社畜リーマンが乙女ゲームに異世界転生した件 ~嫁がいるので意地でも現実世界に帰ります~

琥珀あひる

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第六章 商人と剣術

072 宮廷工作

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 俺は学園に戻ると一目散に寮の部屋に逃げ込んだ。頭の中はアイリの事で頭がいっぱいだった。部屋に入ると俺はベットに仰向けに倒れ込む。考えるのはアイリのことばかり。アイリの前では嘘はつけない。しかし言いすぎてしまったか。あんなに感情をあらわにするアイリを初めて見た。

「アイリスが本気になったら貴方どうするわけ?」

 レティが俺に向かって放った言葉が反芻はんすうする。レティは知ってたんだな、アイリの気持ちを。だから俺に向かってあんな風に言ったんだ。

「そうなったとして後悔しない?」

 あの時のレティの言葉が胸に突き刺さる。今日、俺は佳奈のことを言えなかった。目に涙をためるアイリを見て言えるはずがない。無意識の内にアイリに夢中になっていたようだ。アイリの反応もそうだが、俺のアイリへの思いも予想外だった。我ながら不覚というか、佳奈以外の女と付き合った事がないから俺には分からなかったのだ。

 アイリに嫌われたくない。だが俺が帰る時、アイリとの別れが訪れる。佳奈とアイリを同じ土俵で選ぶような状況はあり得ないし、許されない。しかしこのままだと、そうした状況に追いやられてしまう。しかしアイリとの関係は失いたくない。でもそうすれば佳奈を諦めなければいけない。それはあり得ないし。許されない。

 俺の頭の中では、この出口の見えない堂々巡りが繰り広げられている。永遠に解法のないこの問題を解決する方法などあるわけないのに、俺の頭の中はひたすらグルグルとこの話が回っている。そんなとき、部屋のドアをけたたましく叩く音が飛び込んできた。俺はさっとドアを開ける。すると父親に封書を渡すため、家に帰っていた筈のクルトがいた。

「どうしたんだ、クルト」

 クルトは血相を変えて俺に迫ってきた

「グレン。済まないが明日ウチの家に来てくれないか。お父さんがすぐに会いたいって!」

「おお、そうか! よくやってくれたクルト」

 俺は予想外の速さにビックリした。クルトによると話を聞いて封書を空けたクルトの父親は、こちらが用意した書類をかじりつくように読んだそうだ。話の内容も良かったのだろうが、リサが作った書類が魅力的だった事も影響しているだろう。

「明後日に出仕して報告を上げたいから、早くグレンに会いたいって。だから慌てて戻ってきたんだよ」

「大変だったな、クルト」

 聞けば夕飯もまだだというので、ロタスティで一緒に食べ、明日の段取りを打ち合わせた。クルトには明日の朝一に早馬を出し、午後に向かう旨をウインズ家に伝えてから一緒に行こうと告げた。俺は今、とにかくアイリの事は考えたくない。考えないよう、他に集中できることを求めていた俺にとって、この話は渡りに船だった。

 翌日、濃いグレーの商人服に身を纏った俺は、クルトと共に馬車でウインズ家に向かった。ウインズ家は王都でも地主や官吏階級が住む地域の一角にあり、近くの馬車溜まりで降りた俺とクルトはさして歩くこともなく家に着くと、玄関でクルトの父親の出迎えを受け、クルトと共に応接室に通された。

「ジェフ・ウインズだ。いつも息子がお世話になっている」

 頭を下げたジェフ・ウインズは年齢は三十代後半から四十代前半。いかにもできる官僚という雰囲気の人物だった。聞くと学院出身で財務部門に出仕し、今は財務卿補佐官の地位にあるという。財務卿最側近だ。現実世界で言うと出世街道を行く高級官僚。もしかするとクルトは自分の父親の価値を全く分かっていないのかも知れない。

 クルトの母親がお茶を出してくれた。クルトの母はにこやかに会釈をするとそそくさと部屋を出る。ウインズ家はこの世界の典型的な中産階級の家庭だ。雑談で分かったことだが、クルトは三人兄弟の末っ子で、兄は父の背を追い学院に進学し、姉は官吏と結婚しているとのこと。クルトが官僚志向ではないのは兄の存在が関係している可能性がある。

 なかなか手強い相手である、クルト父との対談。これをどう対処すべきか。それについて考えたのは、クルトにも話していない『金融ギルド』設立顛末記を話す事だった。もちろん設立動機や、出資額は伏せての話だが。俺がそれを話し終わった後、場は暫く沈黙した。

