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110.この命はもうあげない。
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朝、ルークが起きる前に布団から素早く抜け出し衣装部屋に向かった。
昨日は取り出す事が出来なかった普通の服もちゃんと元の場所に戻されていて胸を撫で下ろした。
着替え終えて寝室を確認したが、まだルークは寝ている様なので私は朝食の支度をし1階に降りてキッチンで調理開始だ。
30分ほど料理をしながらルークを待っていたが一向に来る気配がない為、私は階段を上がり寝室へと向かう。
扉を開けて中に入ると、先程と変わらない姿でルークは眠っていた。
(今日の予定も決まってないから、寝ていてはいいんだけど…。どうしよう、1度起こしてみようかな。)
そう思いベッドサイドに腰掛けてルークの体を触り揺する。
「ルーク、朝だよ。起きれる?まだ寝たい?」
私の声と揺すりに反応したのか、綺麗な顔の眉間に皺を寄せながらゆっくりと目を開けようとしている。
まだ眠そうな顔が可愛くてくすっと笑ってしまう。
「大丈夫?朝食は出来ているけどまだ寝たい?」
「んー……ロティ。」
唸りながらルークは私に手を伸ばしてきたと思ったら私の体に触れるとぐいっと力強く引き寄せられた。
「わ!」
突然の事に手を使えずルークに倒れ込む形になってしまったが、とろんとしたルークの顔は痛そうでも苦しそうでもなかったため少しホッとした。
「ロティ…おはよう。」
「おはよう、ルーク。」
「…昨日の格好じゃない。もう着替えたのか…。」
私の背中を撫でながら服の感触を確かめたのだろう。あからさまに残念そうな声を出すルークに苦笑いをしながら答えた。
「あの格好じゃ料理できないもの。
朝食食べれる?」
「…んっ。食べる。」
一瞬体をぐっと伸ばしたルークが私を抱きしめたまま起きた。
ルークの片手が緩むと自分の目をぐりぐりと擦って目を開けようとしている。
私もルークの目を擦るとルークはきちんと目を開けて私を見て微笑んでくれた。
◇◇◇
朝食のウインナーにぷつりとフォークを刺し、それを口元に持っていき一口で食べる。
口の中でウインナーをもごつかせているとルークがパンを片手に持ち話掛けてきた。
「今日はどうしようか?2.3日開けないとまたスザンヌの所へ行っても前世の夢は見れないんだろう?何かしたい事はあるか?」
「んー…。」
口の中の物をごくんと飲み込み、スープを一口飲みつつ考える。
したい事があったとしても今は自由に動ける身ではない。
あまり彷徨くのもどうかと思い、今日はこの屋敷で過ごそうかと考えているとそれは突然鳴り出した。
ーッジリリリリリリリリリリリリ!!
ルークが急ぎで席を立ち、キッチンの方へ向かった。黄金のオウムの魔導具が薄らと光るとそれは翼を広げて動き出し、口をパカっと開けて言葉を出した
【やっほー!ルーク!おはよー!】
「何用だ…?アレックス。」
【えー久々なのに冷たくない?もぉーそんなんじゃロティに嫌われちゃうよ~?】
「ッッチ!!」
【また舌打ちしてっ!もぉ~本当に冷た…。うっっ!はい、すみません。真面目にします。刺さないでっ!】
「誰が分からないが一度刺していい。簡単には死なん。」
【ルーク!ノニア辞めて!真面目にするから!
ごほん、気を取り直して…。ルーク、ロティもいるかな?一度会えないかな?ゴーレムの件で話がしたいんだ。忙しいか?】
「ちょっと待て。ロティ、どうだろう?」
ルークにそう尋ねられ私は咄嗟にパンを持ったまま腕で丸を作った。
「いいそうだ。どこで落ち合う?」
【なら俺達の王都の拠点でもいいか?
ルークの屋敷からなら王宮よりもそっちの方が近いだろう?】
「ああ…そうだな。なら2時間後に着くように行く。待っていてくれ。」
【ああ、わかった。それとベムから追加で魔導具を渡されているからそれも渡すから。
じゃまた後でな!】
そう言うとオウムは翼をたたみ、色がスッと金色に戻って固まってしまった。
魔導具を置くとルークは席に戻ってきて、私の向かいの椅子に腰を下ろした。
「ロティ、朝食を終えたら出かける準備出来るか?」
「うん、わかった。早く食べちゃおう!」
パンを大きめの一口口に入れて、スープを飲む。急いで食べようと頑張っているとルークがくすりと笑った。
「焦らなくていい。ゆっくりでいいよ。」
「んんっ。」
口にまだ残るパンに苦戦しながらも私は首を縦に振り、途中の食事をしっかりと胃の中に収めた。
◇◇◇
アレックス達の拠点はルークの屋敷から然程遠くはなかった。15分程歩いた所にあり、40分前に家を出た為、余裕の時間で街中を歩いて向かっていく。
途中私は露店で見かけた果物やお菓子などを素早く買いながら魔法鞄に詰めていった。
「ロティ、もうちょっと吟味して選んでも大丈夫だぞ?」
「だって…またグニーに狙われたら…。」
今日は首元が見えないようタートルネックの服に、手首も見えない様にぴっちりした長袖着用だ。少し暑いが跡を見えなくするためには致し方がない。
グニーがこの跡を見て街中などで襲ってきたら大惨事だ。そうなる前にできる対策が服装でもある。
私の心配にルークはふと笑顔を見せて私に言う。
「昨日転移魔法陣2つは潰したんだ。今頃使えなくて焦っていると思いたい所だがな。
それに、襲ってきたら俺が倒す。
気配を感じたら…悪いがロティを連れて上空に行く。上空なら被害も少ないだろうからな。」
「っ!ありがとうルーク…。」
そこまで考えてくれていた事にじわりと感動を覚える。
ルークの言葉で安心した私はその後アレックス達の拠点に着くまでに、次にエイミに会った時のお土産や、スザンヌとのお茶の時に食べる物などを目を輝かせて楽しんで次々と購入してしまった。
コン、コンコンコン、コン。
ルークが目の前の玄関扉を変な叩き方をした。
裏手にある一見普通の民家に見えるこの建物が勇者の拠点らしい。
レンガ造りの簡素な住宅のようで、隣の家とほぼ変わらない作りだ。
窓などもあるが中はどうにも見えない。
目印となるものは玄関扉にくっ付けている小さい犬のぬいぐるみ位だ。
外見をぼーっと観察していると玄関の扉が開かれた。
「おはようございます、ルーク、ロティさん。ここまでお疲れ様です。さあ入って。」
柔かなエドガーが顔を綻ばせて私達を迎えてくれた。
「邪魔をする。」
「お邪魔します。」
そう言って私達は玄関扉から中に入った。
するとどう言う事か。外から中を見た感じと今、中に入った感じとでは内装が様変わりしていた。
「えっ!?どう言うこと!?」
私が唖然としながら辺りをキョロキョロ見回した。
外から見た中は薄暗く内装や家具も古びた感じのものに見えたのに、中に入ると外見から見た3倍は広いであろう綺麗な玄関になっていた。装飾品なども煌びやかに光っていて明らかに高そうだ。
訳がわからず混乱しているとくすくすと笑う声がした。
そちらを見るとサイラスが楽しそうに笑っていて、私達に近づいてきた。
「おはようございます、ロティさん。
こんなに早くお会い出来ると思っていなかったので、嬉しいです。
ちなみにここには空間拡張魔法と認識阻害魔法、偽装魔法など複数の魔法が複雑に掛けられているから外見と中が違うように見えるんですよ、驚きますよね。」
「サイラス先生…!おはようございます。私も嬉しいです!
魔法だったんですね…言われたら納得ですね…。偽装魔法とはなんですか…?」
「偽装魔法はそのものの形を変化させて、見た者を錯覚させてしまうんですよ。私も使えますが、例えば…。」
そう言ってサイラスは杖でトントンと床を叩くと、ふわりとサイラスの体に魔法の光が纏わりつきあっという間にサイラスの外見が、私に変わってしまった。
にこりと微笑むサイラスに目を丸くさせ驚いてしまう。
「ふぁ!?私に姿が変わった!!」
「ふふ、このように顔も変えられちゃうんです。ただこの魔法中はかなり魔力を使っちゃうので使いこなせないとあまり役には立ちませんね。
変身したいなら魔導具の方が安定していますし、魔力切れを起こさなければその状態を維持出来ますからそちらの方がおすすめではありますね。
立ち話になってしまってごめんなさい。
皆さん奥にいますので行きましょう。」
私の姿のままサイラスは前を歩いて奥に進んだ。
エドガーが食い入るように見つめていたのが少しばかり気になったが、ルークは全くの無関心のようで、私の手を引きながら廊下を歩いていた。
廊下の奥の扉をサイラスが開けるとリビングのような広々とした空間にアレックス達の姿が見えた。
アレックスはソファに座っていてこちらに手を振っていた。私達がそちらに歩いて向かうとアレックスはにこりと微笑みながら口を開いた。
「おはよー、ここまで来てくれてありがとうね!ルーク、ロティ!」
「おはようルーク、ロティ。ロティ…なんだか暑そうな格好だ。」
「おはよ!ルーク、ロティ!あら本当ね?何かしたの?アレグリアに掛けられた呪いのせい?」
リニとノニアは私の格好を見て首を傾げながら眺めていた。
色々と突っ込まれる前に急がねばとアレックス、リニ、ノニアの挨拶と言葉に慌てて答えていく。
「おはようございます、みなさん。
えっと、暑さは大丈夫ですよ、呪いでもないので心配には及びません。
そ、それよりこれ皆さんでお食べ下さいっ!」
私はそう言うと手土産で持っていた箱を差し出した。
ルークが私からひょいと取るとエドガーに渡す。
エドガーは素直に受け取ると中身が見たいのか少しソワソワしているようだ。
「おーありがとう~!気がきくねぇ、ロティ。ありがとう。
じゃあ皆でお茶でもしながら話そうか。」
アレックスの言葉にエドガーは箱を持ちがながらどこかに行ってしまった。
その他のメンバーはアレックスが座っている広いソファに次々と座っていく。
ちなみにサイラスは座る前に偽装魔法を解き、いつものサイラスの姿で着席をしていた。
ルークが私の手を引きソファの所へ連れて行ってくれた為、私達もソファへと腰を下ろす。
トレーにお茶と先程の手土産のお菓子とまた違うお菓子を持ってエドガーはソファに戻ってきた。
7人分のお茶とお菓子は重かろうに軽々運ぶその姿に感服しそうになる。
サイラスが魔法でお茶とお菓子を浮かせ、全員に配るとアレックスは見計らってがらりと雰囲気を変え、別人になったかのような真剣な眼差しをして話を始めた。
「エドガー、サイラスありがと。
さぁて、本題に入ろうか。ゴーレムの件についてだ。
どうなったと思う?」
「犯人を捕まえたのか。」
ルークがアレックスのクイズ形式の問いに答えたが、アレックスは苦い顔をして首を横に振った。
エドガーが淹れたお茶を一口飲むと溜息混じりに話を続ける。
「捕まえるどころか、何も出なかった。
ゴーレムの元となる核の石すらだ。
回収なんて1人2人の短時間で出来るもんでも無いだろうに。
2日酔いになりながら俺…土掘るの頑張ったのに。」
しんみりと言うアレックスにノニアは鼻で笑って苛立ちを見せる。
「加減知らずに飲むからよ!本当馬鹿よね、途中吐いてたし!」
「私は分解魔法を使ったのでスッキリしてましたよ。」
「っく…。まあそれは置いておいて…。
このままゴーレム作成者を無視できない。
ギルドにも依頼でゴーレム作成者の捜索願が出てはいるが、何の痕跡もないゴーレムの核しか証拠もなければ、情報もない。
冒険者をいくら注ぎ込んでもわからずじまいになる。
だから暫くは警護を兼ねて俺達は王都に留まることになったんだ。
俺達もゴーレム作成者を探しながらアレグリアの事も気に掛けられる。
見つけたらとっ捕まえてやるよ。」
にっこりと笑顔を見せたアレックス。
それに続いて他のメンバーも力強い笑顔を見せてくれた。
予想外の強力に私もルークも嬉しきさが込み上げてくる。
ルークは頭を下げて言葉を出した。
「感謝する…皆。」
「自分達、どれだけルークに守られてきたか、わかってる。少しでも力になりたかったんだ。」
「そうよ!ロティの話だけいっぱい聞かされたのに、こうも緊急事態になって手も足も出せないんじゃもどかしいじゃない!」
「もし、何かあっても私達がいたら手を貸す事ができますから。」
「アレグリアを捕まえて、貴方方には安心して幸せに過ごして貰いたいんです。」
皆の言葉に私の目が潤む。
下手に瞬きをしたら涙が出そうだ。裾で目を軽く抑えながら私は頭を下げた。
「ありがとうございます。凄く頼もしいです。私も…今度は絶対に殺されない。」
頭を上げて言葉にした私は漸くグニーと向き合った気がした。
昨日は取り出す事が出来なかった普通の服もちゃんと元の場所に戻されていて胸を撫で下ろした。
着替え終えて寝室を確認したが、まだルークは寝ている様なので私は朝食の支度をし1階に降りてキッチンで調理開始だ。
30分ほど料理をしながらルークを待っていたが一向に来る気配がない為、私は階段を上がり寝室へと向かう。
扉を開けて中に入ると、先程と変わらない姿でルークは眠っていた。
(今日の予定も決まってないから、寝ていてはいいんだけど…。どうしよう、1度起こしてみようかな。)
そう思いベッドサイドに腰掛けてルークの体を触り揺する。
「ルーク、朝だよ。起きれる?まだ寝たい?」
私の声と揺すりに反応したのか、綺麗な顔の眉間に皺を寄せながらゆっくりと目を開けようとしている。
まだ眠そうな顔が可愛くてくすっと笑ってしまう。
「大丈夫?朝食は出来ているけどまだ寝たい?」
「んー……ロティ。」
唸りながらルークは私に手を伸ばしてきたと思ったら私の体に触れるとぐいっと力強く引き寄せられた。
「わ!」
突然の事に手を使えずルークに倒れ込む形になってしまったが、とろんとしたルークの顔は痛そうでも苦しそうでもなかったため少しホッとした。
「ロティ…おはよう。」
「おはよう、ルーク。」
「…昨日の格好じゃない。もう着替えたのか…。」
私の背中を撫でながら服の感触を確かめたのだろう。あからさまに残念そうな声を出すルークに苦笑いをしながら答えた。
「あの格好じゃ料理できないもの。
朝食食べれる?」
「…んっ。食べる。」
一瞬体をぐっと伸ばしたルークが私を抱きしめたまま起きた。
ルークの片手が緩むと自分の目をぐりぐりと擦って目を開けようとしている。
私もルークの目を擦るとルークはきちんと目を開けて私を見て微笑んでくれた。
◇◇◇
朝食のウインナーにぷつりとフォークを刺し、それを口元に持っていき一口で食べる。
口の中でウインナーをもごつかせているとルークがパンを片手に持ち話掛けてきた。
「今日はどうしようか?2.3日開けないとまたスザンヌの所へ行っても前世の夢は見れないんだろう?何かしたい事はあるか?」
「んー…。」
口の中の物をごくんと飲み込み、スープを一口飲みつつ考える。
したい事があったとしても今は自由に動ける身ではない。
あまり彷徨くのもどうかと思い、今日はこの屋敷で過ごそうかと考えているとそれは突然鳴り出した。
ーッジリリリリリリリリリリリリ!!
ルークが急ぎで席を立ち、キッチンの方へ向かった。黄金のオウムの魔導具が薄らと光るとそれは翼を広げて動き出し、口をパカっと開けて言葉を出した
【やっほー!ルーク!おはよー!】
「何用だ…?アレックス。」
【えー久々なのに冷たくない?もぉーそんなんじゃロティに嫌われちゃうよ~?】
「ッッチ!!」
【また舌打ちしてっ!もぉ~本当に冷た…。うっっ!はい、すみません。真面目にします。刺さないでっ!】
「誰が分からないが一度刺していい。簡単には死なん。」
【ルーク!ノニア辞めて!真面目にするから!
ごほん、気を取り直して…。ルーク、ロティもいるかな?一度会えないかな?ゴーレムの件で話がしたいんだ。忙しいか?】
「ちょっと待て。ロティ、どうだろう?」
ルークにそう尋ねられ私は咄嗟にパンを持ったまま腕で丸を作った。
「いいそうだ。どこで落ち合う?」
【なら俺達の王都の拠点でもいいか?
