生まれ変わってでも結ばれたいっ!〜前世を覚えていませんけどっ!?〜

宮沖杏

文字の大きさ
137 / 159

136.初めて貴方の言葉に耳を塞ぎたかった。◆

しおりを挟む
◆◆◆
冷や汗が出て気持ち悪い。
指先が冷えて血の気が引く。

僅かに魔力が溜まったからか先程までの怠さが改善傾向にあるはずなのに、私の心は地に落ちた様に重い。

それなのに、ルーカスは私を背負いバッグまで持ちながら前に進もうとしてまた枝をバキッと折っていた。

震えてしまう手の振動がルーカスにも伝わったのだろう。またトーンの低い声で続いてルーカスが話し始めた。

「何年も前から計画はあったみたいだ…。
だが健康状態が良くない子達はすぐに死んでしまうと…初めは奴隷商人に取り入ってもらえなくて、金回りが良くなって孤児達の健康状態も改善された為に奴隷商人がこれならいいと交流を始めたみたいだ…。

養子へと行った子は全て奴隷へ連れて行かれてる…。
執務室の金庫に…全てリストがあった…。

肥えていく神父に、増えていく装飾品。
罪悪感に耐えきれなかった前補佐官。

全部訳がわかった時にはさすがに僕も堪えた…。」

「嫌…嫌…嫌、嘘、嘘でしょ…?
だってっ…。それじゃあ…私が…回復魔法や…解術をしたからっ…。」
「それは違う!!」

「っ…。」
「ロティはお金が貰えなくても…人々に回復魔法を掛けたり、解術をしただろうから…。

悪用したのは神父の方だ…。
ロティの魔法に高値をつけてそれを全部自分のものにしていたあいつが悪い…。」
「……っ、嘘じゃ…ない…んだ…。」

「…僕が何度トレイさんにまかせて透明化して探ったと思ってる?
昨日も…部屋を出てすぐに透明化して執務室に戻って…あいつとケードの話を盗み聞きした。

なんか言い出すのかと聞いていたら…今度はトレイさんの解術が終わったら僕をロティから遠ざけると言っていた…。
奴隷商人に売るか、殺すかはどちらでも良いと…。ロティが見てなければ大丈夫だと…ケードが言っていたんだ。

じゃあロティはどうなるんだと思ったら…ケードが自分の花嫁にすると言っていた…。
そのために教会の手伝いとか…神父の補佐とかをしていたんだから…と!

僕との思い出を記憶の魔女にお願いしてケードの思い出としてすり替えて貰うと…言っていたんだ。

それを聞いたら…もうあそこにはいられないと思った…。

勝手な…事してごめん…。
トレイさんには全部話してるんだ…。

そしたら逃げた方がいいって…。
自分は教会で僕達のために時間を稼ぐからって…。」
「っ……。」

泣いている暇などないのに。
どうして涙がでてくるのだろう。

何で涙を流してるのだろう。

私が自分の魔法なのに神父のいいように使わせてしまったから?
養子に行くと言った子が奴隷になっていたから?
前の補佐が逃げたから?
変わったと思ったケードが酷い企みをしていたから?
ルーカスが私に話さずトレイヴァンに話していたから?
そのトレイヴァンが身を挺して私達を逃す様にしているから?

わからない、どの理由で涙が流れているのか、自分でも。

泣く暇があれば頭を働かせたいのに愚鈍化して呆然としてしまいそうだ。

私がそんな状態でもルーカスは足を動かすのをやめず、森の中の少しだけ開けた場所で立ち止まったルーカスが太陽の方角を見たその時だった。


ヴーーーーーッッ!!ヴーーーーーッッ!!


後ろの方で劈く様なサイレンの音がする。
町があるほうから響いているみたいだ。
初めて聞く音にルーカスも戸惑ったのか、そのサイレンの方に体を向けて話す。

「…まさか俺達を探してる?」
「こんなに…早く?」

「急ごうっ!」

まだ1時間位しか経っていないだろう。
私達がいないのに気付くのが早いし、トレイヴァンの身が心配になってしまった。
がくんと動いたルーカス焦りながら森をまた小走りで走り出そうとしたその時。

私達は前から来る人の音に全く気付いて居なかった。
3人組の男がニヤリと笑いながら私達の目の前にいたのだ。


「おっと、見つけちまったぜ。ラッキーじゃねーか。俺達が一番乗りだ。こいつらで間違いないんだろ?」
「そうですね、そのようです。30分ほど前に告知が来ていた時には黄緑色の髪の男の子と金髪の女の子とありましたし。」
「ならちゃっちゃと捕まえよう。」

長剣、杖、短剣をそれぞれ手に持ち3人の男達は私達にジリジリと近づいてくる。
話の内容からかなり早い段階で逃げ出していたのがバレていたのかと泣きそうになった。

「ごめん、ロティ。一回降ろす。」
「ルーカスッ…。」

ルーカスがしゃがみ込み私とバッグを地面に下ろして私の前で構えをとっている。
もしかしなくともルーカスは戦う気なのだろう。

戦闘なんて前に攫われた時ですら布の被せられ、見た事がないため目の前で起きそうな事に私は体が勝手に震えてしまっている。


「一度でもロティに触れてみろ…、ぶちのめされても文句を言うなよ…。」
「おー怖いね、威勢がいい。
じゃあ俺から行くか。面倒だが生捕りらしい。ま、息をしてりゃーいいだろうし…。
なあ!!」

噛み付く様な声を出しながら長剣を持った男はルーカス目掛け真っ直ぐに剣を突いてきた。それをルーカスは横に避け交わすと一瞬にして男との距離を詰め、左手で男の右の頬に拳が思い切り当たる。