「・・・・・それでジェドラ商会やファーナス商会が動いたというのかね」

「私とアルフォード商会との思惑が一致したということで『金融ギルド』の話がスタートしたのですが、途中貸金業者や職業ギルドも加わって結果あのような額となったと」

「それだけ踏み倒しや焦げ付きに対する不安や不満が大きかったという訳だな」

 最大理由はそれだ。だがそれ以外の理由もある。しかしそれを今言う場ではないから、伏せておくことにする。

「しかし貸金業者にとって、この金利抑制案は自分たちの利益を阻害するものではないのか」

「そうではないから貸金業者は『金融ギルド』に出資しているのです」

「そこが私には理解できない」

 そりゃそうだ。財務官僚と貸金業者の心理状況は全く異なる。ある金の範囲で使うことを考える職業と、いつ踏み倒されるか分からぬ心理で働く職業。これは全く違うものだ。

「踏み倒される可能性が高い「利益」と、踏み倒される可能性が少ない「利益」。どちらを取るのか。それは言うまでもない話」

「人ならば誰しも確実に利益を得る方を選択する、か」

「ところが人間とは欲深い。低金利でカネを借りる事ができて確実に利益を得られるなら、より高い利益を上げようと考える者が出てくる」

「その為の金利抑制案か」

「それは貸し手の問題。借り手の問題があります」
「高い金利だから支払いができずに踏み倒す。それを金利抑制で抑える」

「なるほど」

 ジェフ・ウインズは頷いた。だが、それだけでは欲深い貸金業者が言うことを聞くわけがない。

「金利抑制の代償として踏み倒し規制が定められるのであれば、貸金業者はこぞって従うでしょう」

「しかしそれでは借り手の不満が高まるのでは?」

「借り手とは誰かという事を考えれば、打つべき手は自ずと決まるのではと」

 場の空気が硬直した。二人には俺の言わんとする意味が伝わったようだ。

「道路を作る際に木を切り倒す事と整地する事を一緒に行うのかという話ですわな。この話」

「・・・・・」

「道を拓く事と、その道を整える事。違うのは当たり前ということですよ」

「要は、金利抑制と踏み倒し規制を別々にせよと」

「時期を決めるのはまさしく」

「政治の仕事だ」

 ジェフ・ウインズは笑い出した。それを見たクルトは戸惑っている。おそらく普段、あまり笑わないのだろう。

「よく分かった。わざわざ来てもらった甲斐があったというものだよ。明日財務卿に具申しようと思う。もし説明を求められた場合、来庁できるかね」

「もちろんです。学園の授業中であろうと上がらせていただきます」

「では、そうなった場合、よろしく頼む」

 ジェフ・ウインズは俺に頭を下げた。俺とクルトは話を終えるとウインズ家を後にする。俺は帰る車中、クルトに改めて礼を述べた。クルトは言われるようなことはと恐縮しつつ、こんなことを言ったのが印象的だった。

「あんなお父さんを見たの初めてだよ」

 翌日の昼休み。カインから話のあった正嫡殿下の側近、フリックと会うことになった。朝一にカインがわざわざクラスにまでやってきて、どうしても頼むという事で急遽セッティングされたのである。場所は自学室ということで、そういう使い方もできるのだな、と感心した。

「フリック・ベンジャミン・マクミランです」

「グレン・アルフォードだ。グレンでいい」

「でしたら私もフリックで」

 自学室の一室でお互い名乗りを上げ、椅子に座った。正嫡従者フリック。マクミラン伯爵家の嫡嗣で、正嫡殿下アルフレッドの御学友として幼い頃から共に教育を受け育ってきた正嫡殿下の最側近である。受け答え一つを聞いても、ゲームと同様に物腰柔らかく、落ち着いた話し方をする人物。攻略対象者の一人でもある。

「今日、グレンがアドバイスしてくれた方法で移動したのだが、コルレッツと全く遭遇しなかったよ」

「本当なのかカイン」

 フリックは驚いている。カインが嬉しそうに話すのを見て、それは良かったと言うと、正嫡殿下の対策法も頼むと頭を下げてきた。俺はまずはこれを言っておかなければならないとフリックに対して説明した。

「フリック自身も標的だ。この点は頭に入れておいたほうがいい」

「そ、それは」
「なんだって!」

 フリックとカインは共に困惑した表情を浮かべた。だからフリックもカインと同じように、自分が思った向きとは逆の道を通って目的地に向かうことを意識して行動することと、中庭には近づかないようにして欲しいと話した。

「しかし私はそれで良いとしても殿下が・・・・・」

「殿下の方は従者エディスに任せればいい。エディスの殿下への思いは絶対だ」

「君はエディスを知っているのか?」

 フリックが当惑している。無理もない。今日初顔合わせをした人間が、まるで事情を知っているかのようにエディスの事を話しているのだから。俺は頷きながら、こういう話の捌き方は男よりも同性である女の方が上手いと、適当な理由をでっち上げてフリックを納得させた。

「フリック。君はコルレッツに補足されないようにすることが務め。正嫡殿下はエディスに任せるべきだ」
「エディスには殿下の行動パターンと別ルートを歩むことと、温室周辺を避けることを伝えればいい。後は本人が考えるはず」

「しかし・・・・・」

「エディスを信じてやれ」

「分かった」

 フリックはようやく同意した。女には任せられないとか側近として従者としての責任感とか色々な理由があるだろうが、任せることも仕事の一つだ。話が終わり、俺たちが自学室を出ると、教官が俺を呼び止めた。

「グレン・アルフォード。財務部から馬車が来ているぞ」
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