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第六章 商人と剣術
069 立木と横木
夕方、学食「ロタスティ」にリサの姿があった。今日、屋敷の改装工事の打ち合わせがあり、そのついでにこちらに顔を出してきたのである。俺とリサは取っていた個室に入り、招待している客人を待った。
「ごめんね、グレン。ちょっと遅くなって・・・・・」
「おお、すまんクルト。急な話で」
クルトをよく見ると、少し戸惑った顔をしている。クルトの後ろを見ると見慣れた人影があった。
(コレットか)
どういう訳なのか、クルトとコレットが一緒にいる。
「いいかなぁ」
クルトが言ってきた。ま、コレットだったらいいだろう。俺が返事をすると、二人が入ってきたが、今度は入ってきた二人の方が驚いている。リサの存在自体と、パンツ姿でいるリサの格好、その両方だろう。
「お、紹介するぞ。姉のリサだ」
「リサです。宜しくおねがいします」
「グレンの?」
「え、お姉さん!」
クルトもグリーンウォルドも驚いている。リサにその二人、クルト・ウインズとコレット・グリーンウォルドを紹介すると、全員に椅子に座るように言って、給仕にコース料理とワインを持ってくるように頼んだ。
「お二人はお付き合いをされているのですね」
食事の最中、リサのいきなりの直球勝負に二人は思わず噴き出した。
「いえ、そうじゃ・・・・・」
「・・・・・違いますから」
クルトとコレットはそれぞれ顔を真っ赤にしながら否定した。
「そうですか。お二人とも、お出来になるになられるような感じでしたので」
ニコニコしながらリサは言う。顔は笑っているが、文言はどこか刺々しい。それがリサなのだが。さぁ、どうする二人。俺はワインを片手に高みの見物とすることにした。
「ウインズ君には相談に乗ってもらっていました」
先に切り出したのはコレットの方だった。
「先日、クリスティーナ様からのお話にあった『学生のための企画』について相談していましたら、グレンと会うとウインズ君が仰ったもので、一緒に行って話がしたいと私からお願いしました」
さすが学年首席の学年代表、実に模範的な回答ではないか。例の『セイラ基金』を使った企画というのなら、クリスも喜ぶだろう。
「そこでお出来になるウインズさんにお話を持っていかれたのですね」
ヒデーーーーー! ワイン片手にニコニコ顔を崩さず、しっかり自分の言葉に話を戻すリサの手口。二人はまた顔を真っ赤にして、視線を落としている。分かっちゃいるけど、レティとは違った意味での悪魔だな、コイツは。俺は助け舟を出す。
「で、どんな企画を考えたんだ? クルト」
「あ、うん。身分差の垣根を取り払った『学園懇親会』のようなものをやればいいのではと」
「普段、身分違いで話をする機会も少ないですから」
クルトの説明にコレットがつかさずフォローを入れる。まぁ、リサじゃないが、この二人、お似合いと言ったらお似合いだ。
「それでしたら共同参加の簡単な『催しもの』を考えるのも一法ですわね」
「だったら繁華街の店に屋台を出してもらう、というのもアリだな」
「うあぁぁぁ、いいですね、その案」
俺らの話にコレットが目を輝かせている。企画話をクルトに持ち込んだのは本当なのだろう。趣旨自体は素晴らしいし、くだらない学園には勿体ないくらいの企画だ。クリスもおそらく喜ぶんじゃないか。そこから四人であれやこれやと案が出たあと、リサが言った。
「グリーンウォルドさん。先に今日の案を令嬢にお出しになってから、内容を詰められたらよろしいですわ。私も微力ながらグレンを通じで協力させていただきますので」
「本当ですか。心強いです。リサさん、また相談に乗って下さい」
コレットが頭を下げると、リサはもちろんと応じる。言い出したのはリサなのだから、当然だろう。そのリサはワインを一口飲むと、俺に声をかけてきた。
「明日には工事に入るわ」
速いな。俺が呟くとリサは工程表を差し出した。それによると工事は六期に分割、実施も幾つかの業者に分けるらしい。業者人員はモンセルから、資材はウィルゴットを通じてジェドラ商会から仕入れるようにしたとの事である。やはりリサ、仕事が速い。片道四日かかるモンセルから人員を揃えて造作させるのは容易な段取りじゃないだろうに。
