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96.″———”?◆
しおりを挟む◆◆◆
止まると体の震えで動けなくなりそうで、私は王都の入り口に早足で急いだ。
門衛が王都に入る人をチェックしているようで順番を待った。
そわそわと落ち着かず、手を何度も擦り合わせた。
私の順番が来て4人の門衛の前に来た。
2人の門衛に長槍で王都への入り口を遮断されながら門衛が私に言う。
「名前を。ギルド登録者か?」
「はい、そうです。名前はロティ・ブラウアーです。」
そう言うと門衛が城壁の中のにある簡易な受付の門衛の1人が声を漏らす。
「ちょっと待ってくれ…。えー………と。
あ、ああ…名前があるな。よし、通って良いぞ。」
「ありがとうございます。」
もう1人の受付の門衛はにっこりと笑い私に言う。
「初の王都だな。良いとこだ。楽しんでくれ。」
「はい。」
王都の中に通されると賑やかな街並みが広がっていた。
露店も多いし、商店も多い。活気溢れる街並みに圧倒される。
時間帯もお昼近いためか人もかなり多いし、中には亜人の姿もある。
目を凝らしその人達を見るが、″———”は居ないようだ。さっきの門衛も違った。
急足で前に進み、次々と人を見ていく。
異性も、同性も、亜人も全ての人を目に移す。
(此処じゃないのかな…。どこら辺なのかもわからない…。一度ギルドに行ってみようか…。)
そう思いギルドを目指す事にした。
◇◆◇
ギルドがどこにあるかわからず、かなり遠回りをしてしまった。
本当なら王都の入り口から近くの大きな建物だったみたいで、立派過ぎる故に見逃したようだ。
迷子になって、昼食ついでに入った店で聞かなかったら更にまた迷っていただろう。
王都はメイン通りは大きく広い道だが、路地裏の道はこまかく細い道も多かった。
裏道は宿屋や、酒場、民家などが多く、メインの通りは商店が多いようだ。
今の時間帯でも酒場が開いているのはやはり王都だからなのだろう。
大きな街はどこでも朝でも真夜中でも人がいて完全に休まる事がない。
小さな村は夜になると全員家の中だ。
人が多いと規模が違う。
ギルドに向かうべく先程の店から裏道を通って歩く。今晩は王都の宿に身を寄せる事になりそうなので、その下見ついでも兼ねてだ。
なるべくなら安い所に泊まりたい。
エイミに金貨を貰っているとはいえ、私の為に使う気はさらさらない。
キョロキョロと辺りを見回していると宿から出てきている数人の男女が見えた。
神父のような格好白髪混じりの黒髪の男性に続き、私のようなロープを着た女性。
その後に剣を持ったオレンジ髪の男性。
宿から何かを引っ張って出ようとしているライラック色の髪の女性。
宿の扉に遮られ、何を引っ張ろうとしているのか見えない。
近くにくると声まで聞こえてきた。
「グニー、ちょっと待って。お礼を言ってるだけじゃないか。折角、落としたものを拾ってくれたのに…。」
「一回言ったんですもの!もういいじゃありませんか!ほら!貴女もさっさと何処かに行きなさい!ルークに近づくんじゃありませんわ!」
「はぁ…すみません。本当にありがとうございました。」
「早く行きましょう!お腹が空きましたわ。」
「強引だなぁ…。グニーは。お礼くらい普通だと思うよ…。」
「煩いですわ、ハンス。」
「グニー。お礼を言うのは煩くないよ。
あまり酷いと私も怒るからね。」
「ふんっ、ケイラの様に皆静かならいいですのに!」
「…。」
「ほら!行きましょう!ルーク!」
そう男女の声が聞こえて、宿の扉が閉められた。
扉で遮られていたのはミディアムショートの銀髪の男性だった。
ライラック色の髪の女の人に腕を引かれ、僅かに呆れた顔で一緒に歩いていた。
心臓が止まるような想いだった。
やっと貴方を見つけた。
