているし」
「こんな魔導書みたいな本を・・・・・」
「魔導書?」
スクロードの言葉が俺の耳に留まった。魔導書。どんな本なんだ?
「見たことあるのか?」
「いや見たことはないよ。でも誰も読めない本らしい」
そういう本があるのか。そんな事を思っていたら、アーサーが写本と訳文の対比がしたいと言ってきた。俺は二人が指摘する訳文に対応する写本の位置を教えていく。
「本当に凄いな。これを全部読めるんだ」
「僕なんか全然理解できないのに」
アーサーが驚きの声をあげ、スクロードが唖然としている。いやいや、俺にとっては日本語の方がホームグラウンドだから。
「この部分はどういう意味なの」
スクロードが俺が訳文で飛ばした部分を指摘した。俺は写本の該当部「割時悟味之事」を指差した。
「これは古語の古典だ。俺も読めない、というか意味が分からない。字面から直訳すると「時を割って味を悟る事」となる」
「こんな見たこともない文字よりも更に古い言葉があるなんて・・・・・」
スクロードは困惑している。俺は現代文は読めても、古典の意味までは分からない。
「でも、これは『剣の極意』だよね」
「ああ。だから応急的な翻訳として「時を刻んで真理を悟る」なのではと読んだ」
時間を細かく刻めば、俊敏に、より俊敏に動くことができる。相手より速く動き、相手より速く刀を下ろす。だから勝つことができる。そういう文言だと勝手に解釈していた。
「難しいな。俺の理解を超えてるよ」
アーサーが頭を抱えるのは分かる。日本語で書かれているはずなのに、読める俺が理解できない部分があるのだから。結局、俺たちはこの部分を触らずに作業を進めていった。スクロードが淡々と訳文の該当部を指摘し、俺は写本を指差して説明していく。そしてアーサーが書き留める。ひたすらそれを続けていったのだが、突然スクロードの指が止まった。
「これ、なに?」
「雲耀と書いてある。意味は分からない」
文面から先程の「割時悟味之事」と繋がっている。左臂切断、横指横切、磯月、雲耀と書き連ねられているが、古文が如く書かれているのでまるで意味がわからないのだ。
「この『寄足の法則』っていうのは・・・・・」
「俺もイマイチ理解できてはいないのだが、二歩半の距離を神速で動くという意味だと捉えている」
「要は相手より速く動いて、上から俊敏に斬るという術だな」
俺が理解できない部分をアーサーが解説してくれた。俺のこれまでの動きを見ての事だというのだが、こうして聞くと何か奥が深いように感じられる。そんなやり取りをしていたら、スクロードが訳文の空欄の場所には何が書かれていたのか聞いてきた。
そこは構えの名称と思われる場所、これが空欄にしたところだった。俺が『商人秘術大全』の当該場所を探すと、そこには「蜻蛉」という漢字が書かれていた。確か読めなかったから空欄にしたのだ。
「なんて読むんだ?」
「わからない。虫偏だから虫であることはまちがいないんだが・・・・・」
俺は「蜻蛉」の偏の部分を指差し、これが虫という字だと教えた。二人がこんなものでわかるんだと妙に感心している。だが俺もこの字が読めない。見たことがあるが、わからないのだ。
「蜻蛉を取る、と書かれていることになるんだけど、何を取るのかわからない」
スクロードが困惑している。俺は固有名詞だからパスしてもいいのではと言うと、思い出したら言って欲しいと頼んできた。俺は思い出せるか分からないが、と前置きしつつ了解する。この日、全ての対比を終わらせる事ができず、結局翌日までかかった。そして実技で確認する運びとなったのである。
事前に剣術について調べておきたかったからだ。俺は『商人秘術大全』以外の剣術文献を見ていないし、見たことはない。というのも商人には剣術自体の取得が不可能とされていたからである。できないものは見るだけ無駄という心理が働き、全く目を通したことがないのだ。だから三限目が終わるとすぐさま図書館に入り、幾つかの剣術本を手にとった。
剣の構造や製造法、剣の種類、剣の種類別の剣術理論や剣と防具の組み合わせの解説など、ひと括りに剣術と言うが、その記述される本のジャンルは多岐にわたる。その中でも特に俺が興味を持ったのは、剣と刀の構造の違いについて解説している本で、どうして商人剣術が剣士に不向きなのかが理解できるものだった。
商人剣術で使うものは刀で、片一方にしか刃がない片刃。対して剣は両刃。斬ることに関しては刀が一日の長がある。というのも刀は刃に合わせて湾曲しており、滑らかに斬る事ができる。対して剣は両刃故にストレートな構造で、「斬る」事に関して言えば刀の威力に劣る。刀が「斬る」に対して、剣は「切る」なのだ。
対して剣が優位に立つのは「突き」や「叩き」だ。両刃のため突いて抜く剣技に向き、太さ厚さに余裕があるため、甲冑越しに剣で叩きつけ相手にダメージを与え、その後にトドメを刺すという戦い方ができる。また、相手の剣を受ける術も、剣身を大きくできる剣の方に軍配が上がる。
