ペンギン仕掛けの目覚まし時計3

織風 羊

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第十九  Cosmos (cosmos theoretical physics)

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 涼太が全ての料理を覚えて、どれくらいの月日が流れただろうか。
今はもう、見習いではない。
板前の菅野とは先輩と後輩になっている。

 涼太の部屋ではぺペンギンが、イカ素麺を大葉で包みながら、シングルモルトを飲んでいる。

「然し、このイカちゃんも美味いなぁ。特にお前の作ったタレで食べると最高やん」

「はい、少し甘みを控えていますが、本店の味付けです」

「そうかぁ、土地によって、味覚は違う。どれが本物やなんて、誰も決められへんねんな」

「いい勉強させてもらってます」

「お前、見た目、ちょっと強面やけど、素直な奴っちゃなぁ」

「ぺペンギンさんは、見た目、可愛いですけど、めちゃんこ怖いですね」

「その可愛い、言うのやめてくれへん。ワイ、この星の美的基準言うやつ?よう分からへんのよ」

「そうは思えませんけど」

「せやなぁ、今日はちょっと酔うてきたし、ワイの星の基準みたいなやつ、教えたろか?」

「はい?」

「まぁ、そない鯱鉾ばって聞くような話やないさかい、どう?」

 そう言いながら、ぺペンギンはポケットウイスキーを翼示した。

「はい」

 返事をすると、涼太はグラスに氷を入れて持って来てウイスキーを注いだ。

「もう少ないですね、また買ってきます」

「いや、そろそろ必要なさそうや」

「?」

「まぁ聞いてぇな」

「あ、はい」

「いきなり言うけど、基準て誰が決めたん?」

「?」

「なぁ、最初にこの国に来た時。お前は、日本の、本店の、味を基準ちゅうか、基本中の基本やて思てたやろ?」

「はい」

「で、今は、基準を、この国に、この街に、照準を絞って、独りよがりの基準を捨てて、一人前の板前にさせてもろたやん」

「はい」

「ほなら、基準て何んやろ?」

「?」

「全部、人が決めたもんやねんな」

「はぁ、なんとなく」

「うん、ここまではええねん。ただな、人が決めた、いう事は元々基準なんて無い物んやと思わへん?」

「はぁ」

「今、飲んでるウイスキー、これ誰かが最初に、ウイスキーって言うたからであってな、これドアーホみたいな名前つけてたら、ドアーホ飲み過ぎて頭がドアーホになって来ましたー、みたいな会話が成立すると思わへん?」

「なんとなく」

「こうやって会話してる間に時は過ぎて行くけど、この1秒1分1時間は誰が決めたん?」

「知りません」

「それでええねん、何処かの誰かが決めて、それが此の星の基準になっただけやねんな」

「なるほど」

「せやからな、基準なんて元々無いねん。例えばワイの住んでた星の常識みたいなもんを此の星
に持ってきたらパニックやん。通用する訳ないやん?」

「ぺペンギンさんて異世界生物だったんですか?」

「あのね、今まで何んに見えてたの?」

「超小型ペンギンかと」

「アホか! ペンギンが小型化したら日本語喋るようになるんか? いっぺん天に召されろ、ボケ!」

「済みません」

「まぁ、怒ってもしゃーないさかいに言うけどな、基準や常識、正義や誠、そんなもんは普遍やないねん、元々無い所から生まれて来たもんやねんから常に変化するもんやって思といてくれたらええ。ワイの星には基準いうやつがないねん、真実いうやつでさえも。絶対的存在、そんなもんは、ほんまは、誰もが簡単に分かるもんやない。若しも、簡単に分かったとしてみ? いや、分かったとしても実行できるやろうか? それが出来るんやったら、全ての生き物が平等に幸せになれる。筈やろ? でも、どう言う訳か? やろ? 真の事なんか誰も分からんと喋ってんねん。それも誰かが、自分自身が勝手に決めた基準に従って。然しな、基準は無かっても、何処かに、それが生まれた必然はある筈や。せやけど、必然と真実は、必ずしも同んじもんでもないねん。それが宇宙理論物理学、コスモスや」

「その何んとか物理は分かりませんが、なんとなくですが、言っている事は分かります」

「それでええねん。まぁ、そう言うことで、もう一杯もらおか」

「・・・・・・・・。」

「どうしたん?」

「もう、空っぽです」

「このドアーホが! 今からもう一本買うて来い!」
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