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「あ、あ、あ」
壊れたおもちゃのように、口から意味をなさない音が漏れる。
精液を出し終えてもなお、余韻で体が震えている。
そんな俺を落ち着かせるように、狭山は背中に手を回してぽんぽんと軽く叩いた。
強すぎた快感に持って行かれた意識がぼんやりと戻る頃には、口の中に放ってしまったものもどこかへ消えていた。それがどこなのかは……考えたくもない。
「すみません、俺……」
「僕が勝手にやったことです。謝るのは僕の方ですよ」
狭山はすみませんでした、と頭を下げると心配そうに尋ねた。
「気持ち悪かったり、嫌だったりしませんでしたか?」
言葉に詰まった俺は、自分の感覚を辿る。
「気持ち悪くは、なかった……です。嫌でも、ない、けど……」
ぐい、と狭山の体を押して、距離を取った。
「一緒に暮らし始めたとき、俺はあなたをハウスキーパーにするつもりはないと言いましたよね」
“覚えていますか?”と尋ねると、狭山は頷いた。
「それと同じで、俺はあなたに性欲処理をさせようとも思っていません」
「でもそれじゃ……」
“僕は何の役にも立っていない”と、辛そうな表情で小さく呟く。
その言葉を耳にしたとたん、胸の中に黒い塊が生じた。ズン、と重いその塊を吐き出すように大きく息をつくと、狭山がビクリと体を震わせた。
「もうひと月も経つのに、まだそんなことを考えていたんですか」
“いいですか?”と床に座っている狭山の隣に、自分も向かい合って腰を下ろす。立ち上がったついでに、ずらされていた服を元に戻して。
「生活費は入れて貰うのだから、俺が養っているわけではありません。そもそも、同居は俺から言い出したんであって、狭山さんが望んだわけではないでしょう」
「けど……」
言いかけた狭山の言葉を遮って続ける。
「あなたを死なせないのも、ここで生活させているのも、俺のエゴです。言いましたよね、俺は感情を大切にする理由を知りたい。だからここで普通に生活して、嬉しいも楽しいも、悔しいも辛いも、全部見せてください。役割が欲しいと言うのなら、それが狭山さんにしてもらいたいことです」
「でも、それだけではあまりにも……」
「あなたがこれから先、何らかの感情を持った時に、それをどれだけ強く隠したいと願ったとしても、許しません。全て俺にさらけ出してください」
“ホラ、そんなに簡単なことではないでしょう?”
そういうと、彼は少しの間考え込んで、
「うまく丸め込まれたような気がします」
と困ったように微笑んだ。
「そんなことないでしょう?見られたくもないものまで暴かれるんですから。……例えば、こんなことも」
言いながら、ゆっくりと手を伸ばす。さっき狭山が触れていた体の中心。今度は俺が狭山のそこに触れる。
「……っ!?文人さん!?」
慌てて体を離そうとする彼の背に腕を回して、退路を断った。
「狭山さんだって、抜く暇なかったんじゃないですか?」
ぐ、と手のひらで押すと、返ってきた弾力は確かな熱を感じさせる。
「それとも、俺が大学に行っている間に一人でシてました?」
「そんなことしてない!」
わざと意地悪く問うと、狭山は珍しく声を荒らげた。
「僕は自分がしたことの責任をとるためにここにいるんです。そんな立場でするわけないでしょう!?」
一息に怒鳴ったせいで呼吸を乱した狭山は、“あぁ”と何かに気づいたようにつぶやき、今までに見たこともない歪な笑みを浮かべた。
「シて見せましょうか?元々、何をされても受け入れるつもりですし。どんな辱めだって構いませんよ」
立ち上がった狭山は、する、と前で結んであった紐をほどいて、ためらうことなくスウェットと一緒に下着まで脱ぎ落とした。
今度は俺の目の高さに、狭山のソレが晒される。
「……っ」
目の前で進行する予想外の事態。言葉を失う俺を気にもせずに、彼は自分の性器に指を絡めた。