目を通す本に記述されているもの一つ一つがよく理解ができる。それはこれまで独自に鍛錬を積んだことに加え、決闘や『実技対抗戦』で経験を積んだからであろう。おそらく実戦経験を積んでなければ、ここまで理解しえなかったのは間違いない。何事も一日にしては成らずということだ。
商人剣術に合った刀も必要となる。確か『商人秘術大全』には、刀の鍛造法の記述もあったはず。図書館にある鍛造法の本と合わせて読み、鍛冶ギルドにかけあって、俺の戦い方に合った刀を作らなければならないだろう。
(よし、今度鍛冶ギルドに行って注文しよう)
「グ・レ・ン・♪」
はっ、として後ろを振り向くとそこにはアイリがいた。もうそんな時間なのか。
「珍しいですよね。立ち読みなんて」
いつものようにニッコリと微笑んでくる。俺はいつもの指定席に行こうと、アイリを誘った。
「この前はありがとうございます。とても楽しかったです」
お互い椅子に座るとアイリは丁寧に頭を下げてきた。
「アイリは疲れてないかい」
「大丈夫です。でもあんな速さで馬車を走らすなんて凄いですよね」
アイリが驚く高速馬車。あれは俺と運行業者が意見を交わして始めたもので、費用は高額なのだが、既に一部の貴族が使っているものだ。馬車に先行して早馬を走らせ、次の馬車駅で馬を用意しておき、馬を間断なく入れ替えて走り続ける事でスピードを上げ、連続走行が不安視されている貨車については複数用意することで、その問題を解決している。
その分、携わる人も多く、事前の運行設計などといった手間がかかるのがネックだが、「時は金なり」と思っている人には福音をもたらす。現に往復八日かかるモンセル王都間を僅か二日で走り抜け、移動と合わせて四日間でリサの説得とダンジョン攻略を行っているのだから、カネを出した以上の価値はあるだろう。
「いつでも誰でも使うことができるという訳じゃないのが弱点だけどな」
「でも私、次に帰る時には高速馬車までは言いませんが、高くても貸切馬車にしようと思いました。もうすぐ『シーズン』ですし」
シーズンかぁ。貴族が集まってドンチャンする季節。何をするのか知らんがレティは大変だと言っていた。貴族にとっては重要な時期なんだろうが、俺ら平民には無関係だもんな。
「アイリは帰るのかい」
「はい。休日が長いらしいですし」
じゃあ、暫くお別れだなというと、アイリは複雑そうな顔をした。うーん、どう言えばよかったのか。そうだ、鍛冶ギルドに行くため街に出るから誘ってみよう。
「今度、鍛冶ギルドに用があるんだけど、一緒に行くか?」
「鍛冶ギルド、ですか・・・・・」
「この前の『実技対抗戦』で、自分だけの刀が必要だと感じたんだ。だから作ってもらおうと思って。それを注文しに街に出るから、一緒にどうかな、と思って・・・・・」
俺はこれまでの経緯と、アーサーやスクロードとのやり取りについてアイリに話す。アイリも俺の剣術を知っているから興味深く聞いてくれた。
「だったら行きます! 行きましょう」
アイリが予想外に元気になった。よかった。でも何だろう、この気分。昔、佳奈と付き合っていた頃のデートのような感覚だな。
「仕方がないですよね、それは。でもお出かけ楽しみにしています」
「俺も楽しみだよ」
微笑むアイリを見ると心底そう言える。なんなんだろうなぁ。年甲斐もなくときめくようなこの感覚は。佳奈とは違った何かを感じるんだよなぁ。
俺たちはその後、読書をそっちのけで歓談した。これじゃ図書館じゃなくてもいいのではと思うが、人気がないので、いつも混んでいるスイーツ屋より、こちらの方が話しやすい。アイリには商人剣術について調べるため、今週は図書館に来ることができないかもと告げて、一緒に図書館を出た。
アーサーとスクローズとの約束、『商人秘術大全』の写本を見せるため、初めて自学室ところに入った。この自学室というのはゲーム『エレノオーレ!』では登場していない部屋。その自学室、数人が打ち合わせすることができる小部屋で、現実世界のミーティングルームそのままだ。
周りもこういう部屋がいくつもあり、器楽室と同様、生徒が自由に借りることができるようになっているという。アーサーによると自習として使うのはもちろん、打ち合わせにも使われているらしい。
「『実技対抗戦』のときはよく使われていたんだ」
スクロードが説明してくれた。ただ壁が薄く声が通るらしく、小声で言ったほうがいいよとも伝えてくれた。それだったら俺の打ち合わせには使えないな。そんなことを思いつつ、商人特殊技能【収納】で『商人秘術大全』の写本を取り出して広げた。
「これが原本・・・・・」
「凄い・・・・・」
スクロードもアーサーも声を抑えながらも興奮した口調で呟いた。本の読み方について二人に指摘した。
「この本、本の開き方がこっちの本とは逆なんだ。あと字が横書きじゃなくて、縦書き」
「え! そうなんだ・・・・・」
「そんな本、見たことないぞ!」
驚きながら、二人とも『商人秘術大全』に釘付けだ。だが書かれているのは日本語。全く読めないだろう。
「グレン。お前これ全部読めるのか」
「ああ。写本しているし」
「こんな魔導書みたいな本を・・・・・」
「魔導書?」
スクロードの言葉が俺の耳に留まった。魔導書。どんな本なんだ?
