転生少女は欲深い

白波ハクア

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第12話 強欲

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「ガッハッハッ! いやぁ、負けた負けた!」

 冒険者ギルド内に豪快な笑い声が響く。
 その人は何処がそんなに嬉しいのか、気分よさそうにグラスに入った酒を何杯も飲み干していた。そのため酔ってテンションも上がっていた。

「……全く、見ているこっちは生きた心地がしなかったぞ」

「そう? 私は結構楽しかったけど……」

 私の試験……ほぼ決闘になりかけていた時のことを思い出し、エリスは深い溜め息を溢す。そこで私個人の感想を言うと、何故か呆れたような顔をされた。周りも同じような反応だ。
 ……いや、一人だけ違う。さっきから豪快に酒を飲んでいたヴィレッジさんだけは、私に同意するようにうんうんと頷いている。

「俺も楽しかったぜ! まさか銀等級の俺がビギナーに負けるとは思わなかったが、いやぁ俺もまだまだだと気づかされたぜ。ありがとな!」

「いや、ヴィレッジさんは普通に強いと思うから、そのままでいいと思うよ? むしろ、これ以上強くなってどうするのさ」

「どうするかって? 勿論! お前を倒すためだ!」

「あ、そう……」

 結果から言うと、私はヴィレッジさんに勝った。

 でも、苦戦した。あの時のゴリラよりも重い一撃を何度も剣に乗せて打ち付けられ、最初は防戦一方になっていたけれど、猛攻に慣れてきた私は受け流し、均衡した力でぶつかり合い、徐々にこちらの優勢となった。そして、ヴィレッジさんが息切れしてきた隙を突いて、私が勝利した。

 勿論、試験に合格した私は、無事に冒険者カードを貰った。
 改めて貰ったばかりのカードを眺める。


 名前:南條なんじょう かがみ
 種族:亜人
 称号:仇なす者

 取得スキル
 強欲・言語理解・身体能力強化・豪脚・鋭爪・肉体強化・硬質化・金剛・剛力・豪腕・威圧・物理耐性・技量強化・精神強化・恐慌耐性・上級剣術・収納


 …………うん、やっぱりおかしい。

 何がおかしいって、まず種族だ。いつの間に私は人間じゃなくなっていたんだ。何ですか亜人って。

【ブロウコングとの戦闘時に進化しました。亜人は人間の上位種です】

 ああ、そんなことも言っていましたねぇ! 何やってくれちゃってんの女神ちくしょう!

 しかも、おかしいのはそれだけじゃない。
 スキルの数が異常すぎる。しかも一番最初にあるスキルが異常すぎた。

 ──強欲。

 これは私の激しい感情から生まれたスキルらしく、効果は能力スキルのコピー。

 欲しいと思った相手のスキルを自分のものにしてしまう。
 それが私の持つ異常なスキルだった。
 おそらく、私がスキルをポンポンと取得出来ていたのは、この強欲があるおかげなんだろう。

 思い返せば、どのスキルを取得する時も、私は欲していた。
 何で私は持っていないのに、お前はそれを持っているんだ。それが羨ましい。私もそれが欲しい。……そう思っていた気がする。

 ……きっと、死ぬ間際にテレビに映っていた元気な子供を見て羨ましい、私にもあんな体が欲しかったと願ったから、私は異世界で元気な体でいられるんだろう。

 いや、私欲深すぎない?
 若干の自己嫌悪に陥った私は、冒険者カードを貰った時に頭を抱えて獣のような呻き声を上げてしまった。そのせいでエリスからは心配され、医務室に搬送される手前までいってしまった。

 でも、落ち込んでいるばかりではない。
 今までの出来事を振り返れば、強欲のおかげで私は助かっているということになるんだろう。
 だけど、それを正直に喜べない私がいる。それは何でなのか、それは私自身の力じゃないと理解しているからなのか、女神にいいようにされていると思っているからなのか、心当たりはいくつか思い浮かぶけれど、これといった理由は思いつかない。

 それでもこのスキルがなければ、今私はこうして生きていなかっただろう。嬉しくはないけれど、確実に私の力になってくれている。だったら、もう貰えるものは貰っておけという精神でいた方が、気が楽なのかもしれない。

「──おい、聞いているのか?」

 不意にエリスが顔を覗き込んできて、そこで私は思考を中断させられた。

 慌てて冒険者カードをポケットに仕舞う……と見せかけて亜空間に収納しておく。カードに書かれている名前以外の内容は他人に見られないように加工されているらしいけれど、だからと言ってわざわざ見られやすいところに置いておくよりは、失くさないように収納しておく方が安心できる。

「ん、ごめん。考え事してた。どうしたの?」

「お前のことを言っていたんだぞ? ……今回はお前の実力を知らなかったから余計に心配してしまったが、これからは危険なことはしないようにしろ。ただでさえ冒険者は危険なのだ。何でもかんでも本気で戦っていては、命がいくつあっても足りないぞ」

「お、おお……」

 まさか私がスキルについて考えている裏で、そんな親みたいなことを言われていたとは。
 でも、エリスの言う通りだと思う。魔物と何度も戦っているからと言っても、油断したら簡単に命を落とすだろう。私が出会った魔物よりも強い奴は沢山いる。かもしれない。
 今までは強欲のおかげで切り抜けてきた。でも、瞬殺されたら強欲もスキルも関係ない。

「……うん、わかった。なるべく危険なことはしない。でも、必要な時はやるよ。それだけは譲れない」

 無理をしないように気をつけすぎて、やれる時に出来なかったら、私はきっと後悔する。だから、私が必要だと思った時は無理をする。
 エリスは真剣な表情で私を見つめ返し、私も視線を逸らさないで真正面から見つめ返す。

 先に折れたのはエリスの方だった。

「……はぁ、お前は意外とわがままなのだな」

「見損なった?」

「な訳あるか。むしろ好感を持てた。己の信念を貫くことは、何よりも大切だ。……だから、一度言ったからには後悔しないようにやれ。ただ、一人で出来ないと思った時は遠慮せずに周りを頼れ。こんな時代だ。一人ではどうしようもない時は多くある。約束しろ」

「うん、約束する。頼りにさせてもらうね?」

 こんな私を心配してくれる。地球ではあり得なかったことだ。
 それがとてつもなく嬉しくなって、私は微笑んだ。

「──っ、あ、ああ! 任せろ!」

 エリスはプイッと顔を逸らしてしまう。
 ……? 何かおかしなことを言ったかな?

「おいおい……なぁに二人で面白そうな雰囲気作っているんだぁ?」

 それまで酔いが回って大人しくなっていたヴィレッジさんが復活して、私達の間に割り込んでくる。酒臭い。

「一度本気で戦った仲だぁ。俺も何かあった時は手伝うぜ? 勿論、お礼は決闘だがな!」

 アッハッハッと笑い、そこで限界が訪れたのかテーブルに突っ伏して動かなくなってしまうヴィレッジさん。

「…………寝てる」

「この男も自由だな。まぁ、冒険者らしいと言えばそうなのだが。カガミもこういうのに慣れておけよ。冒険者はこの男のようなのが沢山いるからな。一つ一つ相手していては疲れるだけだぞ」

「おぉう……肝に命じておくよ」

 確かにヴィレッジさんのように酔い潰れている人を丁寧に相手していたら、私の方が疲れてしまう。
 きっとこれは冒険者として活動していく上で、役に立つ情報だ。

 そう思った私は、エリスの言葉を忘れないようにと、心に刻んでおくことにした。
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