ルークの屋敷からなら王宮よりもそっちの方が近いだろう?】
「ああ…そうだな。なら2時間後に着くように行く。待っていてくれ。」
【ああ、わかった。それとベムから追加で魔導具を渡されているからそれも渡すから。
じゃまた後でな!】
そう言うとオウムは翼をたたみ、色がスッと金色に戻って固まってしまった。
魔導具を置くとルークは席に戻ってきて、私の向かいの椅子に腰を下ろした。
「ロティ、朝食を終えたら出かける準備出来るか?」
「うん、わかった。早く食べちゃおう!」
パンを大きめの一口口に入れて、スープを飲む。急いで食べようと頑張っているとルークがくすりと笑った。
「焦らなくていい。ゆっくりでいいよ。」
「んんっ。」
口にまだ残るパンに苦戦しながらも私は首を縦に振り、途中の食事をしっかりと胃の中に収めた。
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アレックス達の拠点はルークの屋敷から然程遠くはなかった。15分程歩いた所にあり、40分前に家を出た為、余裕の時間で街中を歩いて向かっていく。
途中私は露店で見かけた果物やお菓子などを素早く買いながら魔法鞄に詰めていった。
「ロティ、もうちょっと吟味して選んでも大丈夫だぞ?」
「だって…またグニーに狙われたら…。」
今日は首元が見えないようタートルネックの服に、手首も見えない様にぴっちりした長袖着用だ。少し暑いが跡を見えなくするためには致し方がない。
グニーがこの跡を見て街中などで襲ってきたら大惨事だ。そうなる前にできる対策が服装でもある。
私の心配にルークはふと笑顔を見せて私に言う。
「昨日転移魔法陣2つは潰したんだ。今頃使えなくて焦っていると思いたい所だがな。
それに、襲ってきたら俺が倒す。
気配を感じたら…悪いがロティを連れて上空に行く。上空なら被害も少ないだろうからな。」
「っ!ありがとうルーク…。」
そこまで考えてくれていた事にじわりと感動を覚える。
ルークの言葉で安心した私はその後アレックス達の拠点に着くまでに、次にエイミに会った時のお土産や、スザンヌとのお茶の時に食べる物などを目を輝かせて楽しんで次々と購入してしまった。
コン、コンコンコン、コン。
ルークが目の前の玄関扉を変な叩き方をした。
裏手にある一見普通の民家に見えるこの建物が勇者の拠点らしい。
レンガ造りの簡素な住宅のようで、隣の家とほぼ変わらない作りだ。
窓などもあるが中はどうにも見えない。
目印となるものは玄関扉にくっ付けている小さい犬のぬいぐるみ位だ。
外見をぼーっと観察していると玄関の扉が開かれた。
「おはようございます、ルーク、ロティさん。ここまでお疲れ様です。さあ入って。」
柔かなエドガーが顔を綻ばせて私達を迎えてくれた。
「邪魔をする。」
「お邪魔します。」
そう言って私達は玄関扉から中に入った。
するとどう言う事か。外から中を見た感じと今、中に入った感じとでは内装が様変わりしていた。
「えっ!?どう言うこと!?」
私が唖然としながら辺りをキョロキョロ見回した。
外から見た中は薄暗く内装や家具も古びた感じのものに見えたのに、中に入ると外見から見た3倍は広いであろう綺麗な玄関になっていた。装飾品なども煌びやかに光っていて明らかに高そうだ。
訳がわからず混乱しているとくすくすと笑う声がした。
そちらを見るとサイラスが楽しそうに笑っていて、私達に近づいてきた。
「おはようございます、ロティさん。
こんなに早くお会い出来ると思っていなかったので、嬉しいです。
ちなみにここには空間拡張魔法と認識阻害魔法、偽装魔法など複数の魔法が複雑に掛けられているから外見と中が違うように見えるんですよ、驚きますよね。」
「サイラス先生…!おはようございます。私も嬉しいです!