「見たことあるのか?」
「いや見たことはないよ。でも誰も読めない本らしい」
そういう本があるのか。そんな事を思っていたら、アーサーが写本と訳文の対比がしたいと言ってきた。俺は二人が指摘する訳文に対応する写本の位置を教えていく。
「本当に凄いな。これを全部読めるんだ」
「僕なんか全然理解できないのに」
アーサーが驚きの声をあげ、スクロードが唖然としている。いやいや、俺にとっては日本語の方がホームグラウンドだから。
「この部分はどういう意味なの」
スクロードが俺が訳文で飛ばした部分を指摘した。俺は写本の該当部「割時悟味之事」を指差した。
「これは古語の古典だ。俺も読めない、というか意味が分からない。字面から直訳すると「時を割って味を悟る事」となる」
「こんな見たこともない文字よりも更に古い言葉があるなんて・・・・・」
スクロードは困惑している。俺は現代文は読めても、古典の意味までは分からない。
「でも、これは『剣の極意』だよね」
「ああ。だから応急的な翻訳として「時を刻んで真理を悟る」なのではと読んだ」
時間を細かく刻めば、俊敏に、より俊敏に動くことができる。相手より速く動き、相手より速く刀を下ろす。だから勝つことができる。そういう文言だと勝手に解釈していた。
「難しいな。俺の理解を超えてるよ」
アーサーが頭を抱えるのは分かる。日本語で書かれているはずなのに、読める俺が理解できない部分があるのだから。結局、俺たちはこの部分を触らずに作業を進めていった。スクロードが淡々と訳文の該当部を指摘し、俺は写本を指差して説明していく。そしてアーサーが書き留める。ひたすらそれを続けていったのだが、突然スクロードの指が止まった。
「これ、なに?」
「雲耀と書いてある。意味は分からない」
文面から先程の「割時悟味之事」と繋がっている。左臂切断、横指横切、磯月、雲耀と書き連ねられているが、古文が如く書かれているのでまるで意味がわからないのだ。
「この『寄足の法則』っていうのは・・・・・」
「俺もイマイチ理解できてはいないのだが、二歩半の距離を神速で動くという意味だと捉えている」
「要は相手より速く動いて、上から俊敏に斬るという術だな」
俺が理解できない部分をアーサーが解説してくれた。俺のこれまでの動きを見ての事だというのだが、こうして聞くと何か奥が深いように感じられる。そんなやり取りをしていたら、スクロードが訳文の空欄の場所には何が書かれていたのか聞いてきた。
そこは構えの名称と思われる場所、これが空欄にしたところだった。俺が『商人秘術大全』の当該場所を探すと、そこには「蜻蛉」という漢字が書かれていた。確か読めなかったから空欄にしたのだ。
「なんて読むんだ?」
「わからない。虫偏だから虫であることはまちがいないんだが・・・・・」
俺は「蜻蛉」の偏の部分を指差し、これが虫という字だと教えた。二人がこんなものでわかるんだと妙に感心している。だが俺もこの字が読めない。見たことがあるが、わからないのだ。
「蜻蛉を取る、と書かれていることになるんだけど、何を取るのかわからない」
スクロードが困惑している。俺は固有名詞だからパスしてもいいのではと言うと、思い出したら言って欲しいと頼んできた。俺は思い出せるか分からないが、と前置きしつつ了解する。この日、全ての対比を終わらせる事ができず、結局翌日までかかった。そして実技で確認する運びとなったのである。
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