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27.貴女は私の掌の中ですわ。
しおりを挟むオーレオールは顔に影を落とした。
短い溜息が溢れると険しい表情で再び話し始めた。
「あれらは、同郷にいる時から美しいものに惹かれて平気で残虐な事をしてきたわ。兄の方は特に物、妹の方は人ね。奪ったり、壊したりと酷かったの。
変わり者の妖精がいると言ったでしょう?
あれはグニー・アレグリアの兄のライマー・アレグリアの事よ。
兄は美しい物なら手当たり次第収集し、終いには創るようになったのよ。
それが武器だったの。妖精にしか触れないナイフを創ったのはライマーよ。
妖精の里でも有名だったから妖精なら誰でもわかる話。
中にはライマーに武器を依頼する物がいたのだけれど、ライマーは自分の為に創った物だからと断固として手放さなかったわ。
ライマーは妖精にしか触れない美しい物を沢山創った。創って満足したのでしょうね。
最後にはその物達に埋もれて亡くなっていたらしいわ。もう数年前のことだわ…。
ロティが刺されたナイフ以外は全て妖精の里にあるか、もしくは妖精王の命令で壊されたわ。
残っているのはほんの一握りのはずよ。
それも王家で管理されてあるからはっきりとした数はわからないのだけどね。ロティが刺されたナイフは私が保管しているから大丈夫よ。」
そう言うと自身の太腿の所に手を当てる。
そこに隠してあるのだろうか、見つめているとオーレオールは微笑んだ。
「さてェ、話がかなり逸れてしまってごめんなさいねェ。今日はどうしたのかしらァ?」
口調が戻るとひんやりとした雰囲気も一転し、穏やかなものになる。
ルークは私をちらりと見た後話し始めた。
「あの女の召喚獣にロティが呪いをかけられた。
その呪いがどんなものなのか知りたい。ギルドには読呪紙があるだろう?」
オーレオールは怪訝な顔になる。
「もうロティを嗅ぎつけたのねェ。目敏い子ォ。
ロティは前世で呪術、解術、回復魔法が使えたとルークに聞いていたけどォ。それは今は使えないのよねェ?ギルドの登録には薬師と回復役で登録しているみたいだしィ。」
「はい、そうです…。」
私が落ち込み伏せるとオーレオールは優しい声で言う。
「落ち込まないでねェ。貴女みたいな存在は会ったことないから確かな事は言えないんだけどォ。
貴女は大丈夫な気がするわァ。
サブギルドマスターの勘ねェ。
とりあえず読呪紙を持ってくるわァ。」
そう言うとオーレオールは席を立ち部屋から出て行った。
ルークは私の方を向くと心配そうに見つめる。
「大丈夫か?ロティ。あの女の話で気分が悪くなったりしていないか?」
私は苦笑しながら答える。
「大丈夫だよ、ルーク。姿を見れば良い気もしないけど、話だけなら、ね。」
「そうか…ロティは偉いな…。俺は話だけでも不快だがな。」
ルークが私の頭を撫でる。
子供のように扱われたような気もするが、きっと心配心からなのだろう。大人しく撫でられておいた。
◇◇◇
戻ってきたオーレオールはルークを部屋の外に出した。
なんでも呪いに直接紙を貼りつけて、呪いがどんな作用があるのか調べる物らしい。
もしくは血を紙に垂らさないといけないらしいが、血は回復魔法でも再生出来ないからなるべく控えたい為、貼る方にした。
オーレオールに手伝いをしてくれるというので、私は左肩の呪い跡を見やすくする為、上着を脱いで前を隠した。髪も掻き分けて寄せる。
左肩にぺたりと紙が貼られる感触があった。
後ろからオーレオールはうっとりとした様子で話す。
「それにしてもォ、ロティは綺麗ねェ。
妖精位惹かれる人間は中々いない物よォ。」
「…それを言うならグニーに好かれているルークもでは?」
「そうねェ、ルークも綺麗ねェ。
私はもっと可愛い方が好きだからなんともだけどォ、貴方達は妖精に好かれる容姿ではあるわねェ。
妖精は綺麗なものや美しいものが好きだからァ。
ロティは可愛いのに綺麗だわァ。この光景も色っぽいわァ。眼福ねェ。」
