生まれ変わってでも結ばれたいっ!〜前世を覚えていませんけどっ!?〜

宮沖杏

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148.会いたい、触れたい。

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ルークside



「ルークのやつれ方が尋常じゃない…。」
「知ってるわよ。そうもなるでしょ…。」
「側から見ればルークさんとロティさんなんですけどね。」
「中身がアレグリアなんだ。一緒にするもんじゃない。」
「よく耐えていると思います…。」

そんなアレックス達の会話を右耳から入れて左耳から出す。余計な事を考えるとエネルギー消費が供給量と追いつかず疲労に繋がってしまうからだ。

ここ3.4日まともに食事が喉を通らず食欲も湧かなければ心の中にアンデッドでも飼っているような気分で睡眠だってまともに取れない。

拘束を解いた後、殆ど俺の左腕にしがみついて離れないこの女をアレックス達が交代でそれ以上手を出さない様見てはくれているものの俺の気は滅入るばかりだ。

ロティの居場所のヒントが欲しくてあの女が世界樹まで行きたいと言った事を飲み、行動に移した事を少しばかり後悔してしまう。
アレックス達が一緒に行動してくれているのが何よりの救いだ。

だが7人で世界樹を目指すにあたり問題があった。1つは転移魔法が使えない事。

世界樹があるのは王都から南に真っ直ぐ行った隣の国との境目にある場所だ。そこには妖精の里があり妖精以外は基本的に入れない場所になっていて、里の入り口ある世界樹を守りながら妖精達は暮らしている。

世界樹に近づくことを許さない妖精達は世界樹の周りに転移魔法の阻害をする魔法陣を張り巡らしているため直接その場所まで行けないのだ。

問題その2。
そもそも転移魔法がこの大人数ではかなりの魔力を消費してしまうため使うのを避けたい事。世界樹に近い町や村まで俺とサイラスが2人で使う事になれば余力は3分の1程になるだろう。そうなった時、あの女が何かしてきた時に対処できなくなるのは困るため転移魔法自体使えない。

問題その3。
徒歩で向かう事になったはいいが王都から約10日ほどかかる道のりをあの女が自由に動ける状態で行かなければならない事。
ロティを脅しの道具に使い自由を手に入れた女は俺の周りを小蝿の様に動き回り煩くて堪らない。

ベタベタ触られたくもないのに腕を取られ、しまいに寝る時間になれば俺の隣に寝ようとしてくるため、アレックス達も必死に目を光らせて阻止するよう牽制していてくれる。

あの女が隣で寝ることも嫌だし、寝ている間に何かあるのも嫌なため碌に睡眠も取れていなくて集中が切れそうになってしまう。

王都から旅立ち4日目。
ロティに完全に見えなくなった女をそろそろ左腕から払い除けたい気持ちでいっぱいになりながら世界樹がある妖精の里を目指して歩いていく。

「ねぇ、ルーク。疲れてない?もう少ししたら川があるよ。少し休憩にしようか?」
「そう思うなら俺から離れろ。」

「えー?腕掴んでるだけだよ?前にはよくやったでしょ?」
「それはお前がその格好の時じゃない時の話だろう。それもやめろと言ったのに何度もしがみついて来ていた。」

「始めの方はやめろも言わなかったのに…。」
「お前が周りに対してヒステリックを起こすからだろう。面倒臭くてたまらない。」

何故この女とそんな話をしなきゃいけないのか。俺がロティの記憶がなく冒険者をしていた時の事を掘り起こさないで欲しい。
もう知っている者はこの女以外生きていないのだから。

「不老不死の呪いは感謝だけど、記憶はやっぱり要らなかったなぁ…。本当邪魔な子。」
「これ以上無駄口を叩くならまた拘束するからな。」

「なら何も教えないよ?今まで教えた事は有力情報じゃなかったのかなぁ?」
「…。」

勝ち誇った女の顔に苛立ちが募る。
拘束を解き、ここまでの道のりの間に女から情報をいくつか聞き出せてはいた。

1つ、ロティはある場所に閉じ込められていて出れないという事。
2つ、閉じ込めるのが目的な為、余程の事がない限りは殺しはしない事。
3つ、シーヴァがルークの格好でロティと一緒にいる事。
4つ、シーヴァは今のところロティに手を出していない事。

聞かされた時安堵と不安が同時に押し寄せてきたのは言うまででもない。
この女のいい分が信用ならないことも十分承知しながらそれを聞かなければならないのだから。

だがロティが脱出不可の場所にいるという事は俺がなんもしてでも見つけて助け出さねばならないだろう。ロティもきっと何か考えてくれているだろうが自分の身を1番に案じて守っていて欲しいところだ。

シーヴァが俺の格好をしたところでロティにはすぐに見破れそうだしそこは全く気にしてないが、素直に女の言うことを信じるならシーヴァがロティに手を出していないのは不思議でしかなかった。

この女同様、シーヴァの事も信用ならないのにロティを襲っていないとはどういう風の吹き回しなのだろう。前世ではロティを自分の嫁にしたくて足掻きまくっていた奴が今度は静かに傍観しているだけとは考えにくい。

けれど時々恐る恐る確認する兎のぬいぐるみは眉間に皺を寄せていたり、落ち込んだ様な顔をしていたものの、あまり変わりない感情に僅かな安心感とあの女の言い分が間違いではないのかもがしれないと期待が高まってしまう。

左腕にしがみつく女にチラッと視線をやるとその奥にアレックスが見えて冷たい視線を女に送っていた。

「おい、アレグリア。そろそろ本当に一度ルークを離してやれ。好きなら尚更な。
少し一人で休憩させないと倒れるぞ。」
「…煩い子だなぁ。わかってるよ。」

わかってるなら今すぐ離せばいいのに、何故逆にしがみついている腕に力を入れたのか全くわからない。うだうだと離そうとしない手を今度はアレックスを押し除けてエドガーが女の二の腕を掴みながら柔かな笑顔を見せている。

「ほら、川に着きましたよ。ルーク、あちらで少し休憩してきてください。」
「ちょ、ちょっと!自分で離れるから掴まないでよ!」

ぐいっと引き離す様にエドガーが俺から女を取ってくれたため、女は悔しそうな顔をしてエドガーを睨んでいた。
その睨みに屈せずエドガーもまた冷たい目をして笑みを浮かべながら女を見返している。


「さっさと離せばよかっただろう。」
「好きな人と離れがたいのがわからないのかなぁ、この黒ちゃんは?」
「あら。わかると思うわよ。リニだって。
だけど好きな人が嫌がるならまずそれをしないのが普通だからじゃないかしら。」
「そうですね。私もそうだと思います。さ、アレグリアさんもこちらに行きましょうね。」

「だから!自分で移動するってば!もうっ!」

エドガーからさっ攫うようにリニとノニアとサイラスが女の両脇を抱えて離れていく。
岩が多めの川で岩を椅子代わりにはできそうな為休憩するにはちょうど良いだろう。

あの女を抱えながら俺から離れていく女性群達は少し遠くの岩陰に隠れて姿が見えなくなった。

(あの女の姿が見えないだけでも結構違うものだな…。)

心なしか心の重りが幾つか軽くなった気すらする。ほっとした俺の肩をポンと叩いてきたアレックスが眉を下げながらはなす。

「ルーク、俺達が見てるから少し休んでこい。顔色ひでーぞ。」
「1時間程休憩しましょうか。その間ちゃんと休んで下さい。女性群がアレグリアを包囲してくれるようなので。何かあればすぐに対処しますから。」

「すまない。アレックス、エド。」

「いいって、しっかり休め。」

そう言ってアレックスとエドガーは先程女性群が消えていった岩陰へと向かっていく。
俺も言われた通り少し休もうと反対方向へと歩みを進めた。


5分くらい歩き岩に腰を下ろす。
ここ4日間1人で休憩する暇がなかったからか1人になると体に疲れを感じてしまった。

ハイペースで世界樹を目指しているとはいえやはり8日はかかるだろうか。もっとあの女の口から情報を絞り出さねばならない。

ロティの居場所を突き止めたいのに宝石蜘蛛は何故あの女へと向かったのだろうか。

あの女が来てから6日目偽装魔法が解ける気配がない。あれだけ精巧に偽装しているならかなりの魔力も使っているはずだし、2.3日に一度は魔法をかけ直さねば持つはずもないのにどうやっていることやら。

(どこかでシーヴァと繋がっている…?
だがシーヴァもロティ同様出れない場所にいるのにどうやって会っている?
少なくともシーヴァの影はない。魔力を飛ばすにしたって遠ければ遠いほど魔力を食うだろう。そんな感じじゃない…。
まるであの女が特殊魔法を常に使えている様なそんな感じだ…。)

焦りと苛立ちが込み上げてきそうになり俺は溜息を吐きながら鞄の中を漁る。
御目当ての物に手が触れて、それを掴んで鞄から出す。

「…少し穏やかな顔してるな、ロティ。
何かあったのか…?」

兎のぬいぐるみは昨日見た時より表情が柔らかくなっている。何かいい事でもあったのだろうか。

だが一緒にいる相手はシーヴァだ。そんなやつと一緒にいていい事などあっても俺の心は荒むだけだ。出来ればロティ1人でいい事があったのだと心の中で1人上書きして揉み消す事にした。

今すぐロティに会いたい。
そんな思いがずっと俺の中を巡っている。
手に触れて抱きしめてキスして。
ロティの全てが欲しくなって仕方ない。

全部俺で満たす事が出来たらいいのに。そんな想いも言葉も今は届けられなくて燻ってしまう。

ロティへキスしたい気持ちが昂りすぎて兎のぬいぐるみを見つめてしまう。

(こんな兎のぬいぐるみにキスしたところで…。)

そう思いながらもそっと自身にぬいぐるみを近づけた。側から見れば気色悪いだろうななんて思いながらも、逃す事のできない思いの丈を兎にぶつけてしまった。

「っ…!?」

慌てて兎のぬいぐるみを離して顔を見る。
どこか切なそうな兎の顔は今にも涙が溢れそうだ。

というより今唇に当たった瞬間にぬいぐるみの感触じゃないような感じがしてならない。
本物のロティとのキスが一瞬だけ唇に感じてしまったような気がして顔に熱が篭ってしまった。

「はぁー……。会いたい…。抱きしめたい…。キスしたい…。」


兎のぬいぐるみを抱きながら話した虚しい独り言が川の流れの音で殆ど掻き消されているようにと祈ってしまった。
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