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グロイスター公との約束
しおりを挟むグロイスター公はただ人見知りだったのか、一度慣れてしまえば特別冷たい人ということも無かった。
寧ろ、古くからの知り合いのように話しかけてきている。
奥方に一途な方だと思っていたが、遊ぶ気にならないくらい真面目な方だったということだろうか。戦場に来て少し羽根を伸ばす気持ちにもなったのかも知れない。
事情は分からないが、きっとそういうことなのだろうと納得する事とした。
終わった後も暫くダラダラとして、今回呼ばれた理由を聞いてみる。
「…戦場に出ている兵たちを気遣った陛下からの有り難い命令があってな。上長が先に呼ばないと示しが付かないと言われて仕方なく。」
とのことで、苦笑いを浮かべていた。
その時も、ゆらゆらと揺れる変わった香りの煙が妙に気になる。
「これは気分を落ち着かせる為の香だ。」
そう言われれば納得するしかない。私はこの人にとって今のところは何者でも無いのだから。
大事な存在になれば気も緩んでもう少し話をしてくれるだろうか。慣れたとは言え、まだまだ壁があるように思う。
「…これはまだ公表されていないのだが、勇者方が元気が無くてな。公娼を誰か充てがおうという話が出ている。」
「…元気がないと言いますと?」
「…戦場に来てから少しお疲れのようだ。」
疲れてる、とは言うもののまだ碌に戦闘をしていない。
しかし先日の襲撃でかなりショックを受けたのは見て取れたので、成る程と頷いておいた。
女を充てがって気力が回復するものなのかどうかは女の私には分からない。
「けれど私達は…王位継承のある方のみの専属と決まっておりますが。」
勇者とは特別な存在であるが、王族ではない。勿論、王位継承権などあるわけもなかった。
「…そこは兄上の命令だ。お前達も飲み込むしかないだろう?」
強引に命令で言うことを聞かせようとする姿勢らしい。国王陛下らしいといえばらしいのだが、余り気持ちの良い扱われ方では無かった。
「中途半端な娼婦を充てがうわけにもいかない。子どもを作られれば面倒だと言うのが陛下のお考えだ。」
勇者の子どもともなれば、例え娼婦との子であろうが、貴族の位を与えないわけにもいかないという事だろうか。
貴族が飽和するほど増えているこの国にとって、喜ばしいことではないのだろう。
けれどそのために従来の慣習を破るというのもどうなのだろう。
公娼の中には品位に関わると首を縦に振らない者も出てきそうだ。
久しく会っていない、私とラダ以外の公娼を思い少し気分が沈んだ。
「お前たちの承知し難い気持ちも分かるが、そこはお前から説得してはくれないか。」
懇願するように言われ、やってみますと返事をする。
ここで断って信頼関係を崩すようなことはしたくない。彼は何か重要なことを知っているだろうから、出来ることなら今後も親しくしておきたかった。
また戦場を離れることになりそうだと、少し頭痛のする思いがした。
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