「″———”。…″———”!!!!」
気付いたら結構大きな声で前世の名前を叫んでいた。
私の声に反応した銀髪の男性は少し驚いた綺麗な顔の青い瞳で私を見た。
立ち止まってくれたため、ほんの少しの距離を走って詰める。
目の前に来て私は自分を隠していた深く被ったロープとスカーフを取った。
私の顔を見て驚き、目を大きく丸くさせる
″———”。
言葉にならない程の嬉しさが私の胸いっぱいに広がっていた。
「″———”…。会いたかった…。ずっと探していたの…。ここにいたんだね…。」
今にも私の目からは涙が溢れそうだった。
親に打たれた時でも、エイミに咥えられ空を飛んだ時も泣かなかった。
何十年と泣いていない目からの久々の涙だ。
私は嬉しさと涙を堪えて″———”の返事を待った。
瞬きを何度かさせ、私を見つめ返す
″———”。
その口が開かれた次の瞬間。
耳を疑ってしまった。
「えっと…どちら様ですか?お会いした事…ありましたか?こんなに綺麗な人、会ったら忘れないのに…。」
何を言っているか、理解できなかった。
姿は違えどこの人で間違いない。
今や前世の面影等何処にもない。だけど私には分かる。この人は″———”の生まれ変わりだと。
まさか″———”だった時の事を覚えていないのだろうか。
「″———”?嘘だよね…?約束したじゃない……。私…ずっと探してたの……。」
「″———”とは俺の事ですか?
俺の名前はルーク・ロイヴァと申します。
すみません、やはりお会いした記憶がなくて…。良かったら一度お話を」
「駄目ですわ!!ルークは私と付き合ってるんです!!なんですの、この人。
いきなり気持ちが悪いです。ルークの名前も違う名前で呼ぶだなんて失礼ですわね!」
女性の一言で私の涙は何処かに消えてしまった。
カタカタと震えます体と指先。
さっきまで熱いくらいの体が、今は血の気がサーッと引き、まるで私の体から血自体なくなった様な感覚になる。
憤慨する女性に私は戸惑いながら尋ねた。
「付き…合って…る?」
「ええ、そうですわ。だからやめて下さいます?不愉快ですわ。」
「グニー…俺はこの人と話して」
「もう!浮気は許しませんわ!」
そう言ってその女性は″———”の頬にキスをして見せた。
私を見てにんまりと笑う女性。
″———”は呆れ顔で溜息を吐いたが嫌そうな顔はしていなかった。
「さっさとルークから離れて下さい。」
勝ち誇った様な綺麗な笑みを浮かべて女性は私を蔑む様に言った。
それに対して″———”は眉を下げて言う。
「すみません、そういう事なので…。」
体温が失せていく。
それなのに一気に冷や汗がでて。
呼吸が浅く早くなる。
心臓が誰かに握り潰されているかの様に痛いのに、大きく早く鼓動した。
(嘘だ…。嫌だ…。お願い…。冗談だと言って…。
なんでその人の事を否定しないの…?
笑って、ごめんね、早く来ないから意地悪しちゃったって。
どうして言ってくれないの…?
僕もロティに会いたかったって言ってくれるんじゃないの………?
私をそんな目で見ないで……。嫌…嫌。
″———”から離れてよ…。
どうして…どうして…どうして…どうして。
何故忘れてしまったの…?
何故覚えていないの…?
″———”は言ったじゃない…。
誓ってくれたじゃない…。
嫌…嫌…嫌…。
やっと見つけたのに。
やっと会えたのに。
愛しい貴方がこんなにも近くて遠い…。
手を伸ばせば触れる事が出来る…。
それなのに触れる貴方は″———”じゃない。
私の″———”に触らないで…。)
死んで私を忘れてしまう位なら私は死を許す事が出来ない。
目の前が暗くなって、地獄に突き落とされたような絶望と溢れる悲しみが止まらなかった。
◆◆◆
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