「グッッ!」

殴られた男は後ろにぐらついて倒れそうだ。しかし、今度は短剣を持った男が高く飛び、その勢いのままルーカスに降り掛かろうとしていた。

「くらえ…!」
「ルーカス!避けて!」

ルーカスが刺されると心臓がヒヤリと冷えた。
だが高く飛び襲い掛かる男すらルーカスにはきちんと見ていたのだろう。足を曲げ地面を蹴ると空中にいる男よりもさらに高く飛び、その男目掛け踵を振り下ろした。

「ッガハ!」

ドサリと地面に叩きつけられた男がルーカスに蹴られた部分を痛そうに押さえ蹲っている。地面にも当たったせいかどこもかしこも痛いのだろう。

「《火弾》!」

着地したルーカスに向け杖を持った男が火の玉を飛ばしてきていた。
タイミングを見計らっていたのだろう、着地と同時にルーカスに当たる様に向けられたそれを避けれなそうだ。

ボォンッ!

一瞬にしてルーカスの上半身に当たり火がルーカスを包む。燃えたぎる火の中で短く唸るルーカスの声に血の気が引きそうになった。

(このままじゃまずい!!)
「《高回復ハイヒール》!!」

ルーカスに向け回復魔法を放ったが多少距離はあって、魔法が効くかはわからなかった。だが私から出た緑の光がルーカスに飛んでいったところを見ると効いているということだろう。

緑の光が火の中に飛び込んでいって瞬時に光と、ルーカスは火を消すためにか地面にごろごろと転がり私の前まで来た。

漸く見えた顔は多少赤くなっている部分もあるし、髪は多少焼けてしまっているが、顔に関しては魔法で直せるだろうと私はまたルーカスに回復魔法を掛けた。

「《回復ヒール》!」

痛そうな赤い跡が消えていく。
ルーカスが私をチラッと見ると優しい眼差しを向けてくれた。

「ッチ!!めんどくせーな!」
「うっぐぁ…。」

「早く起きろ!いつまで蹲ってんだ!
それにお前!こんな森で火弾はあぶねーじゃねーか!下手したら俺達まで焼けちまう!」
「ちょこまかとうざったらしいからだ!
文句があるならサッサと決めれば良かっただろう!」

長剣の男が苛立ちながら口から出ていた血を腕でグッと拭う。自分では血が出ていた事に気付かなかったのだろう。
拭った血を見ると顔を歪めルーカスと私を思い切り睨みつけてきた。

いつもみたいに回復魔法が使えるなら、きっとこの戦闘は勝てるだろう。
けれど、私が今2回魔法を使っただけなのにまた体に力が入りにくくなっている。

ルーカスも教会から身体強化魔法を使っていたからか、今になって息が軽く乱れ顔色が幾分悪く見えた。

(このままじゃ…。)

捕まってしまうだろう。
捕まったら教会に戻され、ルーカスとは離れ離れになり私は記憶を変えられてしまう。
ルーカスに至っては奴隷か死だと話していたのを思い出し、息が苦しくなってしまう。


ザザ、ガサガサッ。ガサッ。

森の少し奥で人影が見えた。
その人影がこちらに気付くと一目散に枝や葉を掻き分け走ってきているのが見える。

あちらの援軍だろうか。私達を捕まえるために神父とケードが賞金でも掛けて冒険者を動かしているのだろうか。

(…嫌だ。)

そう思ってもこの事態を変える力がない。
涙が溜まる目には顔を顰めた長剣の男が森の奥の人影を見ながら口を開く姿が見える。

「チッ…他の冒険者も来たか…山分けは嫌だったんだが仕方ないか。
おおぉーーい!早くしろ!!」
「どの道逃せば賞金も無くなりますしね。
確実に捕まえた方がいい。」


バキッ、カザッ!!

森の中を掻き分け転びそうになりながらまた3人の男達が私達の目の前に現れた。
息を荒げ目を大きく見開いて僅かに嬉しそうな表情を浮かべたその人達は、私とルーカスを見てきた。

「ここに居たのか!!」
「貴方…達は…。」

顔をよく見てハッとしてしまう。
前に河原で回復魔法を掛けて助けた冒険者達だ。確か、サヌーのパーティだったはず。

この人達も私達を追ってきたのかと絶望感に溢れそうになった。

「手を貸してくれ。さっきからちょこまかと動かれて捕まえられねーんだ。」
「……ああ。勿論…手を貸すさ。」

攻撃をしてきた冒険者達はサヌー達の前でにやりと笑っている。
完全に勝機を得たのだ。大人6人と子供2人じゃ戦力が違い過ぎる。

冒険者と私達に挟まれたサヌー達は私達に1度笑顔を見せると、その顔を私達から冒険者側へと向け、攻撃をしてきた冒険者達へと剣や杖を向けて戦闘姿勢を取っていた。

「っ!?」
「何の真似だっ!?」

「この子達に手を貸すんだ。俺達は一度命を助けてもらっているからな!
早く行け!!ロティ!!」
「っ、すまない…恩に着る…。ロティまた背中に乗って…。」
「サヌーさんっ…ごめんなさい…。ありがとう…!」

「やっと返せるんだ。頼ってくれ。」

後ろ姿しか見えないサヌー達だが、3人とも手を上げひらひらと動かしてくれている。

ルーカスの背中にまた乗ると、今度は少し私を持ちにくそうにルーカスは立ち上がった。
ルーカスの体も限界が近いのだろうか、息を乱しながらもサヌー達にぺこりと頭を下げると、すぐさままた森の中へと走っていく。

どん底からの這い上がった状況にルーカスは森の奥へと足を動かしてその場から遠かったのだった。
◆◆◆
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

処理中です...