オーレオールは私の左肩に貼ってある紙を押さえながらうふふと笑う。同性のため羞恥心がなかったが、そう言われると気恥ずかしい。
ードンドンッ。
扉が叩かれる音がする。ルークが叩いているようだ。2人して扉を見る。
「ふふふ、面白いわァ。ヤキモチ妬いちゃってェ。
前世の事本当に覚えていないのォ?ルークとどこまでいったのかしらァ。ゆっくり恋バナしたいわあァ。」
キラキラと表情を輝かせてオーレオールは興奮気味に喜んでいる。
扉の向こうから微妙な殺気が漏れてきて微妙に怖い為小声で言う。
「本当に前世は覚えていないのですが、思い出せそうな気もするので…。ルークと私がどれくらいいってるのか私も知りたいくらいなんですよね。」
ルークは教えてくれなかった事だ。
自分で言うのが恥ずかしかったからなのだろうか?ならそんなに進んではないのだろうか。
私が考えているとオーレオールは僅かに唸りながら言った。
「ん~~~。前にルークに関係性を聞いた時はァ、恋人とは言っていたわねェ。さすがに内容までは聞いてないわよォ。あらァ。終わったみたいィ。」
オーレオールは紙を私の肩から外した。見る様子はなく一度テーブルに伏せた。
服を直し、ルークを部屋に呼び寄せる。
入ってきたルークはどのか顔が赤い。オーレオールは少し驚いた様子だ。
「貴方がそんな顔をするのは初めてみたわァ。いつもお堅い顔か、怒ってる顔しか見ないものねェ。」
危うく突っ込んでしまう所だった。
こんな百面相のルークが人前では違うのか。
そういえば他の人にもあまり感情を出していなかったような気もする。
「まァ、いいわァ、結果が出たから2人とも見て頂戴ねェ。」
オーレオールは目の前の紙を手で示した。
私の隣に座ったルークは片手で紙を捲り、内容を読んだ。
「状態把握。追跡の呪い…?
…なるほど、昨日の時点でロティがどこにいるか、体の状態はどんな状態なのかあの女にはバレているわけか。腹が立つ…。」
「じゃあ…どこに居ても同じって事かな。隠れても無駄みたいな…?」
「そう言うことねェ…。一方的で不利ねェ。嫌な子ォ。」
「体を蝕む系じゃなくてある意味良かったが、追跡も厄介ではある。さっさと片をつけてしまいたい所だな。俺の前に出てくれば捕縛でもなんでも出来るのだが、召喚獣しか寄越してこない。」
文句を言いつつも、ルークは読呪紙を自身のポケットにしまった。
空になったテーブルにオーレオールはどこから出したのかわからないが、真っ赤な液体の入ったフラスコ瓶を真ん中に置く。量はそんなに多くない。
「これェ、一応あげるわァ。あまり量が入っていないけどォ、護身用には使えるはずよォ。」
「この赤い液体はなんですか…?薬じゃないみたいだけど…。」
「私の血よォ。」
「血!?」
血を貰うなど未だかつてない事なので驚いてしまう。クスクスと笑いながらオーレオールが続けた。
「私の血というよりはァ、妖精の血と考えてェ。ないとは思うけどォ、また妖精しか触れないナイフや武器で攻撃されたらすぐには抜けないでしょォ?
そういう時にこの血を手に掛けるとォ、触れる様になるわァ。コアトで試したから実証済みよォ。
昨日ルークに気をつけてと言ったけど気になってねェ。急いで実験してェ、採血したのよォ。」
オーレオールが笑顔で言う。
これにはルークも驚いたようだったが、僅かに驚いた表情をすぐに戻してフラスコ瓶を手に取った。
「…ありがとう。すまない、オーレオール。」
「いいえェ、これ以上同胞が人を傷つけるのを見たくないのよォ。お馬鹿のグニーは少し罪を重ね過ぎたわァ…。貴方達の幸せを私は祈ってるわァ。」
オーレオールの優しい表情と手を組み祈る様子は天使のようにも見え、心の底から暖かい気持ちになった。
❇︎オーレオールの口調は基本伸ばして発音するが、真面目な話や集中している時、戦闘中などはハキハキした話し方になる。
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