俺が触れたときには確かに熱を孕んでいたというのに、今やすっかり冷め切っている。
それでも無理矢理自身を高めようと、乱暴に擦りあげる。
「……っ」
小さく漏れる息は、喘ぎではなく呻きに近い。ぎゅっと寄せられた眉根と苦しそうな表情。
「やめてください!!」
それを目にした瞬間、弾かれるように叫んだ俺は、同時に、狭山の手を掴んでいた。
「違うんです。こんなことをさせたくて言ったんじゃない」
突然制止された相手の目には、昏い色が浮かんでいる。
「すみません。嫌な言い方をしました」
膝に手を置いて、頭を下げる。
「そんなこともできるくらい、俺との生活に慣れてくれたのならいいと思ったんです」
俺の言葉に、狭山の目が戸惑いの色に変わる。
「てっきり……自分がここにいる理由を忘れるような人間だと思われたのかと……」
「逆です」
「え?」
狭山は大きく瞬きをした。
「あなたは、俺を見ると事故のことを思い出すでしょう?24時間、ずっと罪悪感を抱えているわけではなくても、ふとしたときに。一緒にいると、突然動きが止まったり、表情が険しくなったりする瞬間がある。で、その後、急によそよそしくなる」
「そんなこと……」
「あるから言ってるんですよ」
俺の気のせいだと言いたかったのだろう。だけど、あんな姿を見せられてしまったら、黙っていられない。
「最初はなぜそんな風になるのかわからなかった。でも、繰り返し見ているうちに、狭山さんがそうなる時に共通点があることに気づいたんです。会話が弾んだりして、気を許してくれたのかと感じた後が多い。きっと、立場を忘れないようにと自分を戒めているんだと思いました」
そこまで言って、自分の想像で口元が緩んでしまうのを感じる。そんな俺を見て、狭山は不思議そうな顔をした。
「もしかして実家に来た時の、よそ行きの狭山さんのまま過ごしてないですか?」
今度言葉に詰まったのは、相手の方だった。
「一緒にテレビを見てる時とかバイトの話をしてる時とか、すごくいい表情をしてることがあって。あっちが作ってない狭山さんなんでしょう?」
首をかしげて尋ねる俺を見て、狭山は困ったようにうつむいてしまったが、構わずに続ける。
「俺は狭山さんの本当が知りたい。取り繕ったあなたじゃ意味が無いんです。ひとりでするほどにここでの生活に慣れてくれたのなら、いいことだと思ったんです。ただ、あんな言い方じゃ伝わらないですよね。すみませんでした」
改めて頭を下げると、狭山は慌てたように首を振った。
「僕の方こそ!真意を取り違えてなんてこと……気遣ってくれていたのに……って!いつまでも見せててすみません!」
慌てて下着とズボンを上げようとする狭山を、やんわりと手で制する。
「文人さん?」
途中で止められて、不思議そうに視線をよこす。
「ひとりでシてなんていないって言いましたよね」
「え……」
「だったら、俺だけじゃなくて、狭山さんだって辛いはずです」
手を伸ばして指先で中心に触れると、ビクリと体がこわばる。
「さすがに口では出来ないですけど、手くらいなら」
柔らかく握り混んでふにふにと揉むようにしていると、性器は徐々に芯を持ち始める。
「や、文人さん、ダメ、です」
「狭山さんだってしてくれたじゃないですか。もっと凄いことまで」
「それは……ぁ……っ」
言葉を続けようとして漏れた控えめな声に、背中を押される。
「人のに触れるなんて初めてだから、上手くないと思いますけど」
根元から先端へ、そしてその逆を。ゆっくりとたどりながら告げる。
「それでもきっと、自分でするよりはイイはずです」
ぐり、と先端の割れ目に指先を押し込むようにすると、狭山がうわずった声を上げる。じわ、と先走りが滲み出す様子に、ごくりと唾液を飲み下す。
「文人さん、あなたはそんなこと、しなくて、い、あっ」
「嫌ですか?俺に触れられるの。気持ち悪い?」
「気持ち悪くは、あ、んっ、ない、ですけど」
「さっきの俺と一緒ですね」