「全部で二〇〇日程度かかるわ。一期が終わるのは二〇日後の予定。私の居住空間とグレンの執務室よ」
「住みながら工事を続けるということだな」
合理的でしょ。リサは言った。リサは根っからの合理主義者。無駄だと思ったことは一切しない人間だ。だから改装工事をしながら住むといった、普通の人ではあまり考えない選択を普通に採るのだ。俺とリサがやり取り見ていたコレットが話しかけてきた。
「まるでグレンが上司でリサさんがまるで部下のように見えます」
「そうよ。今、私が仕事ができるのはグレンのお陰だもの」
「おいおい、そこまでは言いすぎだろ」
「いえ、違うわ。もしグレンがいなかったら出来なかったわ。女だから」
リサの言葉にコレットは下を向いた。何か心当たりがあるのだろう。エレノ世界は現実世界に比べて男尊女卑がキツイからな。質が違うかもしれんが。
「だから私は仕事ができるのであれば喜んで部下になるわ。理解がある上司と理解がない上司であれば、理解がある上司を選ぶのが当然の選択よ」
「はい。分かります」
リサの言葉に合点がいったというような顔で返事をするコレット。リサの言葉の裏にザルツに対する複雑な感覚を読み取った俺は、危険を察知してワインを口に含ませつつ、素早く話題を変えた。
「ところで、今日の本題なんだがクルトに一つ頼みがある」
「クルトのお父さんを紹介してもらえないか?」
「えっ?」
クルトは俺のいきなりの申し出に驚いている。するとリサが大きな封筒を【収納】で取り出し、クルトに渡した。
「これをお父様にお届けしてほしいの」
受け取った封筒に封がされていない事に気付いたクルトが、中を見てもいいかと尋ねてきた。俺が頷くと、クルトは中の書類を取り出して通読した。
「これは・・・・・」
「金利上限案の書類一式だ」
俺は説明した。『金融ギルド』の趣旨と仕組み、そして課題と、要求について等々、一通りの話をすると、クルトは口を開く。
「つまり国に貸出金利の上限を作って欲しいということなんだね」
「こんな大事な話、私が聞いても良かったんですか?」
「構わないよ。他言しなければだけど」
俺はコレットに口止めした。まぁコレットは賢いから、口止めする心配もないとは思うが。クルトの方を見て俺は言った。
「どうだ? やってくれるか」
「うん、渡すよ。先週も『金融ギルド』の話を熱心にしていたから」
「そうなのか」
予想外の話だった。王国の財政部門の人間が『金融ギルド』の話に興味を持っているとは思っていなかったからだ。
「だから、お父さんは絶対に読むと思うよ。期待に添えるかどうかはわからないけれど」
「それだけやってくれたら十分だ」
リサが話がまとまったので乾杯しましょう、と音頭を取った。俺たち四人はグラスを高々と掲げてワインを飲み干し、工作の成功を祈念した。
――翌日の放課後。『横木打ち』の実際がどうであるのかを確認するため、みんなで鍛錬場に向かう。すると鍛錬していたドーベルウィンが俺たちを見つけ、こちらにやってきた。
「これから何をするんだ?」
呑気な口調で興味深そうに見てくるドーベルウィンは、スクロードの説明を聞いている。するとドーベルウィンは俺も見せて欲しいというので、アーサーらと共に『横木打ち』の試し打ちに立ち会うことになった。
『商人秘術大全』に書かれている要領で数本のイスノキの枝を束ねて、左右に受けを配し、その上に束ねた枝を置いた。俺は記述されている持ち方と構えで腰を落とし、枝先を天に向け、一気に束ねた枝に叩きつける。
「キィヤァァァァ!!!」
ひたすらそれを繰り返す。人の視線が俺の身体に突き刺さるが、俺は気にも留めず、狂ったように打ち続ける。キツイ。これはキツイ。というのも曲げた膝や腰に負担がかかる。俺は百本程度打ちこんだ後、一旦止めた。
「見た感じどうだ?」
アーサーとスクロードに感想を求める。
「いやぁ、立木打ちよりもキツそうだ」
「天から地面まで剣を一気に斬り下ろす感じだよね」
「グレンはどう思ったんだ」
アーサーから感想を求められた。
「膝と腰の負担が大きい。確かに打ち込みの力を要するのはこちらの方だが、体の負担は立木打ちの方が少ないんじゃないか」
