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旦那様が優しすぎまして①

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 エミリオはおそらくかなり言葉を選んでくれたのだろう。着痩せなどというレベルではないはずだ。
 セレナはか細い声で説明した。

「普段は、布やコルセットでつぶしているのです……いずれ国母となる者が、みだりに殿方の欲望を煽るような様ではいけないと父に言われて、ずっと……」
「侯爵がそんなことを?」

 こくりと首の動きで答える。そしておそるおそる尋ねた。

「あの、お見苦しかったでしょうか……?」

 男性を誘惑するような破廉恥な身体付きを真面目なエミリオはどう思うだろうかと想像するだけで羞恥でどうにかなってしまいそうだった。

「見苦しいなんて、あるはずが……っ」

 エミリオはそこでまた乳房のほうへ視線を移し、それから片手で両目を覆うようにして深く息を吐く。寝間着の布地は大半が首のあたりでくしゃくしゃになっていて、セレナの胸は完全に彼の前にさらけ出されていた。

「あなたは、男というものを、全く分かっていない……」

 それは一体どういう意味なのか。セレナが理解する間もなく、目元を赤らめたエミリオが乳房にそっと手を乗せた。そして少しずつ肌の上をなぞりはじめ、動かす範囲をじわじわと広げていく。その手つきからは、こちらに対する最大限の配慮が感じられ、彼の性欲は極限まで制御されているように見えた。

 しかし、常に真摯な光を湛えるその青い瞳が、今は濡れたようにギラついているのを目にしてセレナは動揺してしまう。

 彼もまた男なのだと、そのことを強く意識させられる。その男性的な本能は今まさにセレナという女を求めているのだ。
 そのことに喜びを覚えないわけではない。だがそれよりもセレナの頭を占めるのは、初めての経験に対する戸惑いだった。

 ――どうしよう、恥ずかしくてたまらない。

 彼の五感は今、セレナを感じとるためだけに存在していた。
 エミリオの手も、唇も、視線も、全てがセレナだけに向けられて、その形や体温、表情、声――全てを丁寧に拾い上げている。そうされているのを感じる。

 ――私は、エミリオ様の目にどう映っているのかしら。

 それが心配でならない。
 興奮してくれているのは分かる。それでも、少しでもどこかがっかりされる箇所があったらと思うと、不安で身動きがとれなくなってしまう。特に胸の大きさはセレナにとって無視できない欠点で、エミリオが本心ではどう感じているのかが気がかりだった。

 だって、ずっと好きだったのだ。こうして結婚できて夢のようだと思うからこそ、些細な瑕疵で夢から覚めてしまいそうで怖い。

 だが、緊張するほどに感覚は鋭敏になってしまうのか、エミリオの指がそっと膨らみのふもとを撫でるだけで、張り詰めた呼吸が口から漏れてしまうのを止められなかった。

 湿った吐息をなんとかこらえたくて喉に力を込めていると、不意にエミリオの手のひらが乳房の先端を掠め、自分のものとはとても思えないようなひときわ甘ったるい声が出た。

「ひぁ、んっ、ぁ、ぁ……!」

 その反応を悦びと受け取ったのか、彼はおもむろにそこを指でつまみ、くりくりと転がしてきた。

「――――んっ! んんぅ……っ!!」

 瞬間、感じたことのないような熱がお腹の奥から湧き出し、稲妻のように背すじを駆け抜ける。
 初めて知る衝撃的な感覚に、セレナの動揺はそこで最高潮に達した。ひとりでに目尻から涙がこぼれ落ち、己の反応に愕然とする。
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