言って、俺は小さく笑う。
「立場が、ちが……っ」
頑なに言い張って譲らないので、まだ言うか、と擦り上げる手に力を込める。
「ひぁ!?」
強く扱かれて、高い声が唇からこぼれ落ちる。
「俺の言ってること、ちっとも分かってくれないからお仕置きしちゃいました」
「そ、んな……」
「狭山さんは兄の事故に負い目を感じてる。俺はそれをいいことにあなたに無理を強いてる。だったら俺もあなたと同じように、罪悪感を持つべきですよね?」
ふる、と狭山は首を横に振った。
「人生を台無しにしているのだから同じだ」
「ちが……ふ、ぁぅ……」
「罪悪感を持ち続けて暮らしていくだなんて、そんな生活、お互い不幸じゃないですか?」
「あ、あ、ぅ、ん」
先端に染み出すものを塗り広げ、滑りがよくなった手のひらでくびれから上を撫で回す。
熱いくらいの体温と、ぬるりとした手触りが気持ち良い。控えめに、しかし堪えきれないといった様子で漏れる声を、もっと聞きたいと思う。
同性に……狭山に触れることでこんなにも興奮している自分が、とても不思議だった。
「返事、できないくらい気持ちいいですか?早くイきたいでしょう?久しぶりですもんね」
でも。
「あ……っ?」
きゅっと根元を握った俺に、狭山が不思議そうな声を漏らした。
「お互い様、です。今の立場も、この行為も」
「そんなわけには……」
「了承してくれないと、イかせてあげません」
せき止めたまま反対の手で敏感な先端を刺激し続けると、狭山はすすり泣くかのように体を震わせ始めた。
「ね?俺、素の狭山さんで過ごして欲しいです」
言い聞かせるように、優しい音を意識して声を発する。
我ながら卑怯だと思う。快感で翻弄して、籠絡しようとしている。
けれど、あんな風に柔らかい笑顔で過ごせるようになるのなら、どれだけ卑怯でも構わない。
「ほら、分かったって言ってください。そしたら、ココも、一緒に生活するのも楽になりますから」
小指だけを先端に残して、そこをくすぐりながら、他の指は茎を伝うようにして根元へと向かわせる。親指と人差し指で作った輪で裏筋に圧をかけながら撫で上げる。
「ああっ」
先端へ向かう指と一緒に欲がせり上がろうとする。けれど、外に出ようとするものだけが、戒められて取り残される。
「う……」
解放されない快楽が辛いのだろう。潤んでいた狭山の目からこぼれた涙が、頬へと伝う。
「いいですよね?狭山さん。じゃなきゃ、俺もずっと苦しい。ね、俺のこと、楽にして下さい」
最後は、情に訴える。
「わ、わかりました、から……っ、もう……っ」
「ありがとうございます」
ちゅ、と俺の肩を掴んだままの腕に唇を落とした瞬間、自分の行為に愕然とした。
いくら狭山が了承したことにホッとしたからといって、どうして口づけなんか。
「うぁ……」
辛そうな狭山の声で我に返った俺は、根元を拘束していた指を外し、速度を上げて扱く。
「あ、ダメ、急に、はや、あ、あぁっ」
散々焦らされていた狭山は、あっという間に達っした。
熱を吐き出して、くたりと俺に寄りかかる体を受け止める。
手の中に溢れた熱いものは、自分が出すものと大差ないはずなのに、俺はそれに見とれてしまう。
真面目で、他人には信じられないくらい優しいくせに、自分自身には驚くほど厳しい。そんなストイックな印象の彼が吐き出した白い欲は、そのアンバランスさのせいか、とても綺麗に見えた。
この日を境に、俺と狭山の関係は変わった。
コトが済んだ後、俺から提案したのだ。
ひとつは呼び方を改めること、もうひとつは丁寧語をやめること。
二人で話し合った結果、「文人さん」は「文人くん」に、「狭山さん」は「秋久さん」になった。
丁寧語をやめることには強く難色を示したけれど、一度言質をとった俺は譲らず、結局向こうが折れる形で決着がついた。
そんな風にして、被害者遺族と加害者、見張る側と見張られる側、そんなぎこちない関係は、少しだけありふれた同居人に近づいたのだった。
壊れたおもちゃのように、口から意味をなさない音が漏れる。
精液を出し終えてもなお、余韻で体が震えている。
そんな俺を落ち着かせるように、狭山は背中に手を回してぽんぽんと軽く叩いた。
強すぎた快感に持って行かれた意識がぼんやりと戻る頃には、口の中に放ってしまったものもどこかへ消えていた。それがどこなのかは……考えたくもない。
「すみません、俺……」
「僕が勝手にやったことです。謝るのは僕の方ですよ」
狭山はすみませんでした、と頭を下げると心配そうに尋ねた。
「気持ち悪かったり、嫌だったりしませんでしたか?」
言葉に詰まった俺は、自分の感覚を辿る。
「気持ち悪くは、なかった……です。嫌でも、ない、けど……」
ぐい、と狭山の体を押して、距離を取った。
「一緒に暮らし始めたとき、俺はあなたをハウスキーパーにするつもりはないと言いましたよね」
“覚えていますか?”と尋ねると、狭山は頷いた。
「それと同じで、俺はあなたに性欲処理をさせようとも思っていません」
「でもそれじゃ……」
“僕は何の役にも立っていない”と、辛そうな表情で小さく呟く。
その言葉を耳にしたとたん、胸の中に黒い塊が生じた。ズン、と重いその塊を吐き出すように大きく息をつくと、狭山がビクリと体を震わせた。
「もうひと月も経つのに、まだそんなことを考えていたんですか」
“いいですか?”と床に座っている狭山の隣に、自分も向かい合って腰を下ろす。立ち上がったついでに、ずらされていた服を元に戻して。
「生活費は入れて貰うのだから、俺が養っているわけではありません。そもそも、同居は俺から言い出したんであって、狭山さんが望んだわけではないでしょう」
「けど……」
言いかけた狭山の言葉を遮って続ける。
「あなたを死なせないのも、ここで生活させているのも、俺のエゴです。言いましたよね、俺は感情を大切にする理由を知りたい。だからここで普通に生活して、嬉しいも楽しいも、悔しいも辛いも、全部見せてください。役割が欲しいと言うのなら、それが狭山さんにしてもらいたいことです」
「でも、それだけではあまりにも……」
「あなたがこれから先、何らかの感情を持った時に、それをどれだけ強く隠したいと願ったとしても、許しません。全て俺にさらけ出してください」
“ホラ、そんなに簡単なことではないでしょう?”
そういうと、彼は少しの間考え込んで、
「うまく丸め込まれたような気がします」
と困ったように微笑んだ。
「そんなことないでしょう?見られたくもないものまで暴かれるんですから。……例えば、こんなことも」
言いながら、ゆっくりと手を伸ばす。さっき狭山が触れていた体の中心。今度は俺が狭山のそこに触れる。
「……っ!?文人さん!?」
慌てて体を離そうとする彼の背に腕を回して、退路を断った。
「狭山さんだって、抜く暇なかったんじゃないですか?」
ぐ、と手のひらで押すと、返ってきた弾力は確かな熱を感じさせる。
「それとも、俺が大学に行っている間に一人でシてました?」
「そんなことしてない!」
わざと意地悪く問うと、狭山は珍しく声を荒らげた。
「僕は自分がしたことの責任をとるためにここにいるんです。そんな立場でするわけないでしょう!?」
一息に怒鳴ったせいで呼吸を乱した狭山は、“あぁ”と何かに気づいたようにつぶやき、今までに見たこともない歪な笑みを浮かべた。
「シて見せましょうか?元々、何をされても受け入れるつもりですし。どんな辱めだって構いませんよ」
立ち上がった狭山は、する、と前で結んであった紐をほどいて、ためらうことなくスウェットと一緒に下着まで脱ぎ落とした。
今度は俺の目の高さに、狭山のソレが晒される。
「……っ」
目の前で進行する予想外の事態。言葉を失う俺を気にもせずに、彼は自分の性器に指を絡めた。
俺が触れたときには確かに熱を孕んでいたというのに、今やすっかり冷め切っている。
それでも無理矢理自身を高めようと、乱暴に擦りあげる。
