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24話
しおりを挟むぺペンギンはお猪口に注がれたシングルモルトに嘴をつけると、
「ほな、話したりぃや」
とサエに語りかける。
「はい」
サエがそう言うとコミネは姿勢を正してしっかりと聞かせていただきますと目で合図する。
「最初から最後までの、モトキの事だけを言いますと、最初、モトキはオオサワを疑っておりました。その内、オオサワの理論の素晴らしさに引き込まれていったようです。そして私たちは、その時をきっかけに別れることになりました。その時の私は、モトキと別れることに何の未練もありませんでした、と思います。既にモトキはモトキでなくなっていたような気がしていたからです。その後のことは知りません。モトキから死の直前のe-mailが届くまでは」
「うん、それで」
とぺペンギンが促す。
「はい、e-mailの内容ですけど。彼は自分のやっている実験に後悔をしておりました」
「失礼ですが、それは当然のことと思います」
コミネが横槍を入れる。
「そのようですね、生体実験の事をコミネ先生は言ってらっしゃるのですよね」
「生体実験どころの話じゃない、あれは人体実験だ」
ぺペンギンが小さな翼を振ってコミネを制する。
「私は、そのようなことは伺える立場ではなかったので、既に知る由もないのですが。オオサワ先生は自分の娘を実験に使おうとしていたようですね。その証拠に、彼は自分の娘から200mlの血液を抜いたそうですもの。或いは、その後も、採血し続けていたかもしれません。そしてその血液の白血球の核から遺伝子を取り出しクローニングと言うもの? を始めたそうです。その遺伝子を出産を望まなかった人の胚に導入してオオサワは自分の娘のクローンを作ることに成功しました」
「なんだって」
更に興奮していくコミネをぺペンギンは無言で制する態度をとっている。
「そのクローンに娘さんの腫瘍、脳腫瘍を移植して、そこへオオサワが作ったウィルスを使って抗腫瘍遺伝子を導入したそうです。勿論、全ての操作はモトキが行いました」
サエは血の気の引いた青い顔をしている。
「しかし、実験は成功したとは言えません、でしたようです。腫瘍は一時的に小さくなったそうですが、完全に消失されなかったそうです。しかも、オオサワ先生の作った遺伝子の開始遺伝子と言うのでしょうか、それに使われたウィルスが強い感染力を持ち始めました。そして感染した生き物は強い中枢神経障害が現れることも確認されたそうです。このようなウィルスが世界に蔓延するととんでもないことになる、なんていう馬鹿な事をしてしまったんだ。モトキはようやく自分を取り戻しました」
「それが、彼の自殺の原因ですか」
「いいえ、それもあるとは思いますが。直接の原因は、オオサワ先生の娘さんのクローンが言った言葉でした。殆ど言語を喋れないクローンの少女が言った言葉で、モトキはコミネ先生に会ったあの夜に自殺をしようとした訳ではなく、あの少女の言った言葉が原因だったそうです。それは想像外だったそうです。ある程度の言語が喋れるようになっても、過去の記憶を持って成長していくとは考えていなかったようです」
「その言葉とは?」
今は、ぺペンギンはコミネの質問を止めようとはしていない。
「はい、たった一言です。そのクローンの少女の初めて言った言葉は、「先生、遊ぼ」だったそうです。その言葉を聞いた時に、モトキはすぐにコミネ先生を思い出して、コミネ先生へ伝えたかった言葉だと分かったそうです。それからというものモトキは罪悪感に苛まれ続け、その時に自殺を決意していたようです」
ぺペンギンが頷くと、
「以上がe-mailの内容です」
とキッパリとサエが言う。
続いて頭を抱えながら、コミネは呟くように言う。
「それで、オオサワの娘、ケイちゃんはそのまま療養先で亡くなった、と・・・。酷い話だ」
「いいえ、ケイちゃんは生きています」
コミネはこれ以上開かないであろうという目でサエを見つめる。
その横でぺペンギンが頷き、メグを翼指す。
コミネは、ゆっくりとぺペンギンを見る。
喋り出したのは、サエ、である。
「そうです。ケイちゃんはオオサワの知り合いが医院長をしている療養施設に預けられました。その後のことを一番心配していたのは、オオサワの妻トキコさんです。私たちは何度かガーデンパーティでお話をしている間に、モトキのことやオオサワのことを相談し合ったりしていたので、その内に共通の疑問点が湧き上がりました。言ってはいけないことかもしれませんが、あの人達二人には人が見えない、人としての心が見えない、そんなお話を奥様としている間に私達はすっかり仲の良い姉妹のように、大切な相談相手になりました。トキコさんは、ケイちゃんが施設に預けられる前に、既に療養施設に入れられていましたが、精神はしっかりとなさっておられました、と思います。そこで、トキコさんはアメリカで小料理屋をやっている兄に連絡を取って、ケイを施設から出してほしいとお願いされたのです。トキコさんのお兄さんはいづれ日本で小料理屋をするつもりでいたそうで、トキコさんの願いを聞いた時に決心がついて、日本に戻りケイちゃんを引き取ったそうです」
「オオサワとの話し合いは上手くいったのですか」
「また、言葉は悪くなってしまいますが、使い捨て、のようでした」
「オオサワらしい」
コミネは憎々しげに呟くが、
「然し、ケイちゃんが脳腫瘍に罹っていたことは事実だ、ケイ、いや、メグちゃんを見ていると、そうは思えない」
「それに関しては、e-mail の内容には無いさかいワイが答えるわ」
ぺペンギンが応ずる。
「ケイちゃんの脳腫瘍は完治した」
「まさか、オオサワの?」
「それは無いな、あいつの能力の限界、あいつには無理や。治したんは、お前も知ってるタッタリアや。今やったら信じれるやろ? あいつは優秀な医学研究者でもあるけど優秀な外科医でもあるんや。更には研究の専門は薬理学や。マイクロ手術で完全に脳腫瘍を取り切って、安全のためにあいつが開発した抗腫瘍薬を服用して、今は腫瘍も確認されてへん、これからも確認されることはないやろうってタッタリアが言うとったわ。ただし脳腫瘍の後遺症は残ったままや」
「記憶喪失」
とコミネが答える
「そうや、過去の記憶は一切無い。メグはトキコさんが付けたかった名前や。この際、オオサワが付けたケイいう名前を捨てて、母親がつけたかった名前に変えて、新しい人生を、死んだ母親トキコさん、そのお兄さんと暮らすのがええやろ、いうことになったんや」
「トキコさんは亡くなっていたのですか」
「ああ、療養所でな。死ぬ前に、トキコさんのお兄さんがケイちゃんを連れて行きはってな、トキコさんは腫瘍から完全に解放されたケイちゃんに会いはって、メグ、そう言いながら息を引き取りはったそうや」
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