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138.永遠の愛。
しおりを挟む溢れて、溢れて、溢れて、止まない貴方への想いに名前をつけるなら愛では足りない。
貴方が欲しかった。
貴方と生きたかった。
忘れてごめんね。
ごめんじゃ済まされないけれど、私と同じように貴方も私を許してくれるでしょ?
ルーカスもルークも私に優しいからね。
どっちも、同じ人なんだから仕方ないね。
◇◆◇
自分の嗚咽が耳に残る。
寝ながら泣くだなんて我ながら器用なものだ。
重い瞼を開けて、目の前を見なくちゃ。
ちゃんとルーカスが、いや、ルークがいるのかを。
何故私は寝ていたんだっけ。
「…っひっく…、……ここ、っく、……どこ。」
全く知らない部屋の木造の天井を私は涙目で見つめている。
何故ここで寝ているのだろう。
目を押さえながら体を起こして辺りを見回した。
見た事のない部屋は真新しいものばかりで、しかも部屋には至る所に花が飾られている。
照明、物入れの上、テーブルの花瓶に、椅子にまで花がついてる。
これはこれで可愛げのある部屋だが違和感がある。
(ああ…そうか。外が見えないんだ。)
おかしなことに部屋に窓がないのだ。
花柄の壁に覆われあるのは扉一つきり。
外も見えないし時計もないので、今何時なのかも知ることができない。
寝る前の記憶を咄嗟に思い出そうとした時、扉の向こうで少しバタついた音と共に扉がガチャリと開けられる。
開いた扉の前には銀髪の青い瞳の男性が穏やかな表情で私の目覚めをホッとした様子で見ていた。
「ロティ…!目が覚めたんだ…おはようっ。」
「………………近づかないで…。」
私が睨みながらそう言うと男性は酷く傷付いたような顔をしながらたじろいでいる。
「どうしたんだ…?ロティ…俺がわからないのか…?」
「残念ながら…………全くわからないかな…。
貴方は誰なの………?」
「また…記憶が……。俺はルーク・ロイ」
「違うでしょ…。お芝居はやめて。
貴方はルークでもルーカスでもない。
見た目だけルークの格好をしたって私には貴方がルークじゃない事がわかるよ…。もう一度聞くね…貴方は誰なの…。」
見た目は完全にルークだ。
身長も顔も髪や目の色も、タチが悪い事に声までルークと同じだ。
だけど中身が違う。これはルークじゃない。
ルークの格好をした誰かなのだ。
険しい表情の私にその人はたじろぐのをやめにこりと微笑みを見せてきた。
「…………。
なんだ、こんなに簡単にバレるもんだとは思っても見なかった。おかしいな、俺の特殊魔法なら大丈夫だと思ったのに。さすがロティだね。」
そう言うとその人の体が揺らぎ始めた。
瞬きを2.3度繰り返すと、そこにいたのは黒髪に灰色の瞳で笑う男性だった。
「貴方…スザンヌの彼の…。」
名前なんだっけ。
この人をそこまでは覚えてるけど、名前まで思い出せない。と言うよりもまだ眠る前の記憶を思い出してないのだ。
気不味い様子で私が言葉に詰まっているとくすっと笑う。
「スザンヌにはただ目的があって近づいただけだし、スザンヌに言った名前は本名じゃない。
仕事とかも適当な設定だし。
それにしても少し成長しただけで今の俺がわからないのは悲しいな。
幼少期は村一緒に過ごしたのに。
頬にキスもしたでしょ?」
「…幼い頃…村で過ごした…?頬に…キス…。」
起きたばかりの脳をフル回転させなくともそのキーワードで引っかかるのは1人しかいないだろう。
なんせそれでルークも嫉妬したくらいなのだから。
「まさか…シーヴァなの…?」
「正解。13歳の時に別れたのを最後に会ってなかったから忘れちゃってた…?
それとも気にも留めてなかった?
本当、ロティはあいつの事しか気にしてないよね…。寂しくてたまらないよ…。」
「…。」
「好きに呼んでいいよ。
シーヴァでもヨイでもケードでもグリンドでも。ああ…でもグリンドは覚えていないか…。
折角の始まりを覚えていないなんて切なすぎるから思い出してほしいのに…。」
「ちょっと…まって…。今…なんて…。
シーヴァでも、ヨイでも、ケードでも…って…。どういうことなの…。」
「どうして……ルーカスなんだ?
あいつは思い出せないくせに…。
前世を覚えているのは…いや、ロティを先に見つけたのは俺の方なのに。
いつもロティの近くに転生できて…あまつさえ記憶もタイムラグはあるものの全て思い出せるのに。
何故いつでも俺は選ばれないんだ。
こんなにもロティを愛しているのに。」
シーヴァの言っている意味がわからない。
なのに心臓はドキドキと強く早鐘を打っている。
冷や汗が出る私にシーヴァは悲しそうににこりとまた微笑む。
「無理に何かをしたりはしないから安心してくれ…。最も信用を得られるまでは安心出来ないだろうけど…。
もう…ロティに死なれるのは嫌なんだ。」
そう言ったシーヴァは今にも泣きそうな顔をしている。
思い出したから言えることだが、ルーカスと共に目の前で死んだ事が嫌だったのだろうか。
あの時はあの状態から起死回生する案など思い浮かばなかった。魔力もなく、体力もなく、捕まれたくない一心でルーカスと死を選んだのだ。
ケードが私を嫁に欲しいという位には好かれているのだろうか。好きな人が目の前で死んでしまったら…、私なら耐えられないかもしれない。
「……ルークに化けるような人を信用はしないよ。でもこの状況もわからないままじゃ私は困るから…。」
「余計な事をしてしまったか…。
これから挽回しないとね。とりあえず…少し話をしようか、あっちの部屋に椅子があるからさ。」
そう言ってベッドに近づきシーヴァが手を差し伸べてきた。
私はその手を見つめながらただ首を横に振り拒否を見せると、断っただけなのに物凄く悲しそうな顔で眉を下げるものだから私の良心がちくりと痛んだ。
だがここで警戒を緩ませるわけにはいかない。まずは状況把握だ。馴れ合いではない。
1人でベッドから降りシーヴァに案内されるがまま私は寝ていた部屋を出ると、すぐにリビングルームの様な場所に繋がっていた。
テーブル、椅子、ソファに暖炉、本棚に少し奥にはキッチンも見える。
ここにも花が沢山あり、全ての家具が真新しい。そして、やはり窓がない。
シーヴァが椅子に座った為、向かい合わせで椅子に座った。2人用のテーブルは距離が近く少し気不味く感じてしまう。
だがシーヴァはそうでもないようで、優しげな笑顔を見せながらキッチンの方を向き、指をくいっと曲げている。
キッチンからティーセットがふよふよと浮かびながらこちらに飛んできた。
宙からそれを取るとシーヴァはカップにお茶を注ぎ、私の前に差し出す。
「毒なんて入れないよ。
俺が試しに飲んでもいいけど。」
「そのまま貰う…。毒があっても回復できるし…。」
「そうだよね、ロティは凄く成長したんだったね。」
まるで知っているかのような口振りだ。
先程の事と言い、シーヴァの言っている意味を理解しなければならないだろう。
貰ったお茶に口を付けると普通に美味しいお茶のようだ。これからの話し合いには冷めても飲めるお茶はありがたい。
シーヴァもお茶を飲むとテーブルにカップを置いて手をテーブルに乗せたまま私ににこりと笑みを見せてきた。
「さて…何か知りたいことはある?」
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