【R18】目覚めたら異世界ハレムでした

榎本ペンネ

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 さて、一息ついたところで、情報収集をしなければならない。いろいろ悩んだけれど、遠回しな表現ではなかなか本当のことは聞けないだろう。仕方なく直接聞くことにした。

「ところで、そのお妃候補の方々がそんなにすぐにドレスをくださったこと、とても驚いたんですが……。皆さん、私のことをどう考えていると思いますか?」

 少なくとも使用人の皆さんは少しずつ信頼していけそうな気がしているけれど、お妃候補の人たちに関しては、今はまったく信じられていないのだ。
 ラナーを呼び寄せて、手をそっと握る。真偽を知りたかっただけだったのだけど、その奥にある私の不安が伝わったのか、ラナーは優しく握り返してくれた。

「皆さま、魔力に当てられてご苦労されておられましたから、タカコ様は大変歓迎されております。ですから率先してドレスを提供してくださったのですわ」

 その言葉に嘘はなさそうだった。

「ただ……、皆さまもお家の期待を背負っておられます。それぞれが連れてこられた付き人の中には、なんと申しますか、監視のような役割の者もおりまして、お妃候補の方々の辛苦よりもお家の事情を優先することがあります。われわれも注意しておきますし、お妃候補の方々も目を配ってはおられますので問題は起こさせませんが、一応お耳に入れておきますね」

 やっぱりそういう人もいるわけか。気をつけようと思う。

「ドレスをくださったお妃候補の方々には、お礼を言ったほうがいいですよね」
「最上位の妃相当であられるタカコ様がわざわざ他の方々のお部屋に出向かれる必要はありません。これまで最上位の嬪であられたアティームーヤ様は、明日にでもタカコ様にご挨拶したいとおっしゃっておりました。その後、位階の順にご挨拶に参られると思いますので、その際にお伝えすればよろしいですよ」
「そうですか……」

 これだけきちんと説明してもらっても、ハレムの女性の「ご挨拶」というのがどんなものか想像して怯えてしまう。女同士のそういうやり取りは苦手なのだ。
 怯えも握った手から伝わってしまったのか、「大丈夫ですよ」と宥めるように言われた。年下の少女に心配させてしまってはいけないと気を引き締めて、それでもさすがに疲れが出たのか少し休むことにした。


 一人にしてもらってソファでごろごろしていると、すぐにお昼になったらしい。食べものの良い香りと共に王子が戻ってきた。

「あ、殿下、おかえりなさい」
「……そのように言われるのも良いものだな。タカコにはこの国の服もよく似合っている」

 王子はそう言ってどっかりと私の横に腰を下ろし、すぐに手を握ってくる。また余剰魔力が溜まっていたのか、シュッ、とそれが私の魔力と相殺し合って消えるのを感じた。そのまま手を離さず、もう一方の手を私の腰に回して寄り添ってくる。

 王子の後からはラナーと他の数人の使用人が入ってきて、ソファの前に多種多様な食事を並べはじめた。さっきの着つけをしてくれた面々とは別の人たちだったが、やはり全員が笑顔で、私と私にくっついてくる王子をちらちらと見てくる。

(さっきより皆さんの笑顔が全開で気恥ずかしい……)

 気を逸らすように食べものに目を向ける。予想通り、南国風のスパイスが効いた料理がほとんどのようだ。色彩にも目を奪われるし、香りだけでひどく食欲がそそられる。
 ラナーたちがおそらく儀礼に則った仕方で後ずさりして部屋を出ていくと、王子と二人きりになった。

「お腹が空きました」

 目の前の料理に気を取られて、思わず素直な言葉を口にした。

「そうだろうな。好きなものを好きなだけ食べるがいい。タカコの好みがわからないから、今日は品数を多めに用意させた」
「ありがとうございます。でも、いつもこんなじゃなくてよかったです。絶対に食べきれないですし」
「別に毎日これでも構わないのだがな。事実、そういうことをしている宮もあるらしい」
「もったいないですね」
「俺もそういう無駄は嫌いだ。王族である以上、時にそういう見栄が必要な場面があることは認めるが」

 そんなことを話しながら、王子は甲斐甲斐しく取り皿に少しずつ料理を載せてくれる。

「なんだかすみません……」
「構わぬ。俺がしたいからしているだけだ。ひとまずこれらが我が国の定番の料理だ。食べてみろ」
「はい。ありがとうございます」

 素材や味付けについても簡単に教えてくれたので、安心して口にできた。想像できない素材も多かったけれど、私は鳥だとか四本脚の生き物だとかの肉ならば概ね食べられるタフさを備えているのだ。伊達に一人で山奥の温泉に行くタイプを貫いていない。

(それにしても、ベッドの中では俺様王子様なのにこんな風に甲斐甲斐しい時もあるとか……、何これ刺さる)

 甘やかされて気持ちが傾いてしまわないように気をつけないと、と、おいしい料理を頬張りながら自分を戒める。正直、出されたごはんはとってもおいしく口に合って、それだけでもここに住みたくなるレベルなのだ。
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