52 / 159
51.これで胃に穴が空いたら犯人は1人。2人?
しおりを挟む重そうな光が零れ落ちるシャンデリアや豪華絢爛な内装は目が潰れてしまうかと思うほどの煌びやかな光を放っている。
凝視するのも憚り無表情を保つ。
暫く歩くと中庭に着いたようで少しホッとする。
ドレスで歩くだけでも疲れるのに更に王宮ともなると足枷を何個も付けて歩いているような感覚になってしまう。
表の庭も美しかったが、中庭はまた別の空間だった。赤い薔薇で統一されたこの空間は空気が違うように感じる。
庭の真ん中に豪華なテーブルと椅子がありその椅子に1人座っている人が見えた。
(間違いなく…陛下だよね…。うっ。内臓が口から飛び出しそう…。)
その人に近づくとその人は笑顔で手を振っていた。
「待ってたよ、ルーク。ロティ、王宮にようこそ。
これは謁見ではない、この場は非公式にした。
堅苦しくなくていい。発言も自由にしてほしい。」
30代くらいの金髪の碧眼のその人は満足そうに笑って言った。
正装にファー付きのマント、これに王冠があれば絵に描いたような王様の姿だ。
そんな人を目の前にルークはふてぶてしく言い放つ。
「元より堅苦しくするつもりもないがな。」
陛下でほぼ確定しているであろう人物に、そんな態度を取れるルークが信じられなくてどこか他人のように感じた。
なのにそれをその人はくすりと笑った。
「くすっ、お前はな。ロティは今にも口から心臓が出そうだぞ。大丈夫か?ルークから聞いてはいたが、本当に美しいな。
一応挨拶をしておこうか。メルニア王国の王マルグリッドだ。」
スローモーションのように、だが一瞬の出来事で私の頭はさっきから置いてけぼりで目が回りそうだ。
失礼のないようにしたいのに礼儀など知らない私はさっきのハインツの言葉を思い出して急いでお辞儀と挨拶をする。
「おはつにおめにかかります、ロティ・キャンベルともうします。よろしくおねがいもうしあげます…。」
「ふふ、本当に可愛らしいな。
おっと、そんなに睨むんじゃない、ルーク。
ロティ甘いものは好きかな?料理長が作る菓子はどれも美味だ、遠慮しなくていい。さ、座って食べながらでも話そうか。多忙なものでな、あまり長い時間はとれない。さっさと本題に入ろう。」
陛下が促すとすっとハインツが椅子を引いてくれた。
陛下が椅子に座ると柔かにもたれかかる。私達が座るのを待ってくれているが、王宮の椅子は豪華過ぎて座ることすらも怖い。
息を呑んだが、拒むことも出来ないため大人しく座る。
ルークはなんなく座るとハインツは全員に紅茶を入れてくれた。
目の前に置かれると陛下は紅茶を優雅に飲みながら切り出した。
「さて、ロティの情報を止めていた事については本当にすまなかった。ルーク、ロティ。
だが、わかって欲しい、この王国は古代竜に護ってもらっているのだ。中途半端な相手をすると竜の機嫌を損ねる。それは避けたかった。
埋め合わせをすると言っていたが公式な謁見と褒美と称号の授与式は無くそう。お前は嫌いだろう?
褒美は勿論与える。後はついでに叙爵なんかはどうだろうか?」
笑顔を絶やさない陛下と真逆の顔の顰めっ面のルーク。
ルークはケーキスタンドから勝手にケーキやマフィンを取り皿に持った。
フォークでそれを刺しながら鋭い目付きで呆れた様に言う。
「2年も情報を止められていたのにか?
それに俺はあれほどあの女を逃がさないよう、きつく言いつけていたはずだ。なのに逃したな。その埋め合わせはどうなる。
謁見はそれでいい、褒美は貰う。だが爵位に至っては本当に必要ない。貴族の付き合いも夜会などにも出たくはないからな。面倒だ。」
言い終わるとルークはケーキを頬張った。
よく緊張もなしにいられて、更には食べ物を食べる余裕すらある事が信じられない。
私の胃はぎゅうぎゅうに掴まれているというのに。
ハインツが静かに私にもケーキを取り分けようとしたが首を振って遠慮した。
私の事は置き去りに2人の会話は進んでいく。
「褒美と賠償は言ったものを用意するから怒らないでくれ。本当に一介の冒険者だな。お前は昔から叙爵を嫌って、父も祖父も嘆いていたぞ?