「……っ」
小さく漏れる息は、喘ぎではなく呻きに近い。ぎゅっと寄せられた眉根と苦しそうな表情。
「やめてください!!」
それを目にした瞬間、弾かれるように叫んだ俺は、同時に、狭山の手を掴んでいた。
「違うんです。こんなことをさせたくて言ったんじゃない」
突然制止された相手の目には、昏い色が浮かんでいる。
「すみません。嫌な言い方をしました」
膝に手を置いて、頭を下げる。
「そんなこともできるくらい、俺との生活に慣れてくれたのならいいと思ったんです」
俺の言葉に、狭山の目が戸惑いの色に変わる。
「てっきり……自分がここにいる理由を忘れるような人間だと思われたのかと……」
「逆です」
「え?」
狭山は大きく瞬きをした。
「あなたは、俺を見ると事故のことを思い出すでしょう?24時間、ずっと罪悪感を抱えているわけではなくても、ふとしたときに。一緒にいると、突然動きが止まったり、表情が険しくなったりする瞬間がある。で、その後、急によそよそしくなる」
「そんなこと……」
「あるから言ってるんですよ」
俺の気のせいだと言いたかったのだろう。だけど、あんな姿を見せられてしまったら、黙っていられない。
「最初はなぜそんな風になるのかわからなかった。でも、繰り返し見ているうちに、狭山さんがそうなる時に共通点があることに気づいたんです。会話が弾んだりして、気を許してくれたのかと感じた後が多い。きっと、立場を忘れないようにと自分を戒めているんだと思いました」
そこまで言って、自分の想像で口元が緩んでしまうのを感じる。そんな俺を見て、狭山は不思議そうな顔をした。
「もしかして実家に来た時の、よそ行きの狭山さんのまま過ごしてないですか?」
今度言葉に詰まったのは、相手の方だった。
「一緒にテレビを見てる時とかバイトの話をしてる時とか、すごくいい表情をしてることがあって。あっちが作ってない狭山さんなんでしょう?」
首をかしげて尋ねる俺を見て、狭山は困ったようにうつむいてしまったが、構わずに続ける。
「俺は狭山さんの本当が知りたい。取り繕ったあなたじゃ意味が無いんです。ひとりでするほどにここでの生活に慣れてくれたのなら、いいことだと思ったんです。ただ、あんな言い方じゃ伝わらないですよね。すみませんでした」
改めて頭を下げると、狭山は慌てたように首を振った。
「僕の方こそ!真意を取り違えてなんてこと……気遣ってくれていたのに……って!いつまでも見せててすみません!」
慌てて下着とズボンを上げようとする狭山を、やんわりと手で制する。
「文人さん?」
途中で止められて、不思議そうに視線をよこす。
「ひとりでシてなんていないって言いましたよね」
「え……」
「だったら、俺だけじゃなくて、狭山さんだって辛いはずです」
手を伸ばして指先で中心に触れると、ビクリと体がこわばる。
「さすがに口では出来ないですけど、手くらいなら」
柔らかく握り混んでふにふにと揉むようにしていると、性器は徐々に芯を持ち始める。
「や、文人さん、ダメ、です」
「狭山さんだってしてくれたじゃないですか。もっと凄いことまで」
「それは……ぁ……っ」
言葉を続けようとして漏れた控えめな声に、背中を押される。
「人のに触れるなんて初めてだから、上手くないと思いますけど」
根元から先端へ、そしてその逆を。ゆっくりとたどりながら告げる。
「それでもきっと、自分でするよりはイイはずです」
ぐり、と先端の割れ目に指先を押し込むようにすると、狭山がうわずった声を上げる。じわ、と先走りが滲み出す様子に、ごくりと唾液を飲み下す。
「文人さん、あなたはそんなこと、しなくて、い、あっ」
「嫌ですか?俺に触れられるの。気持ち悪い?」
「気持ち悪くは、あ、んっ、ない、ですけど」
「さっきの俺と一緒ですね」
言って、俺は小さく笑う。
「立場が、ちが……っ」
頑なに言い張って譲らないので、まだ言うか、と擦り上げる手に力を込める。
