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このあとどう行動するべきか、私は思いを巡らせた。王子はいろいろと手配してくれていたようだけれど、正直心細い。ラナーはいい子で私に好意的なようだし、王子は自分のハレムが安全だと信じているようだったけれど、地球のハレムやら後宮やらというもののおどろおどろしい歴史を知っている以上、それこそ出されたものが食べられるのかどうかすら疑ってしまう。
でも、本当に安全なのならば、ここで関わりを拒絶すると、のちに私が猜疑心を向けたという事実だけが残ってしまい、これからしばらく過ごさなければならないこの場所の居心地を悪くするだけだろう。
(こんな状況の対処法なんて、現代日本人の必修科目にはないんだけど!?)
心で泣いてもどうにもならない。とりあえず、気合いを入れて、差し出された銀盃の水を飲み干した。こちらでも同じ銀ならば、毒検知にある程度役立つはず。銀盃はとても綺麗に輝いていた。
「……おいしい」
微かに柑橘系の香りがついた水は、考えてみれば昨日の昼間からほとんど何も食べていないのに運動だけはたっぷりした私の喉を潤した。立て続けに三杯飲んで、ようやく人心地つく。
一応、昨夜、酷使された後に、「食べる気が起きないならこれでも飲んでおけ」と言われ、どろっとしたシチューのような栄養食(それなりの味だった)を差し出されるままに口にしたし、ジュースのようなものも少し飲んだけれど、確かに水分は全然足りていなかった。
「まずは湯浴みをなさいませんか?」
「そう、ですね」
立ち上がろうとして気づく。私、裸じゃん……。
昨夜はこちらの世界と地球との違いなんかを聞かれ、それにぽつぽつと答えるうちに寝てしまった。その時、このまま肌に触れていたいとイケメンなお顔で懇願されて、服を着ることを諦めたのだった。
慌てて毛布で身体を隠すと、ラナーは心得たように柔らかなガウンを用意してくれて、それに腕を通して立ち上がった。
「ハレムのお后候補の方々は、女の使用人に肌を見せることをなんとも思われないのですが、タカコ様は奥ゆかしくていらっしゃるのですね」
奥ゆかしいというか、私からしたら気にしない方が異常だ。でもきっと、この後、湯浴みを手伝われてしまうのだろう。入浴の作法も何もわからないから、変なことをしてしまわないためには断るわけにもいかない。困りながら、無難な回答を探る。
「ま、まあ、私のいたところでは、一人で入浴するのが普通でしたから」
「そうなのですか!? では、できるだけお邪魔しないようにいたしますね」
ラナーは素直な質なのだろうか。それとも、王子にきつく言われているのか。私を庶民的と非難する様子は欠片も見えなかったし、察する能力がとても高いし、今の私にはありがたかった。
隣の部屋にある階段を降り、人気のない瀟洒な通路を通った先に、大きな浴場があった。なんとなく見覚えがある。私が裸のまま落とされた場所だ。そこは石造りの建物の一階で、奥に湯が澑められ、よく陽の当たる窓辺には寛ぐスペースがある。
(あのマッサージ台でいたしてしまったのか……)
複雑な気持ちでそこから視線を逸らし、ラナーに言われるがままお湯を浴び、髪を洗われた。ラナーはテキパキと二種類の液体を混ぜて私の髪になじませ、お湯で流し、また別の液体で揉み込むようにして流し……、と、やはり一人だったら絶対にできなかったことをしている。
さらに、柔らかい布を泡立て、私の身体を洗っていく。さすがにこちらは恥ずかしくて、身体の前面と下半身は自分で洗わせてもらった。慣れる日は来るのだろうか……。来てはいけない気もする。
ようやく広々とした湯船に身を沈めると、ラナーはさっと出ていってくれた。これから一人の時間は貴重になるだろうからありがたい。日本で独身を満喫して一人温泉などするくらいのベテランおひとりさまの私は、ずっと人といると気詰まりなのだ。
さほど暑さを感じてはいなかったが、このあたりはやや熱帯寄りの気候なのだろうか、庭の植物は大ぶりの葉や花が目立つ。ぼんやりとそれらを眺めながら長湯をしていたら、ラナーに心配されてしまった。
その後には全身のオイルマッサージがついていた。これはハレムの女には当然のことらしい。まあ、ハレムの主のために日々身体を磨くのだろうから、当然かもしれない。
そしてもちろん、王子に触られた時のように変に気持ちよくなってしまうことはなく、高級なエステを受けているような心地よさだけを感じた。……昨日のことを思い出して、少しうずうずしてしまったことは否めないが。
余計なオイルを拭われると、私の身体はピカピカになった。
でも、本当に安全なのならば、ここで関わりを拒絶すると、のちに私が猜疑心を向けたという事実だけが残ってしまい、これからしばらく過ごさなければならないこの場所の居心地を悪くするだけだろう。
(こんな状況の対処法なんて、現代日本人の必修科目にはないんだけど!?)