「剣で立位じゃない位置での訓練法自体が珍しいからね」
俺の感想にスクロードが答えていると、俺たちの元にある人物が近づいてきた。ブラウンの髪にイカツイ体をした男子生徒。『実技対抗戦』で戦った剣豪騎士カインである。
「ごめんね、グレン。ちょっと遅くなって・・・・・」
「おお、すまんクルト。急な話で」
クルトをよく見ると、少し戸惑った顔をしている。クルトの後ろを見ると見慣れた人影があった。
(コレットか)
どういう訳なのか、クルトとコレットが一緒にいる。
「いいかなぁ」
クルトが言ってきた。ま、コレットだったらいいだろう。俺が返事をすると、二人が入ってきたが、今度は入ってきた二人の方が驚いている。リサの存在自体と、パンツ姿でいるリサの格好、その両方だろう。
「お、紹介するぞ。姉のリサだ」
「リサです。宜しくおねがいします」
「グレンの?」
「え、お姉さん!」
クルトもグリーンウォルドも驚いている。リサにその二人、クルト・ウインズとコレット・グリーンウォルドを紹介すると、全員に椅子に座るように言って、給仕にコース料理とワインを持ってくるように頼んだ。
「お二人はお付き合いをされているのですね」
食事の最中、リサのいきなりの直球勝負に二人は思わず噴き出した。
「いえ、そうじゃ・・・・・」
「・・・・・違いますから」
クルトとコレットはそれぞれ顔を真っ赤にしながら否定した。
「そうですか。お二人とも、お出来になるになられるような感じでしたので」
ニコニコしながらリサは言う。顔は笑っているが、文言はどこか刺々しい。それがリサなのだが。さぁ、どうする二人。俺はワインを片手に高みの見物とすることにした。
「ウインズ君には相談に乗ってもらっていました」
先に切り出したのはコレットの方だった。
「先日、クリスティーナ様からのお話にあった『学生のための企画』について相談していましたら、グレンと会うとウインズ君が仰ったもので、一緒に行って話がしたいと私からお願いしました」
さすが学年首席の学年代表、実に模範的な回答ではないか。例の『セイラ基金』を使った企画というのなら、クリスも喜ぶだろう。
「そこでお出来になるウインズさんにお話を持っていかれたのですね」
ヒデーーーーー! ワイン片手にニコニコ顔を崩さず、しっかり自分の言葉に話を戻すリサの手口。二人はまた顔を真っ赤にして、視線を落としている。分かっちゃいるけど、レティとは違った意味での悪魔だな、コイツは。俺は助け舟を出す。
「で、どんな企画を考えたんだ? クルト」
「あ、うん。身分差の垣根を取り払った『学園懇親会』のようなものをやればいいのではと」
「普段、身分違いで話をする機会も少ないですから」
クルトの説明にコレットがつかさずフォローを入れる。まぁ、リサじゃないが、この二人、お似合いと言ったらお似合いだ。
「それでしたら共同参加の簡単な『催しもの』を考えるのも一法ですわね」
「だったら繁華街の店に屋台を出してもらう、というのもアリだな」
「うあぁぁぁ、いいですね、その案」
俺らの話にコレットが目を輝かせている。企画話をクルトに持ち込んだのは本当なのだろう。趣旨自体は素晴らしいし、くだらない学園には勿体ないくらいの企画だ。クリスもおそらく喜ぶんじゃないか。そこから四人であれやこれやと案が出たあと、リサが言った。
「グリーンウォルドさん。先に今日の案を令嬢にお出しになってから、内容を詰められたらよろしいですわ。私も微力ながらグレンを通じで協力させていただきますので」
「本当ですか。心強いです。リサさん、また相談に乗って下さい」
コレットが頭を下げると、リサはもちろんと応じる。言い出したのはリサなのだから、当然だろう。そのリサはワインを一口飲むと、俺に声をかけてきた。
「明日には工事に入るわ」
速いな。俺が呟くとリサは工程表を差し出した。それによると工事は六期に分割、実施も幾つかの業者に分けるらしい。業者人員はモンセルから、資材はウィルゴットを通じてジェドラ商会から仕入れるようにしたとの事である。やはりリサ、仕事が速い。片道四日かかるモンセルから人員を揃えて造作させるのは容易な段取りじゃないだろうに。
「全部で二〇〇日程度かかるわ。一期が終わるのは二〇日後の予定。私の居住空間とグレンの執務室よ」
