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妻が居眠りをしておりまして②
しおりを挟む身を焦がすような衝動を全力で抑え込み、静かに告げると、彼女は素直に従った。その唇に、エミリオは極力優しく、慎重に、自身のそれに触れさせる。
妻の唇の柔らかさを感じ取った瞬間、じんと痺れるような高揚に全身が包まれる。
セレナの前では常に理知的な夫として振る舞っていたエミリオだが、実際のところは、初夜の翌日からずっと、彼女と再びこうすることばかり考えていた。
だが、それも仕方がないことだろう。愛する人と触れ合いたいというのは人間の根源的な欲求だ。それは、いくら自慰などしても誤魔化せるものではないのだ。
こうして結婚して、なにに阻まれることなくセレナに触れていい権利を手にしてしまったからこそ、エミリオは戸惑っていた。歯止めの利かなくなった自身の欲に。
――だが、彼女を怖がらせ、無理を強いることは絶対に避けなければ……!
溢れ出しそうになる愛欲をギリギリで押しとどめているのは、ただその一念だった。
エミリオはセレナの様子を窺いながら、少しずつ少しずつキスを深め、角度を変え、何度も唇を重ね合わせる。そうするうちに口付けは徐々に舌を絡ませるような濃厚なものになっていき、互いの口内で響く淫らな水音が大きくなっていく。
セレナは甘い吐息を漏らしながらも懸命にこちらに応えようとしてくれて、その健気さがたまらなく愛おしい。
妻と情熱的なキスを交わしつつ室内を大股で横切っていったエミリオは、セレナの細い身体をゆっくりと寝台に下ろした。
そのまま一度キスをやめようとしたが、離れたくないとでもいうように彼女の腕が首の後ろに回されて、エミリオはグッと息を詰めた。
誘惑されるように、セレナの舌を強く吸い、その柔らかな肢体に手を這わせる。腰骨のあたりから頭のほうへと手を動かし、エミリオを惑わせてやまない膨らみへ――
「――っ、すまない……!」
一瞬我を忘れて深い行為に進もうとしていたことに気づき、エミリオは慌てて妻から離れようとした。セレナがしたいと言ったのはキスだけであって、その先は受け入れていない。
なのに、衣服の袖を掴まれたことでエミリオはその場から動けなくなってしまう。ほかならぬ妻の手によって。
か細い声が耳に届いた。
「やめないで……」
思わず出てしまった言葉なのか、セレナはハッと息を呑んだあと、遠慮がちに続けた。
「エミリオ様がおいやでないなら……わたくしは……」
恥じらいからかその先をどうしても口にできないらしく、きゅっと唇をつぐむ。だが、エミリオを引き止めた手はしっかりと袖を握ったままで、彼女の意志の強さが垣間見えた。
それでもやはりエミリオは躊躇してしまう。それは他者を優先しがちな妻の性格を知っているがゆえだった。
袖を掴んだ手を上から手で包むようにして指をほどかせながら、セレナの顔を覗き込む。
「本当に? 無理だけはしないでくれ。あなたのためなら私はいくらでも待てるから」
だが、セレナは小さく首を横に振り、涙目になりながら震えた声を出した。
「……ったら……?」
「え?」
「待たなくても、いいって、言ったら……? エミリオ様のお心の準備ができているのなら、わたくしは、いつでも……っ」
真っ赤な顔でそんなふうに言われて、エミリオは己の欲求が激しく揺さぶられるのを感じた。だが、すんでのところで踏みとどまる。
「それ、は……あなたも心から望んでいることなのか……? 義務感に駆られてそう言っているのではないか……?」
セレナはまたふるふると首を横に振る。それから深く呼吸して、今度はいくぶんしっかりした声で答えた。
「義務だから、だけではなくて、気持ちのうえでも、エミリオ様の妻にきちんとなりたいと望んでいるのです」
そう言って、涙できらめく目でじっと見つめてくる。
その瞳は、本心からそれを望んでいるのだと切実に訴えていた。
慎み深い妻が、こうまでして自身の願望を口にしたことに――しかもそれが、きちんと妻になりたい、だなんて、いじらしく健気なものだったことに、エミリオの心と身体は熱くなった。
「……少しでもいやだと思ったら、必ず言ってくれ。分かったな?」
こくこく、と妻がはっきり頷いたのを確認して、エミリオはその寝間着に手を伸ばした。
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