魔法だったんですね…言われたら納得ですね…。偽装魔法とはなんですか…?」
「偽装魔法はそのものの形を変化させて、見た者を錯覚させてしまうんですよ。私も使えますが、例えば…。」
そう言ってサイラスは杖でトントンと床を叩くと、ふわりとサイラスの体に魔法の光が纏わりつきあっという間にサイラスの外見が、私に変わってしまった。
にこりと微笑むサイラスに目を丸くさせ驚いてしまう。
「ふぁ!?私に姿が変わった!!」
「ふふ、このように顔も変えられちゃうんです。ただこの魔法中はかなり魔力を使っちゃうので使いこなせないとあまり役には立ちませんね。
変身したいなら魔導具の方が安定していますし、魔力切れを起こさなければその状態を維持出来ますからそちらの方がおすすめではありますね。
立ち話になってしまってごめんなさい。
皆さん奥にいますので行きましょう。」
私の姿のままサイラスは前を歩いて奥に進んだ。
エドガーが食い入るように見つめていたのが少しばかり気になったが、ルークは全くの無関心のようで、私の手を引きながら廊下を歩いていた。
廊下の奥の扉をサイラスが開けるとリビングのような広々とした空間にアレックス達の姿が見えた。
アレックスはソファに座っていてこちらに手を振っていた。私達がそちらに歩いて向かうとアレックスはにこりと微笑みながら口を開いた。
「おはよー、ここまで来てくれてありがとうね!ルーク、ロティ!」
「おはようルーク、ロティ。ロティ…なんだか暑そうな格好だ。」
「おはよ!ルーク、ロティ!あら本当ね?何かしたの?アレグリアに掛けられた呪いのせい?」
リニとノニアは私の格好を見て首を傾げながら眺めていた。
色々と突っ込まれる前に急がねばとアレックス、リニ、ノニアの挨拶と言葉に慌てて答えていく。
「おはようございます、みなさん。
えっと、暑さは大丈夫ですよ、呪いでもないので心配には及びません。
そ、それよりこれ皆さんでお食べ下さいっ!」
私はそう言うと手土産で持っていた箱を差し出した。
ルークが私からひょいと取るとエドガーに渡す。
エドガーは素直に受け取ると中身が見たいのか少しソワソワしているようだ。
「おーありがとう~!気がきくねぇ、ロティ。ありがとう。
じゃあ皆でお茶でもしながら話そうか。」
アレックスの言葉にエドガーは箱を持ちがながらどこかに行ってしまった。
その他のメンバーはアレックスが座っている広いソファに次々と座っていく。
ちなみにサイラスは座る前に偽装魔法を解き、いつものサイラスの姿で着席をしていた。
ルークが私の手を引きソファの所へ連れて行ってくれた為、私達もソファへと腰を下ろす。
トレーにお茶と先程の手土産のお菓子とまた違うお菓子を持ってエドガーはソファに戻ってきた。
7人分のお茶とお菓子は重かろうに軽々運ぶその姿に感服しそうになる。
サイラスが魔法でお茶とお菓子を浮かせ、全員に配るとアレックスは見計らってがらりと雰囲気を変え、別人になったかのような真剣な眼差しをして話を始めた。
「エドガー、サイラスありがと。
さぁて、本題に入ろうか。ゴーレムの件についてだ。
どうなったと思う?」
「犯人を捕まえたのか。」
ルークがアレックスのクイズ形式の問いに答えたが、アレックスは苦い顔をして首を横に振った。
エドガーが淹れたお茶を一口飲むと溜息混じりに話を続ける。
「捕まえるどころか、何も出なかった。
ゴーレムの元となる核の石すらだ。
回収なんて1人2人の短時間で出来るもんでも無いだろうに。
2日酔いになりながら俺…土掘るの頑張ったのに。」
しんみりと言うアレックスにノニアは鼻で笑って苛立ちを見せる。
「加減知らずに飲むからよ!本当馬鹿よね、途中吐いてたし!」
「私は分解魔法を使ったのでスッキリしてましたよ。」
「っく…。まあそれは置いておいて…。
このままゴーレム作成者を無視できない。
ギルドにも依頼でゴーレム作成者の捜索願が出てはいるが、何の痕跡もないゴーレムの核しか証拠もなければ、情報もない。
冒険者をいくら注ぎ込んでもわからずじまいになる。
だから暫くは警護を兼ねて俺達は王都に留まることになったんだ。
俺達もゴーレム作成者を探しながらアレグリアの事も気に掛けられる。
見つけたらとっ捕まえてやるよ。」
にっこりと笑顔を見せたアレックス。
それに続いて他のメンバーも力強い笑顔を見せてくれた。
予想外の強力に私もルークも嬉しきさが込み上げてくる。
ルークは頭を下げて言葉を出した。
「感謝する…皆。」
「自分達、どれだけルークに守られてきたか、わかってる。少しでも力になりたかったんだ。」
「そうよ!ロティの話だけいっぱい聞かされたのに、こうも緊急事態になって手も足も出せないんじゃもどかしいじゃない!」
「もし、何かあっても私達がいたら手を貸す事ができますから。」
「アレグリアを捕まえて、貴方方には安心して幸せに過ごして貰いたいんです。」
皆の言葉に私の目が潤む。
下手に瞬きをしたら涙が出そうだ。裾で目を軽く抑えながら私は頭を下げた。
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残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
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※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
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