23 / 50
第1章
21. 少女は訪ねる
しおりを挟むプリシラと二手に分かれた後、私はとある屋敷を訪ねていた。
……訪ねていた、は違うか。
正しくは不法侵入?
プリシラと二手に分かれた後、私はとある屋敷に不法侵入していた。
……やっぱり訪ねていた、にしよう。
その方が怪しくない。
「まぁ、怪しさ満点ではあるけれどね」
闇に紛れやすい真っ黒な服と、大量に隠し持っている暗器。これで怪しくないと言うのは、少々無理があるだろう。
「にしても、相変わらず手入れされていないね、ここは」
屋敷はゴンドルの別荘だ。二階建てでそれなりに大きいけれど、どこか古びている。深夜とかに幽霊が徘徊していそうな場所だ。
奴はこの屋敷の場所を巧妙に隠していて、奴の配下と『シャドウ』にしか場所を教えられていない。その配下とシャドウだろうと中に入るのは禁止されていて、元エースだった私も中に入るのは初めてだ。禁断の場所に足を踏み入れる感じがして、ちょっとなんか、こう……ワクワクする。
「──ってことで、時間ピッタリかな?」
門を潜って庭に入ると、横の方から人の気配を感じた。
私はそちらに視線を向けながら、軽く挨拶するように手を挙げた。
「ああ、時間通りだ……ったく、よりにもよってここかよ」
「何かあるとは思っていたけれど、本当にここにあるのかしら?」
待ち合わせ場所に居たのは、バッカスとアメリアだ。
アメリアは私の様子を見るために、バッカスは私の言葉が真実であるかどうかを確かめるために。二人して私の証明に付き合ってくれるみたいだ。
「何個か候補はあるけれど、一番可能性がありそうなのはここだよ」
そう思ったのは、この屋敷がゴンドルの別荘だからという理由だけではない。
奴が本館としている場所と、この屋敷は地下通路で繋がっている。……ちなみにこれはシャドウの誰も知らない。多分、奴の配下も知らないだろう。
一度目で暇潰しに気配を隠しながら、ゴンドルの屋敷を適当に彷徨っていたら偶然、別荘に繋がる地下通路の扉を見つけたのだ。当時はバレたら家族を殺されると思って入るのを躊躇したけれど、もう私の家族は殺されているとわかっているのだから、もしもの時を躊躇う必要なんて無い。
──だからって、わざと見つかるようなこともしないけれど。
「おいノア。わかっていると思うが、お前の言っていることが嘘だとわかった瞬間、俺はお前を殺すからな」
明確な殺気。
バッカスは本気だ。
「怖いよアメリアぁ」
わざとらしく泣き真似をしながら、アメリアに抱きつく。
すると、彼女はノリに乗って私を受け入れてくれた。
「おー、よしよし。ちょっとバッカス。こんな小さな子を脅すなんて、大人としてどうなのかなと私は思うけれど?」
「うっせぇ。……アメリアだって不安がっている癖に、俺をおちょくっている余裕があるのかよ」
私を抱きしめるアメリアの体は、微かに震えていた。
──この屋敷の中に家族が居るかもしれない。
それは捕らわれている家族を助け出すような、感動的な再会ではない。
家族はすでに死んで、魔法で永久保存されている。つまり、もう二度と家族と話せない事実を突きつけられる、最悪の再会となる。
不安な気持ちでいっぱいになるのは、皆同じことだった。
「それじゃ、行こうか」
錆び付いて固くなった扉を押し開き、私は先頭を切って中に入る。
開けられた瞬間にアラームが鳴るような仕掛けはないし、ゴンドルの元に知らせが入るような仕掛けもない。そこは入念に調べたので、安心だ。
「うっわ、カビ臭っ……」
一切手入れがされていないのか、中は誇りだらけで所々カビが生えていた。伯爵貴族ともあろうものが不衛生だ。まるで奴の体みたいに不衛生だ。
「気を付けろ、ノア。この屋敷、罠の数がエゲツない」
後ろを歩くバッカスが、神妙に言葉を発する。
「あれ? 心配してくれているの?」
「そ、そうじゃない……! お前が呆気なく死んだら証拠も何も無いだろう。だから、最後まで死ぬんじゃねぇってことだよ!」
「「男のツンデレって、気持ち悪い」」
「うぉぃ! 二人して酷いな!?」
三人で話しながらも、誰一人として油断は一切しない。
バッカスの言う通り、この屋敷には罠が張り巡らされている。侵入者が私達でなければ、あっという間にあの世へと逝っていただろう。
アメリアは魔法で周囲の反応を探ることができる。巧妙に隠されている罠だろうと、彼女ならば一瞬で見分けてしまうので、彼女がいる限り安心して進むことができる。
バッカスは罠の組み立てはもちろん、解除も得意としている。私も罠の解除はある程度できるけれど、同じ技術を持っている二人でやった方が先に進む効率が良いし、何より安全だ。ツンデレだけど、そこだけは仲間として信頼している。
「ノアちゃん。五歩進んだ先に罠。目視では確認しづらいから注意して」
「……確認した。この程度なら簡単に解除できるけれど、」
私は周囲をぐるりと見渡し、横にある何の関係もなさそうな罠から先に解除した。
「目の前の罠を先に解除したら、それを合図に罠が作動する罠だった。危ないね」
「大口を叩くだけあって、そこに気付くとは流石だな。……だが、相手も本気だな。警備目的じゃ普通はここまでしないぞ。ここにある罠はどれもこれも殺傷性がありすぎる」
「何とも、あの男らしいわね」
「だからこそ、わかりやすい。……これは一発目から当たりを引いたかもしれないね」
気を抜けば死ぬ。それだだけでも脅威なのに、ここには動きを阻害する物や、わざと罠に誘導するような罠が仕掛けられている。
注意深さだけ国内一なのが、ゴンドル・バグだ。この屋敷は奴の性格の全てが出ていると言っても過言ではない。
──それだけ、奴はこの奥を見られたくないということだ。
「油断せずに行こう。屋敷には誰も来ないから、時間はたっぷりある」
二人はゆっくりと頷き、それぞれの役割に専念し始めた。
言葉の通り油断せず、無限に続く罠の道を避け、時には解除しながら慎重に進む。
──屋敷に入って約三十分。
私達の前には、見るからに怪しい扉が立ちはだかっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる