生まれ変わってでも結ばれたいっ!〜前世を覚えていませんけどっ!?〜

宮沖杏

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132. 柔らかかった…。◆

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◆◆◆
久々にケードから治療を少し早めに切り上げさせられた。自由時間かとワクワクしたがそうではなく呼び出しを食らったみたいだ。

呼び出しと言っても隣の執務室に行くだけなので数歩の距離ではあるけれど。


前に執務室に入った時より煌びやかなものが増え、ちらほらと高そうなものが置いてある。

ここは自室ではないのだし、そんなものを飾るくらいなら神様の像にでも身に付けてあげればいいのにと心の中で呟きながら椅子にどっぷりと椅子に座る神父を半目で見た。

私の顔が面白くないのか神父もふんっと鼻を鳴らして私に向かって口を開いてきた。


「解術はいつ終わるんだ、そろそろなんだろう?」
「んー多分もう少し…でもなんか解術が完了するときにごっそり魔力使う感じがするから…出来れば解術が終わったら少し休みたいかも…ここ何年間ずーーーーーと遊ぶのも我慢してるし…。」

伸ばした言い方をしたのは本当に遊ぶ時間も自由時間もなさすぎるためだ。
なのに給金はずっと一定にしか貰っていないのだから頭突きでもしたくなる。

給金を貰ったところで使い所もないため貯めるしかない事は事実だが、たまにの遊ぶ時間位は欲しいところだ。
抜け出そうとすると大体ケードが扉の前で待ち構えていて治療室へと押し戻されてしまうため逃げることも出来ない。

私の不服に神父は珍しく柔らかい表情でにんまりとしながら返してきた。

「そうだな、終わったら色々また変えてやろう。なぁ、ケード。」
「ええ、神父様。」

同様に柔らかく笑うケード。
前から神父の扱いが上手いとは思っていたものの最近じゃ親子並みに仲が良いのだが、ただの親子ではなくなんとなく裏がありそうな感じがして素直には喜べない。

「胡散臭。」
「何か言ったか?」

「何も?」

私の隣で呟くルーカスの顔がその2人を睨みつけている。文句を言えど、神父もケードもルーカスに殴りかかっていったとしても力では敵わない事があちらもわかっているのだろう。
顔を歪ませた神父はお決まりの手で払う仕草を私達に向けていた。

「ふんっ。早く出て行け、私は忙しいからな。」

(呼ばれなきゃこないんだけどなぁ。)

とは口が裂けても言えないだろう。


◇◆◇


結局今日も遊ぶ時間などなく1日を終え、寝る前に準備のためベッドに座った。
私が寝る前に着替えをしていると自室の扉が開かれルーカスが中に入ってきた。

ガザガザと手を後ろに回して音を立てているのが気になりルーカスを見つめているとルーカスは手を後ろにしたまま私の隣に腰を下ろす。

「ロティ、すっかり遅くなったけど…今日誕生日でしょ。」
「うぇ!?そうなの!?えっ!?13歳!?」

「やっぱり忘れてる。」

少し呆れた様にふと笑うルーカスに慌てて私は弁解した。

「そんな余裕なく生きてるんだもんっ!
トレイさんを解術したら思いっきり休もうね!沢山遊ぼう!」
「それもそうだけど…。
本当はもっともっともっとあげたいところなんだけど…。これから孤児院を出なきゃ行けない時にお金がないのは困るから…。
はい…、誕生日…おめでとう。」

ガザガザと音を鳴らしながら後ろに回した手を私の前にルーカスは差し出した。
そこには真っ赤なバラの花束が美しく咲き誇っていたのだ。

「っわ、わ、わぁああ…バラだっ!?
本当にくれるんだねっ…嬉しいっ!
ありがとうっ!ルーカスッ!!」
「うん、どういたしまして。」

特別な時にしか見ないバラが目の前にある。

しかもルーカスから貰った私のものだ。
どうやって準備したかもわからないがかなり嬉しくて目が輝いてしまう。

1.2.3.4.5.6.7.8.9…。
全部で9本の様だ。
柔らかく重なる花弁が綺麗だ。瑞々しくて美しい。

赤いバラをどこに飾ろうか。
花瓶は教会である空いた花瓶があるはずだから適当に借りてこよう。

暫く眺めたらドライフラワーにするのもありだ。河原の花も好きだが、バラをもらう事がこんなにも嬉しいとは思わなかった。
優しく抱きしめて香りをかぐとやはりバラ特有の匂いで。
部屋と胸にその香りが広がる様だ。


思わずゆるゆるの顔で喜んでいるとルーカスが私の頬に手を伸ばしてきた。

「それともう一つ…。」
「うん、なぁにー?えへへ。」

「キスしていい?」
「うん?どうぞ?」

「くす…なら遠慮なく。」

不思議なルーカスだ。
頬にキスなどとっくの前から何も言わずともしている事なのに。
まあ私がバラに喜んで顔を綻ばせているから声を掛けてくれたのだろう。
ルーカスからのキスを嫌がったりしないのに。


ルーカスの右手が私の顎を掴むとグッとルーカスは私の顔に近づいてきた。
頬にしては角度が、と僅かな時間と距離では考えが及ばなくて。


ルーカスの唇がわたしの唇に優しく触れた。

時間にして2.3秒だろう。
刹那の時間、時が止まった様にも思えた。


瞬きすらも忘れた私の顔は一瞬にして火が出そうなくらい熱が篭っている。

スッと離れたルーカスの顔は照れと嬉しさが混じった様な表情をしていた。


「…真っ赤。」
「くっ…口だ…と…思って…なかっ…た。」

「いつものようにほっぺだと思ったんだ?」
「おもっ…た…。」

「嫌?」
「嫌な…わけない…っ。」

「なら…もうちょっとさせて…。」

少し切なそうなルーカスがまた私の唇を塞ぐ。さっきよりも長く。隙間なく。

凄く早く心臓が鼓動を打って痛いくらいなのに、全く嫌じゃない。

今まで唇にキスをしたいとかしたくないとか考えてなかったのに、ルーカスとのキスにようやくキスできたと思ってしまったのは私の感情なのに私じゃないみたいだ。

誕生日の夜に昨日までとは違う感情を抱いてその夜は眠るのだった。
◆◆◆
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