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第三章
しおりを挟むある晩のこと、
「ただいまーって、あれ?」
「おう、お疲れさん」
「美咲ちゃんは?」
「それがな、未だやねん」
「いつも私より早く帰っているのに、どうしたんでしょうか。ちょっと遅いですよね」
「せやなぁ、遅なる時は必ず連絡入れてくれる子やさかいなぁ」
そんな会話をしているところへ家の固定電話がなった。
其の電話に出ると私は「はい」を繰り返す返事しかできず受話器を置いた。
「何があったんや?」
「美咲が事故に巻き込まれたそうです」
「何んやて!」
「今から病院に行ってきます」
「ワイも連れてってくれ」
「はい、行きましょう」
病院の総合受付へ行くと、美咲は既に救急室から大部屋に移っているとの事だった。
病室では、大部屋のベッドで美咲が横になっていた。ちょっと窶れているような気がしたが、
「あなた、心配かけてごめんなさい」
と微笑みながら話しかけてくれた。
上着のポケットの中から少し顔を出して美咲を見ているぺペンギンさんをそっとポケットに押し戻す。
何か言いたそうなのは良く分かる。
でも病院の大部屋の中でぺペンギンさんをポケットから出す訳にはいかない。
それを悟ってか、
「マルちゃんは?」
と聞いてくる美咲に頷いてポケットを指さす。
「そう、マルちゃんも来てくれたんだ。ごめんね、心配かけちゃったね」
其の言葉を聞きながら、パイプ椅子をベッドの横に置いた時、隣のベッドで寝ていた患者さんが部屋を出て行った。
すかさずポケットから飛び出たぺペンギンさんは、
「何言うてんねん、怪我人が謝る事ないやないけ」
私は新たに患者さんが戻ってきた時のために、四人部屋のカーテンを静かに閉めた。
「で、どうなの?」
と私は、美咲の枕の横で正座しているぺペンギンさんをそっと両手で押しのけながら尋ねた。
「うん、軽い打撲と、腕を一本、折ちゃった」
「何言うてんねん、折ちゃった、やのうて、折られちゃった、やないかい」
私は、再び美咲の枕元に戻ってきたぺペンギンさんを押しのけて、
「手術日とかは?」
と訊ねた。
「うん、今日は金曜日の夜だから手術はできないんだって。明日は土曜日で次が日曜日だから月曜日に骨を繋げる手術になるんだって」
「そら、あかんわ、今日中に手術せい、ってワイが直接医者に言いに行ったろか」
私は、三度、美咲の枕元に戻ってきたぺペンギンさんをそっと押しのけた。
押しのけた手を見ると微かに濡れていた。
「マルちゃん、大袈裟すぎるよ。泣くほどのことじゃないよ。これくらいのこと本当に平気だから」
四度目は流石に、美咲の枕元に戻ってこようとするぺペンギンさんを今度は両手で制して言った。
「そう、大したことなくて良かったよ。手術の時間とか詳しいことが分かったら教えてよ。電話くらいは出来そうだよね」
「うん、それでね、担当のお医者さんが、家族の方が来たら教えてください、って言ってたわ」
「じゃ、早速ナースステーションに行って、お医者さんに会えるか聞いてくるね」
「ワイは、ここにいてるわ」
私は、素早くぺペンギンさんを片手で掴み上げてポケットに入れた。
「駄目です! 連れていきます。ポケットの中で静かにしていただきます」
大部屋で何かやらかされたら、とんでもないことになるのは間違いない。
すると美咲が掛け布団を少しだけ上げて、
「この中に入れてあげて、私も誰か居ててくれたほおうが寂しくないから」
するとぺペンギンさんは、またしてもポケットから自分で飛び出して、
「ほーら、見てみい。美咲ちゃんはワイが居った方がええねんてぇ、なぁ美咲ちゃん」
何か無性に腹が立ってきたが、
「こっちは大丈夫よ。あなた、聞いてきて」
と美咲が言うのでナースステーションに行こうとしたが、
「あなた、聞いてきて、やって」
と美咲の布団の中からぺペンギンに言われた時はかろうじて怒りを我慢できる状態であった。
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