「ひぁ!?」
強く扱かれて、高い声が唇からこぼれ落ちる。
「俺の言ってること、ちっとも分かってくれないからお仕置きしちゃいました」
「そ、んな……」
「狭山さんは兄の事故に負い目を感じてる。俺はそれをいいことにあなたに無理を強いてる。だったら俺もあなたと同じように、罪悪感を持つべきですよね?」
ふる、と狭山は首を横に振った。
「人生を台無しにしているのだから同じだ」
「ちが……ふ、ぁぅ……」
「罪悪感を持ち続けて暮らしていくだなんて、そんな生活、お互い不幸じゃないですか?」
「あ、あ、ぅ、ん」
先端に染み出すものを塗り広げ、滑りがよくなった手のひらでくびれから上を撫で回す。
熱いくらいの体温と、ぬるりとした手触りが気持ち良い。控えめに、しかし堪えきれないといった様子で漏れる声を、もっと聞きたいと思う。
同性に……狭山に触れることでこんなにも興奮している自分が、とても不思議だった。
「返事、できないくらい気持ちいいですか?早くイきたいでしょう?久しぶりですもんね」
でも。
「あ……っ?」
きゅっと根元を握った俺に、狭山が不思議そうな声を漏らした。
「お互い様、です。今の立場も、この行為も」
「そんなわけには……」
「了承してくれないと、イかせてあげません」
せき止めたまま反対の手で敏感な先端を刺激し続けると、狭山はすすり泣くかのように体を震わせ始めた。
「ね?俺、素の狭山さんで過ごして欲しいです」
言い聞かせるように、優しい音を意識して声を発する。
我ながら卑怯だと思う。快感で翻弄して、籠絡しようとしている。
けれど、あんな風に柔らかい笑顔で過ごせるようになるのなら、どれだけ卑怯でも構わない。
「ほら、分かったって言ってください。そしたら、ココも、一緒に生活するのも楽になりますから」
小指だけを先端に残して、そこをくすぐりながら、他の指は茎を伝うようにして根元へと向かわせる。親指と人差し指で作った輪で裏筋に圧をかけながら撫で上げる。
「ああっ」
先端へ向かう指と一緒に欲がせり上がろうとする。けれど、外に出ようとするものだけが、戒められて取り残される。
「う……」
解放されない快楽が辛いのだろう。潤んでいた狭山の目からこぼれた涙が、頬へと伝う。
「いいですよね?狭山さん。じゃなきゃ、俺もずっと苦しい。ね、俺のこと、楽にして下さい」
最後は、情に訴える。
「わ、わかりました、から……っ、もう……っ」
「ありがとうございます」
ちゅ、と俺の肩を掴んだままの腕に唇を落とした瞬間、自分の行為に愕然とした。
いくら狭山が了承したことにホッとしたからといって、どうして口づけなんか。
「うぁ……」
辛そうな狭山の声で我に返った俺は、根元を拘束していた指を外し、速度を上げて扱く。
「あ、ダメ、急に、はや、あ、あぁっ」
散々焦らされていた狭山は、あっという間に達っした。
熱を吐き出して、くたりと俺に寄りかかる体を受け止める。
手の中に溢れた熱いものは、自分が出すものと大差ないはずなのに、俺はそれに見とれてしまう。
真面目で、他人には信じられないくらい優しいくせに、自分自身には驚くほど厳しい。そんなストイックな印象の彼が吐き出した白い欲は、そのアンバランスさのせいか、とても綺麗に見えた。
この日を境に、俺と狭山の関係は変わった。
コトが済んだ後、俺から提案したのだ。
ひとつは呼び方を改めること、もうひとつは丁寧語をやめること。
二人で話し合った結果、「文人さん」は「文人くん」に、「狭山さん」は「秋久さん」になった。
丁寧語をやめることには強く難色を示したけれど、一度言質をとった俺は譲らず、結局向こうが折れる形で決着がついた。
そんな風にして、被害者遺族と加害者、見張る側と見張られる側、そんなぎこちない関係は、少しだけありふれた同居人に近づいたのだった。
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