転生少女は欲深い

白波ハクア

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第4話 行商人との旅路

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「美味しい……!」

 取引の報酬として貰った食料を頬張り、私は何年ぶりかに食べた食料の味に目を輝かせた。
 これぞ至福。これぞ甘露。ああ、本当に美味しい……もう酸味だけしか感じないご飯を食べなくていいんだと思うと、自然と涙が出てくる。

「そんなに美味しいですか?」

 助けた青年が苦笑してそう言ってきた。
 話を聞いたところ、彼は各地を渡り歩って商売をする商人らしい。
 この森は昔に行商人によく使われていたルートらしく、今はこの近くの街が怪物──本当の名前を『魔物』という──に滅ぼされてから、誰も使わなくなったのだとか。

 ならどうして彼はここを通ったのだと聞いたら、急ぎの荷物を運んでいる際にちょっとしたトラブルが起きたらしく、そのせいで遅れてしまった時間を取り戻すため、近道をしようと思ってここを通ったのだと言っていた。

 そこで盗賊に遭遇。彼も剣や魔法の心得があったらしいのだが、逃げの一手を打てないほどあの盗賊達は強く、数もあった。

 …………あの盗賊達が強い?
 そうは思えなかったけれど、いちいちそれを気にしていても意味がない。だから私は、その話を終わりにした。

「そういえば自己紹介をしていなかった。私は鏡。よろしく」

「あ、僕はシュウ。シュウ・ノイヤーです。カガミさん。改めて盗賊達から助けていただき、ありがとうございました」

「いや、その代わりに食べ物を貰ったし、服も……こちらこそありがとう」

 私が元々着ていた服は、地球で着ていた物そのままだった。数ある魔物との戦闘によって所々が破れ、すでに服の意味を成していなかった。死体から漁ったマントが服の様なものだった。
 それに見兼ねたシュウさんが女物の旅服をくれた。長旅用にと作られた服は動きやすく、丈夫な素材を使っているから破れにくいらしい。ありがたい。

「……えっと、カガミさんは遠くの村から来たんですよね?」

 私は遠くの方から放浪して来たと説明した。
 そう言った方がこの世界の知識がなくても田舎者ってことで不審に思われないだろうと考え、ついでにそういう理由で色々と教えてくれるだろうと思ったからだ。
 その作戦が上手くいき、馬車の移動中にシュウさんから色々なことを聞くことができた。

 この世界には魔法が存在するらしい。まだ私は使えない。いつか使ってみたいという気持ちはあるけど、まずはこの世界のことに詳しくなることが最優先だ。
 この世界の人間は魔族と対立している。今もどこかで勇者と魔王が争いを繰り広げているらしい。なぜ対立しているのかを聞くと、遥か昔に人間と魔族の全種族を巻き込んだ戦争があったらしく、それが今も根強く残っているせいだと教えてくれた。
 そして、人間に味方した種族を亜人。魔族に味方した種族を魔物と定められているのだとか。

「味方してくれた種族すら別物扱い、か……」

 そんな言葉に、シュウさんは困った様に頬を掻いた。

「仕方ないです。人は他種族を見下して、自分達が一番だと思いたがるんです。……僕にはその考えがわかりませんけれどね」

「…………」

 どの世界の人間も、やっぱりそうなんだな。と私は呆れた。
 だけど、この世界は争いの絶えない世界らしい。自分が凄い種族なのだと主張しなければ、自信を保てないのだろう。その程度のことで安心することこそ、心が弱いと思ってしまう。でも、考えは人それぞれだ。運悪くそんな弱い考えの人が多く集まってしまったせいで、こんな他種族を差別する様な風潮が出来てしまったのだろう。

 ……ま、私には関係ないことだ。
 私は見た目が違うからと言って差別する気はないし、そのようなつまらないことでマウントを取ろうとする人と関わろうとは思わない。

 シュウさんはその様な人ではない様だった。ちゃんと話を理解してくれる人でよかったと思う。

「……ん、僕の顔に何か付いていますか?」

「いや、なんでもない。……ところで、シュウさんは今からどこに向かおうとしているの?」

「え? ああ、そういえば言っていませんでしたね。マレリアという街に向かっています」

「マレリア……?」

「はい。貿易が盛んな街で、色々な商人が集まっているんですよ。そのため、毎日賑わっていて、各地から冒険者の方も来るくらいです。この辺では一番大きな街なんですよ。あ、あと、港があって新鮮な魚介類も食べられます」

「おおっ、お魚……!」

 お魚なんてハエが付いていた様な物しか食べたことがなかった私は、新鮮な、という言葉に魅力を感じてしまった。

「その魚介類は、この食べ物より美味しい?」

「ええ、むしろそれは非常食で、簡単な味付けしかされていないやつです。それとは比べ物にならないくらい美味しいと思いますよ。……すいません。荷物の物は商品なので、分けてあげることが出来なくて」

「それはどうでもいい。それより、その魚介類って妙に黄色かったり、変な臭いがしたりしない? 虫とか集っていない?」

「え? そんな見るからに腐っている物なんて商品の価値ないですよ。出すわけありません。港のある街で出る魚介類は、その日に取れた物ばかりですよ」

「おお、おおっ!」

 私のテンションは頂点まで上がっていた。むしろ頂点をぶっちぎって限界突破しているかもしれなかった。
 それほど私は興奮していた。新鮮なお魚ってどんな色だったっけ? どんな味だったっけ? それが気になって仕方ない。グイッとシュウさんに近寄り、質問責めにしてしまう。彼も流石に引いてしまったのか、体を逸らして私から遠ざかろうとしていた。

「あ、ごめん……私なんかが近寄ったら不愉快だよね……」

「いえっ! むしろお綺麗なので魅力て──やっぱりなんでもないです!」

「…………?」

 いきなりゆでダコみたいに真っ赤になって、変なシュウさんだな。

「とりあえず、その……なんだっけ? マレーシア?」

「マレリアです」

「ああ、それそれ。そのマレリアまで私を運んでくれない? その間の護衛はするから」

「ええ、お願いします。それじゃあ、取引成立ですね」

「うん、よろしく」

 私達は握手を交わしたのだった。
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