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117.…これは…チャンスでは?◆
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私が回復魔法を使い、治療をするようになるとそれは瞬く間に町中に広まっていった。
日に日に朝の教会には溢れんばかりの人が押し寄せ、聖堂だけでは場所が足りず外で祈る者もいたそうだ。
今日で治療から1週間ほど経ったが、1日3人くらいまで回復魔法を使うまでに神父は許す様になっていた。
本当ならまだまだ使えるのに焦ったいったらありゃしない。
だがいい事もあった。
孤児院の食事の質が多少上がったのだ。
パンもほんの少し柔らかくなったし、月に2回程のお肉も週に1回出るようになった。
これには孤児院の皆も喜んでいたが、今日の朝食からまた変わった要素が追加され朝から波乱が起きたのだ。
「ねぇ、なんでロティだけこんなにいいものなの?ずるくない?」
食事の配給時に私を指差して発された一言は他の人にも丸聞こえのかなり大きな声だった。
私より3つ年上のトリーが食べ物を持ってきてくれた配給者の男性に聞こえるように文句を飛ばしたのだろう。
この男性は神父の補佐役でこの孤児院の食事の配給者でもある。
その人に文句を堂々と言えるもんだからトリーは豪胆であると言えよう。
1番最後に配られた私の食べ物は皆よりもパンの数も多ければ、色も白くて柔らかそう。
副菜の数も多く、チーズや肉まで付いている。
昨日までこんな風ではなかったのにどうしたものかと私も配給者の男性をチラッと見ると溜息を吐きながら話し始めた。
「…文句なら神父様にどうぞ。
神父様よりロティの分は栄養のあるものをと言われているので。」
トリーは今にもまた文句を飛ばしたそうに顔を歪めている。
食事の質は多少上がれど食べ盛りにとっては足りない量だ。
私は自分の食べ物をトリーに差し出して話す。
「…トリー、食べたいならどうぞ。」
「じゃあもらうわよ!ふんっ。」
私の食べる分をもぎ取り自分のと交換して席に行き食べ始めたトリー。
その様子に他の子も羨望の眼差しで見つめていた。
「…あいつ。」
「いいんだよ、ルーカス。私だけ貰うのもおかしい話だもん。なら皆も欲しいでしょ?
神父様に私から言うよ。」
怒りそうになっていたルーカスを止め、席に座るよう服をちょん、と引っ張る。
私の言葉にあまり納得はして貰えなかったものの、ルーカスは私の隣に座り私と同じ物を食べ始めたのだった。
いつもの治療後、部屋には私と神父だけしかいない状態で今日の朝食の事を尋ねてみると、神父は私を小馬鹿にしたような態度で見つめ訳を話し始めた。
「ロティ、お前はちゃんとしたものを食べておかないとならないだろう?
回復魔法が使えなくなったらどうするんだ?配られた物は誰にもやるな、お前が食べるんだ。」
「でも他の子だっていい物を食べたいよ。
私1人だけじゃずるいって言われても仕方がないもん。皆も同じようにしてほしい…。」
「なら治療を頑張る事だな。
その頑張りが食事に反映してきているだろう?
それにお前が頑張った分がお前に還るのだからずるいという話ではないだろう。働かざる者は食う事も出来ないんだ。文句があるなら稼いでくれば良いことだ。全く…。」
「じゃあ私がもっと魔法を使っちゃダメなの?」
「それは私が決める事だ。口出しをするな。」
治療を頑張ればいいと言いながら口出しをするなとはどういう事なのだと私の顔が歪んでしまう。
神父は私とこれ以上話す気もないらしく手で蠅でも追い払うような仕草をして私をさっさと部屋から追い出してしまった。
ここ1週間で変わったことといえば、食事の他にもう一つある。
ルーカスもだいぶ孤児院に慣れてきて他の子とも話すようになったのだ。
だが、自分が半亜人だとは言っていないみたいで、透明化や毒の事も隠しているようだが、特殊な能力を持っていて高いところから降りても平気だし、身体強化もできると説明しているらしい。
実際、服を着ていればうろこは見えないし、あまり人前で笑いもしないルーカスだから歯が見える事もないみたいだ。
6歳にしては落ち着きすぎているためか、ちらほらルーカスを気にし始める女の子もいて微笑ましい事だ。
午前の治療後、暇な私は服の手入れでもしようと自室へと戻る途中だ。
今の時間帯は皆出ているため孤児院に戻っても私1人だろう。
孤児院の中に入ると誰もいないはずなのにドタバタと足音が響いている。
何故かガシャンという何かが割れた音も。
もうすでに誰か帰ったのだろうか。
この時間にしては珍しいなどと考えながら廊下を歩き1番奥の自室を目指す。
自室の扉を開けると私は中の様子を見て愕然としてしまった。
「……うそぉ。」
私の部屋は誰かに荒らされたのだろう。
窓は壊され、シーツには泥靴の足跡にベッドは穴が空いている。椅子2脚も倒され壊されているし、服を入れている箱も壊され、中身も無くなっている。
白いワンピースも着ているものを除いた2着もない。服入れに隠しておいたお菓子もすっからかんだ。
自室といえど鍵などないので誰でも入られるためこんな事をしたのだろうか。
呆然とその様子を見ていると廊下を慌てて走る足音が聞こえ、その音がこちらに近づいてくるのがわかった。
「ロティ!なにかありましたか!?」
「え…あ、あの…。」
神父の補佐が息を切らしながら到着すると私に近づいて来て、怒ったような顔が少し怖くて私は何も言えず自室を指差した。
きっとさっきのガシャンと言う音が補佐にも聞こえていたのだろう。だから慌ててこちらにきたのではないだろうか。
「!?」
中の様子を見た補佐の横顔をチラッと見ると私と同じく驚き呆然としていた。
だがさすがは大人な分状況を読み込むのも早くて、すぐに私に向き直る。
「ロティ自身怪我はないですね!?」
「な、ないよ…。今帰ってきたら…こうなってて…。」
「わかりました。なら隣の空き部屋で待っていなさい。」
「あ、はい…。」
そう言った補佐は急いで廊下をバタバタと走っていった。
私は隣の部屋に入ると空のベッドとその部屋には簡易な机と椅子があったため、椅子に座り机に突っ伏した。
(なんで勝手に入るんだぁ…。なんで壊すんだよぉー…。誰だよ~…。)
一応孤児院の暗黙のルールとして人がいない他者の部屋には入らないというものがある。
それを簡単に破った挙句、破壊し尽くされていたのだ。
どうやっても凹んで涙が出てきてしまう。
メソメソとして伏せているうちに、私は夢の中へと落ちていってしまったのだった。
◇◆◇
(ロ…、ロ…ティ、ロティ!)
誰かが私の事を呼ぶ声がする。
唸り声と共にゆっくりと顔を上げてまだ寝かけの目をぐりぐりと擦った。
目を開けるとそこには心配そうなルーカスが私を見入っていて私は少し驚いてしまう。
「ふぁ、ルーカシュ…おかえりぃ…。
ふぁー。」
「ロティ!?大丈夫なのか!?怪我はないのか!?」
「……ん?なんの事…………。
………あー!部屋!の事!
うんうん、大丈夫、私は何にもされてないよ?え!今何時…?」
寝ぼけ頭のままルーカスに時間を聞く。
部屋には時計が付いていないため玄関や食堂に行かないと時間がわからない。
ルーカスが今さっき帰ったのなら見てきたはず、と思い尋ねたのだ。
「今は12時だ…。部屋に戻ったらすごい状態になっていたから…驚いた…。」
「ねー。誰がやったんだろうねぇ…。ふぁー。」
「…ロティ。よく寝れたね…。」
「うーん。泣いちゃったから泣き疲れかなぁ。」
「…本当だ。目が赤い…。可哀想に…。」
「ルーカス、くすぐったいよ!」
少し呆れたようなルーカスに弁解するため、泣いた後の目でじっと見つめる。
その目に気付いたルーカスは私の頬や目の横に触れてきた。
優しく触れるルーカスの手がなんだか恥ずかしくてくすぐったいなどと咄嗟の嘘まで付いてしまう。
「嫌?」
「嫌じゃないけど…なんか恥ずかしいから…。」
見つめてくるルーカスの目が見れず目を逸らして答える私に、ルーカスは私の頬から手を離し真面目な顔で尋ねてくる。
「ロティ、部屋見て怖かった?」
「怖いと言うよりかは驚いて悲しかったかなぁ…。はぁ…。なんであーゆーことするんだろぉ…。」
服だってお菓子だって、自分の物じゃないのに持っていけばそれは泥棒だ。
もしかしたら他の子の部屋にも入ったりしているのではないかとゾッとしてしまう。
ルーカスの部屋は大丈夫だったのか聞いていないため尋ねようかと思ったらルーカスは両手を広げて私に言う。
「…ぎゅうしてあげる。おいで。」
「えー?なんで?」
「僕と一緒に寝てるけど、夢で思い出したら嫌じゃない?意外と自分ではわからないけど、ショック受けてるものだよ。…落ち込んだ時はよくかあさんに抱きしめてもらったから、そうすると落ち着くよ。」
「そう…?じゃあ。」
なんだかよくわからないがルーカスなりの気遣いなのだろう。私が気落ちしているもんだと察してルーカスは慰めようとしているのかと思ったら心が暖かくなり、素直に応じる。
座っていた私は立って両腕を広げて待ってるるルーカスの元へ近づき、自らぴょんとその腕の中に入る。
「ルーカスあったかいね。私よりちょっとだけ背が高いね。」
「…ロティもあったかいよ。小さくて可愛い。」
思った以上にルーカスの腕の中は心地が良い。私と一緒の小さな体で、私の体をぎゅうと抱きしめてくれる。
ケードに抱きしめられた時とは違う、暖かさと心地の良さはすっかりここが安地だと覚えてしまうほどだ。
だがルーカスの気遣いにずっと甘えてもいられないだろう。仕事終わりで疲れてもいるはずだ、離してあげないとと思いながら緩まることのないルーカスに予定より長い時間甘えてしまった。
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