グニー・アレグリアの件はこちらでも血眼になって探している。看守を5人も殺されたのでは黙っていられない。
だが中々見つからんのだ。どこに隠れているのやら。
連れて行かれた看守もどうなっているのか…。
こちらが捕まえた際にはお前の手で処分を決めて貰おう。好きにするといい。」
「あの女は近くにはいると思うがな。
あの女からロティが呪いを掛けられた。またロティを殺すつもりなのだろう。
俺がロティを守るが念には念を入れたい。いつもの3倍の褒賞金と魔導具を寄越せ。それが今回の報酬でいい。」
チラリと哀れみの目で陛下が私に視線を移しながら話を続ける。
「ロティが呪いを…。それは厄介だな…。なに、本当に謝罪の気持ちはある、5倍の褒賞金は出すさ。魔導具は帰りに王宮の魔導技巧師の所に寄るといい。好きなものを持っていくように。ハインツ、技巧師に言伝を頼む。」
「かしこまりました。」
陛下に言われると、素早くハインツが他の使用人のところへ行き言伝をしているようだ。
テンポよく会話する2人に私は固まりながらなんとか紅茶を口に運び頂く。
折角の高そうな紅茶も味がわからない上に手が震えて飲みにくいったらありゃしない。
耳では会話を聞いてはいるが、この2人の会話の中に入れる気もしないと思っていたのに、陛下はこちらを向きにこりと笑って言う。
「さて、ロティ。君は欲しいものはあるかな?ルークと会う事を止めていた詫びだ。」
「…ホシイモノ。」
「ロティ、まだ緊張しているのか?」
片言の私に驚きを見せるルーク。
自分は更に別のお菓子を取ろうとしてる。
私は陛下がいる事を忘れ怪訝な顔をルークに向ける。
「…というより何故ルークはそんなに陛下に太々しいの…?この国の王様だよ?」
ルークは陛下をチラ見したが、すぐに私に目線を戻し若干困った顔で話す。
「100年以上もこの国の為と言いつつ冒険者をやっていれば、自然と冒険者の等級も最上級にはなるし、王族を警護する事が何度もあったからな。それにこいつとは赤ん坊より前から知っているから今更畏まる気にもなれない。」
ルークの発言は今の私には吹雪のようで酷く肝が冷える、というよりもう凍ってしまいそうだ。
陛下が怒るのではないかと盗み見ると、ルークにあんな事を言われたにも関わらず笑顔で頬杖をつく陛下。
「まぁ私もそうだね。人が居ない時にはこうして話してくれた方が気が楽でよい。
王に友人など滅多にいないものなのだが、ルークは父の代からの友人だ。
ルークは本当にこの王国の役に立ってくれた。ルークがいなければ、なし得ない事も沢山あったからな。
ルークが私に向ける態度は親友であるからこそと自負はしているよ。
余り気にしなくていいと言ってもどうしても気になるだろうね。それが普通の反応だよ、ロティ。
とりあえずそれは置いておいて、欲しいものがあるなら遠慮なく言ってみなさい。
ルーク以外の男は用意しても無駄に終わるだろうからそれ以外ならなんでもいいぞ。」
寛容と爆弾を同時に見た気分だ。ルークは陛下を睨んだ。
「ロティに変な入れ知恵をするようなら俺は今後一切王国に手を貸さない…。」
「ほら、見ろ。用意しても始末されかねん。昔からルークはロティ一筋だ。厄介なのに惚れられたなぁ、ロティ。」
「い、いえ、私もルークが好きなので厄介とは思ってないです…。それと、陛下、私…まだ欲しい物が思い浮かばないので…。」
辞退したい。
また王宮に来て陛下とこうやって話すのは何度もあっては私は耐え切れない。
ここで初めて陛下の笑顔が崩れ、一瞬その顔に驚きをみせた。
「ほお。何とも健気だ。では何か欲しいものがあったらルークに言いなさい。ルークから私に伝えた方がロティも気楽だろう。」
それなら、と私は頷いた。陛下はまたも綺麗な顔で笑顔になる。
ハインツが持っていた懐中時計を見て陛下に声を掛けた。
「陛下、そろそろお時間です。」
「そうか、早いな。では私は失礼する。ゆっくりして行っても良いし、技巧師の元へ行くのも良い。そういえば勇者達もルークに会いたがっていた、会うと良い。では、またな。」
するりと椅子から立ち上がり陛下はテーブルを離れた。私も椅子から立ち上がりお辞儀をすると通り過ぎる時に陛下に頭を撫でられた。
「!」
「ルーク、嫉妬のし過ぎは格好悪いぞ?」
そうと笑いながら陛下は早足でその場を去っていった。
その後ろ姿をルークは怒ったような気不味そうな、なんとも言えない顔で睨んでいた。
❇︎王国の監獄は王都の左下の端にある。王宮管轄でギルドも一部協力をしている。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる