宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
187 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第187話 予想もしていなかった彼女の正体

しおりを挟む
「レイ……チェル?」

 アークゲートと彼女は名乗った。シアの親類であることは間違いない。けどその一方で俺の頭は混乱していた。
 レイチェルという名前を、記憶が正しければ今まで聞いたことがない。シア達から聞いたことがないからこそ確信が持てない。この人は本当にアークゲート家の人なのか? とさえ思い始めていた。

 じっと女性を見る。その姿から考えるに、ティアラやノークさんと同じくらいの年齢に見えるから、ノークさんに実は妹が居たとかそういう事だろうか? あるいはノークさんの従妹とか? でもそんな親族なら名前くらいは聞いたことがあってもおかしくない筈だ。

 そんな事を思っていると、レイチェルさんは周りをチラチラと見て、小声で「あの」と声をかけてきた。

「その……少し離れたところで話しませんか? ここは大通りですし」

「え……あ、ああ、すみません」

 確かに今俺達は露店の前に居る。ここで話を続けるのは場所が良くないだろう。振り返ってアランさんと目線を合わせて、互いに頷き合う。俺達はレイチェルさんを連れて、通りの端の目立たない場所へと移動した。

 商店か何かの壁に近づくことで、人の流れから離れる。それと同時にアランさんが小さな声でレイチェルさんに挨拶した。

「こんにちは、急に声をかけて申し訳ありません。私はアラン・サイモンと申します」

「は、はぁ……私はレイチェル、と申します」

 困ったように返事をしながら、チラチラと俺の方を見てくるレイチェルさん。どうやら俺の事は知っていてもアランさんの事は知らないらしい。
 そんなことを思っていると、レイチェルさんは右手を動かした。

「周りに声を聞かれないように結界を張りました。これで私達の話し声は周りには聞こえない筈です」

「あ、ありがとうございます」

「いえ……それで、話というのは?」

 なんでもないように聞いてくるレイチェルさん。この後尋ねられる内容も分かっていそうだけど、俺は素直に尋ねることにした。

「少し前にこの通りで起きた通り魔事件……あれを解決したのはレイチェルさん……ですよね?」

 尋ねつつも答えはもう分かっているようなもの。アークゲートの家名を持ち、周りに声が届かないようにできる魔法をあっさりと使えるレイチェルさん以外に、先日の事件をあっさり解決出来そうな人なんて思いつかなかった。

 少しだけ答えに窮したレイチェルさんは、しかし小さくため息を吐いた。

「……そうです。この街には買い出しに来るんですけど、そんなときに目の前で悲惨な事件が起きていたら誰だって手を出すでしょう?」

「そうですね……レイチェルさん、事件を解決してくれてありがとうございました」

「…………」

 素直に思ったことを口にすると、首を傾げられてしまう。あれ? 何かおかしなことを言ったかなと思っていると、レイチェルさんは口を開いた。

「どうしてあなたが感謝を?」

「え……いやその……なんとなく?」

 よくよく考えてみれば俺はこの街には何の関係もない。しいて言うなら南の代表だから? というのが思い浮かぶけど、それもなんか違う気がする。けどレイチェルさんのお陰で死傷者が出なかったことは事実で、それにお礼を言いたい気分だった。

 レイチェルさんの問いの答えに窮していると、彼女はそんな俺の様子がおかしかったのかクスクスと笑った。その笑い方を見て、シアに似ているな、と感じた。

「変な人ですね……ですが受け取っておきます。どういたしまして」

「…………」

 じっと見れば見る程、どこかシア達に似ている。髪色はユティさんと同じだし、瞳の色は灰色だ。アークゲート家の関係者なのは間違いなさそうだけれど。
 そんなことを思ってじっと見ていると、レイチェルさんも俺の事を見返してきて、じっと観察してきた。

「あの……こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、本当にレティシアと結婚しているんですか?」

「は、はい?」

 急に意味が分からないことを聞かれて、思わず聞き返してしまう。最初は嫌味を言われているのかと思ったものの、レイチェルさんは困惑している様子を浮かべているだけだ。

「すみません。私からするとアークゲートとフォルスが結婚したという事自体が信じられなくてですね。一応噂で聞いてはいたのですが……その様子を見る限り、本当だったんですね」

「え……ええ……」

 何だろうか。普通に会話をしているのにどこかズレているような気がする。アランさんもそれを感じ取っているようで、訝しげな表情を浮かべていた。

「……レイチェルさんもアークゲート家、ですよね? その……すみません、妻から名前を聞いたことがなかったもので」

「ああ、それは仕方がない事だと思います。私は既に隠居した身ですので」

「隠居?」

 どういうことかと思い、聞き返してみる。するとレイチェルさんは微笑んで答えてくれた。

「あなたになら話しても問題ないと思うのでお話しますが、元々私はアークゲート家の当主だったんです。ですがその座もずいぶん昔に娘に譲り渡して、今は隠居の身です」

「元……当主……」

 その言葉に、俺の中で少しずつ怒りが湧き上がってくる。しかしレイチェルさんはそんな俺の様子には気づかなかったようで、続けて言葉を紡いだ。

「ええ、三人の娘の内の一人に渡して……ただ北側には居づらく感じてしまい、こうして南側で穏やかに暮らしているんです」

 そこまで聞いて、急速に怒りが静まっていくのを感じた。一瞬シアの母親かと思ったものの、そもそも名前が違う。確かシアの母親の名前はエリザベート・アークゲートで、レイチェルではない。
 それに娘の数も合わない。今だから分かるけど、シア達は元々四人姉妹だ。三姉妹じゃない。

「……え? いやでも……」

 そうなると、ますます分からない。レイチェルさんが何者なのかが、いまいち見えてこない。何度も見ても、そこにはノークさんと同じくらいの年齢の女性が居るだけだ。
 でも彼女は確かに今、アークゲート家の元当主だと言った。ひょっとしたら分家の当主という意味だったのかと思いつつ、俺は恐る恐る彼女に尋ねる。彼女が何者なのかを判断するために。

「えっと……その……レイチェルさんの娘さんのお名前は……?」

「? こちらはご存じではありませんか? エリザベートとティアラ、それにノクターンですよ」

「……えぇ?」

 まさかの言葉に俺は間抜けな声を出してしまう。アランさんも同じようで、目を見開いてレイチェルさんを見ていた。

「え……いや、ちょっと待ってください……えぇ? シアの……祖母?」

「シアというのはレティシアのことでしょうか? もしそうなら、彼女から見ると、そうなりますね」

「……いやいや」

 信じられない気持ちでいっぱいになる。いやだって、いくらなんでも。

「若すぎるでしょう……」

 俺の心を、アランさんが代弁してくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...