心で泣いてもどうにもならない。とりあえず、気合いを入れて、差し出された銀盃の水を飲み干した。こちらでも同じ銀ならば、毒検知にある程度役立つはず。銀盃はとても綺麗に輝いていた。
「……おいしい」
微かに柑橘系の香りがついた水は、考えてみれば昨日の昼間からほとんど何も食べていないのに運動だけはたっぷりした私の喉を潤した。立て続けに三杯飲んで、ようやく人心地つく。
一応、昨夜、酷使された後に、「食べる気が起きないならこれでも飲んでおけ」と言われ、どろっとしたシチューのような栄養食(それなりの味だった)を差し出されるままに口にしたし、ジュースのようなものも少し飲んだけれど、確かに水分は全然足りていなかった。
「まずは湯浴みをなさいませんか?」
「そう、ですね」
立ち上がろうとして気づく。私、裸じゃん……。
昨夜はこちらの世界と地球との違いなんかを聞かれ、それにぽつぽつと答えるうちに寝てしまった。その時、このまま肌に触れていたいとイケメンなお顔で懇願されて、服を着ることを諦めたのだった。
慌てて毛布で身体を隠すと、ラナーは心得たように柔らかなガウンを用意してくれて、それに腕を通して立ち上がった。
「ハレムのお后候補の方々は、女の使用人に肌を見せることをなんとも思われないのですが、タカコ様は奥ゆかしくていらっしゃるのですね」
奥ゆかしいというか、私からしたら気にしない方が異常だ。でもきっと、この後、湯浴みを手伝われてしまうのだろう。入浴の作法も何もわからないから、変なことをしてしまわないためには断るわけにもいかない。困りながら、無難な回答を探る。
「ま、まあ、私のいたところでは、一人で入浴するのが普通でしたから」
「そうなのですか!? では、できるだけお邪魔しないようにいたしますね」
ラナーは素直な質なのだろうか。それとも、王子にきつく言われているのか。私を庶民的と非難する様子は欠片も見えなかったし、察する能力がとても高いし、今の私にはありがたかった。
隣の部屋にある階段を降り、人気のない瀟洒な通路を通った先に、大きな浴場があった。なんとなく見覚えがある。私が裸のまま落とされた場所だ。そこは石造りの建物の一階で、奥に湯が澑められ、よく陽の当たる窓辺には寛ぐスペースがある。
(あのマッサージ台でいたしてしまったのか……)
複雑な気持ちでそこから視線を逸らし、ラナーに言われるがままお湯を浴び、髪を洗われた。ラナーはテキパキと二種類の液体を混ぜて私の髪になじませ、お湯で流し、また別の液体で揉み込むようにして流し……、と、やはり一人だったら絶対にできなかったことをしている。
さらに、柔らかい布を泡立て、私の身体を洗っていく。さすがにこちらは恥ずかしくて、身体の前面と下半身は自分で洗わせてもらった。慣れる日は来るのだろうか……。来てはいけない気もする。
ようやく広々とした湯船に身を沈めると、ラナーはさっと出ていってくれた。これから一人の時間は貴重になるだろうからありがたい。日本で独身を満喫して一人温泉などするくらいのベテランおひとりさまの私は、ずっと人といると気詰まりなのだ。
さほど暑さを感じてはいなかったが、このあたりはやや熱帯寄りの気候なのだろうか、庭の植物は大ぶりの葉や花が目立つ。ぼんやりとそれらを眺めながら長湯をしていたら、ラナーに心配されてしまった。
その後には全身のオイルマッサージがついていた。これはハレムの女には当然のことらしい。まあ、ハレムの主のために日々身体を磨くのだろうから、当然かもしれない。
そしてもちろん、王子に触られた時のように変に気持ちよくなってしまうことはなく、高級なエステを受けているような心地よさだけを感じた。……昨日のことを思い出して、少しうずうずしてしまったことは否めないが。
余計なオイルを拭われると、私の身体はピカピカになった。
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