宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
21 / 237
第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで

第21話 自分の屋敷での出来事

しおりを挟む
 話をしながら歩けば時間はあっという間に過ぎて、俺たちは俺の屋敷へとたどり着いた。

「ここが、ノヴァさんのお家なんですね」

 シアのそんな呟きが聞こえた。隣に並ぶ彼女を見てみれば、彼女は俺の屋敷を見渡しているようだった。

「この前のフォルスの本邸に比べるとかなり小さいよね。まあ、あそこは大貴族の屋敷だから当たり前なんだけどさ」

「そうですね。でも私はこっちのほうが好きですよ。広いよりも狭い方が好きなんです。だからあの時も路地裏にいたりしたんですけど」

「そうなんだな」

 昔の思い出にしみじみとしていると、たまたま屋敷から一人の老人が出てきた。

「おや? ノヴァ様、お帰りなさいませ」

「あぁ、ただいまジルさん。でも、すぐ出かけるけどね」

 おそらくすることがなくて散歩でもしようとしていたんだろう。結果として俺達を出迎える形になったこの老人の名前はジル・クリストフ。数十年前に取り潰されてしまった貴族の家の執事をやっていたらしい。俺が領地を父上から賜ってからは補佐をしてくれている。とはいえ俺の領地はかなり狭く、目を通す書類の種類も少ないために互いに暇を持て余しているんだけど。
 そんなジルさんは年月を感じさせる洗練された礼をする。

「かしこまりました。特にノヴァ様の承認が必要なものもありませんので、領地の事はお気になさらず」

 頭を下げるジルさんを見て、もう少し彼と早く出会えていればな、と思わずにいられない。彼もまた実家にはほとんどいなかった、俺を出来損ないだと蔑まない人だからだ。
と思ったけど、そういえばここ最近、自分の屋敷では陰口を聞くことがなくなったと気づいた。

 この屋敷に来たばかりの頃はたまにそういった声を聞いたりしていたのだけど、少し前から全く聞かなくなった。以前、人員の変更案がターニャから出されたから、彼女が俺のために使用人たちを入れ替えてくれたのだろうか。もしそうならターニャには感謝しかない。

 礼を解いて直立するジルさんの目が動くのを見て、俺はまだシアを紹介していなかったと思い出した。

「あ、そうだ、紹介するよ。こっちは……レ、レティシア・アークゲートさん。俺に縁談を申し込んでくれている方だよ」

「もうノヴァさん、なんですかその紹介の仕方は」

 シアにため息をつかれてしまった。でもフルネームで呼ぶと彼女がどれだけ凄い人なのか嫌でも分かってしまうので、仕方ないことだと思う。

 ジルさんはシアに深く頭を下げる。

「存じております。ノヴァ様をどうかよろしくお願いします」

「はい! よろしくお願いされました!」

「……えぇ?」

 初対面の筈であるが、結構スムーズに話が進んでいて驚きだ。ジルさんとは初対面の筈だけど、ターニャの時といい、こういったシアの社交性の良さは素直に凄いと思う。

 そんなニコニコ笑顔のシアは横を向いて手を伸ばし、ゲートの魔法を使用した。金色の光が楕円の形で広がり、ここと遠くを繋ぐ魔法の門が出来上がる。いつ見ても綺麗な魔法だと思う。

「ノヴァ様、私はこちらに残りますので、アークゲート家で楽しい時間をお過ごしください。あ、少しだけ待っていてくださいね」

そう言ったターニャは駆け足で屋敷の中へ。少しだけ待っていると、見覚えのある厚着を手に持って、戻ってきた。

「これ、先日ノーザンプションに行った際に購入なされた上着です」

「あぁ、ありがとう」

 これから行くノーザンプションの街は少しだけ肌寒い事を俺は身をもって経験している。前に現地で購入した上着をターニャから受け取った。

「レ……シアさん、お帰りは何時くらいになりますか?」

「正確な時間は分かりませんね……戻るときに、便箋にて連絡します」

「かしこまりました」

 さて、今からシアの実家であるアークゲート家か。どんな場所だろうか、ちょっとわくわくするけど、不安もあるな。

「あ、そういえば」

 シアはコートの懐から見慣れた袋を取り出した。俺が以前、ノーザンプションの街でオーロラちゃんと交換した、ミルキーウェイというお店の菓子の袋だった。

「ご要望のあったお菓子です。どうぞ」

「おいおい……ターニャ、お前シアに何を頼んでいるんだ」

 以前ターニャは当てがあるようなことを言っていたけど、まさかシアの事だったのか。少なくとも主の縁談相手に要求するようなことじゃないだろ、と内心で溜息をつく。

「…………」

 ターニャは固まっていた。目線が泳いでいる。シアはそんな彼女の事を気にすることなく手を取って、その手にミルキーウェイの菓子の袋を持たせた。瞬間、俺の目の前に立つジルさんの目がきらりと光った気がした。

「ターニャ嬢、ちょっと向こうで爺とお話をしましょう」

「え……あ……はい……」

 ジルさんに後ろ首を引っ張られて連れていかれるターニャ。縋るような目を向けられたが、こればっかりはターニャが悪いので説教を受けてもらうしかない。っていうか、連れていかれるときでもガッチリお菓子を抱えているのね。

 小さくなっていくジルさんの背中と、これから先お説教が待っているだろう可哀そうなターニャを見送って、俺はシアに謝った。

「あー……うちのターニャがごめん。でもお菓子ありがとうね。結構並んでいて、大変だっただろ?」

「いえ、気にしないでください。関りがある店ですし、妹のせいでもありますから……むしろ妹がすみません……お世話になっただけでなく、お菓子まで譲って頂いたみたいで……」

 お互いに謝り合うちょっと変な展開になる。しばらくしてから俺達は話題を失い、行く当てのない視線をさまよわせた。
 シアはしばらくゲートをじっと見つめていたものの、不意に真剣な目を俺に向けてきた。

「ノヴァさん、実はゲートの魔法には決まりがありまして」

「決まり?」

 どんな距離でも繋いでしまう魔法だ。ある程度の制限はあるのかもしれない。

「……二人では使えないとか?」

 そうなると俺はここから馬車になるのだが、ノーザンプションの街はめちゃくちゃ遠い。そう思ったけど、シアは首を横に振った。

「いえ、二人で使えます。ただ、手を繋がないと使えません」

「あ、二人では使えるのね。それは良かったよ……うん?」

 手を繋がないといけない? 一瞬頭に疑問が湧いたけど、シアの表情は真剣そのものだ。考えてみればゲートの魔法を使っているのはシアなわけだし、彼女に触れていることが一緒にゲートを使う条件ってことか。

「うん、じゃあお願いします」

「はい、お願いされました」

 ニコニコ笑顔で俺の手を握るシア。以前も思ったことだが、彼女の手は身長からも分かるように俺の手よりも小さく、それでいて柔らかい。こうした細かいところでも、彼女を護りたいと思ってしまう。

「最初は恐いかもしれませんけど、通り抜ければすぐにアークゲート家ですので。あ、もし眩しければ目を瞑っていると良いかもしれません」

「うん、わかったよ」

 シアに引かれるようにゲートへと近づいていけば、光量が増えるので確かに眩しさを感じる。少しだけ目を薄めにして、俺は金色の輝きの中へ足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

処理中です...