「住みながら工事を続けるということだな」
合理的でしょ。リサは言った。リサは根っからの合理主義者。無駄だと思ったことは一切しない人間だ。だから改装工事をしながら住むといった、普通の人ではあまり考えない選択を普通に採るのだ。俺とリサがやり取り見ていたコレットが話しかけてきた。
「まるでグレンが上司でリサさんがまるで部下のように見えます」
「そうよ。今、私が仕事ができるのはグレンのお陰だもの」
「おいおい、そこまでは言いすぎだろ」
「いえ、違うわ。もしグレンがいなかったら出来なかったわ。女だから」
リサの言葉にコレットは下を向いた。何か心当たりがあるのだろう。エレノ世界は現実世界に比べて男尊女卑がキツイからな。質が違うかもしれんが。
「だから私は仕事ができるのであれば喜んで部下になるわ。理解がある上司と理解がない上司であれば、理解がある上司を選ぶのが当然の選択よ」
「はい。分かります」
リサの言葉に合点がいったというような顔で返事をするコレット。リサの言葉の裏にザルツに対する複雑な感覚を読み取った俺は、危険を察知してワインを口に含ませつつ、素早く話題を変えた。
「ところで、今日の本題なんだがクルトに一つ頼みがある」
「クルトのお父さんを紹介してもらえないか?」
「えっ?」
クルトは俺のいきなりの申し出に驚いている。するとリサが大きな封筒を【収納】で取り出し、クルトに渡した。
「これをお父様にお届けしてほしいの」
受け取った封筒に封がされていない事に気付いたクルトが、中を見てもいいかと尋ねてきた。俺が頷くと、クルトは中の書類を取り出して通読した。
「これは・・・・・」
「金利上限案の書類一式だ」
俺は説明した。『金融ギルド』の趣旨と仕組み、そして課題と、要求について等々、一通りの話をすると、クルトは口を開く。
「つまり国に貸出金利の上限を作って欲しいということなんだね」
「こんな大事な話、私が聞いても良かったんですか?」
「構わないよ。他言しなければだけど」
俺はコレットに口止めした。まぁコレットは賢いから、口止めする心配もないとは思うが。クルトの方を見て俺は言った。
「どうだ? やってくれるか」
「うん、渡すよ。先週も『金融ギルド』の話を熱心にしていたから」
「そうなのか」
予想外の話だった。王国の財政部門の人間が『金融ギルド』の話に興味を持っているとは思っていなかったからだ。
「だから、お父さんは絶対に読むと思うよ。期待に添えるかどうかはわからないけれど」
「それだけやってくれたら十分だ」
リサが話がまとまったので乾杯しましょう、と音頭を取った。俺たち四人はグラスを高々と掲げてワインを飲み干し、工作の成功を祈念した。
――翌日の放課後。『横木打ち』の実際がどうであるのかを確認するため、みんなで鍛錬場に向かう。すると鍛錬していたドーベルウィンが俺たちを見つけ、こちらにやってきた。
「これから何をするんだ?」
呑気な口調で興味深そうに見てくるドーベルウィンは、スクロードの説明を聞いている。するとドーベルウィンは俺も見せて欲しいというので、アーサーらと共に『横木打ち』の試し打ちに立ち会うことになった。
『商人秘術大全』に書かれている要領で数本のイスノキの枝を束ねて、左右に受けを配し、その上に束ねた枝を置いた。俺は記述されている持ち方と構えで腰を落とし、枝先を天に向け、一気に束ねた枝に叩きつける。
「キィヤァァァァ!!!」
ひたすらそれを繰り返す。人の視線が俺の身体に突き刺さるが、俺は気にも留めず、狂ったように打ち続ける。キツイ。これはキツイ。というのも曲げた膝や腰に負担がかかる。俺は百本程度打ちこんだ後、一旦止めた。
「見た感じどうだ?」
アーサーとスクロードに感想を求める。
「いやぁ、立木打ちよりもキツそうだ」
「天から地面まで剣を一気に斬り下ろす感じだよね」
「グレンはどう思ったんだ」
アーサーから感想を求められた。
「膝と腰の負担が大きい。確かに打ち込みの力を要するのはこちらの方だが、体の負担は立木打ちの方が少ないんじゃないか」
「剣で立位じゃない位置での訓練法自体が珍しいからね」
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