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12. 決闘
しおりを挟む「勝負はお互いに木剣を使用する。先に一本取るか、降参した方の負け。急所を狙うのは禁止だ」
ダイン・マクレス。2年生の先輩であり、剣術学科のエースがつらつらとルール説明をしている。それを聞くのは、もちろん私だ。
「えっとお嬢様。本当に大丈夫ですか?」
私の後ろに控えるルディが、そっと耳打ちしてきた。
「……大丈夫だと思うのであれば、あの時止めてくれれば良かったのに」
「いや、だって……面白そうじゃないですか。あのダイン・マクレスと、ヴィオラ・カステルの一騎打ち。これを見届けないなんて、男ではありません」
「私は女だから、そこから退場してしまっても構わないかしら?」
「当事者が何を言っているんですか?」
「──強制的に当事者にさせられたのよ! ……全く、どうしてこうも予想し得ないことばかりが続くの。ああ、きっと私は、誰かに呪われているんだわ。私は何も悪くないのに、こうやって面倒事ばかり降ってくるんだもの。そうとしか考えられないわ」
頭を抱える。
私が真に文句を言うべきなのは、目の前に立つ元凶だ。どうしてちょっとした口論の末に『決闘』なんてことになってしまったのか。どうして私の覚悟を示す必要があるのか。
ダインの脳を解剖して、そのめちゃくちゃな思考回路を隅々まで調べ上げてやりたい。
「ほんと、忌々しい……」
私は静かに、悪態をついた。
男というのは、これだから嫌なのだ。
他人のことを考えず、自分が納得できることにだけ盲目的になる。『我』が強すぎて、女の私ではついていけない。
そして、ダイン・マクレスという男は、その『我』が強すぎる。騎士のようにどこまでも真っ直ぐで、後先考えない性格だ。彼には『猪突猛進』という言葉が一番似合っている。
「そろそろ準備はいいだろうか?」
恨みがましくダインを見ていると、当然なことに彼と目があった。
…………どうやら、向こうはすでにやる気十分なようだ。
私は大きな溜め息を一回。
「ルディ。下がっていてちょうだい」
「はいお嬢様。……お気を付けて」
もう逃げられないと諦め、木剣を握る。
「悪いが、女だからと容赦はしない。卑怯だと言うなよ」
「ええ、卑怯だとかズルいだとか、そんなのただの言い訳でしかありません。どうぞ好きなようにやってください。──こちらもそれに応えるだけですわ」
私の中で、ダインの好感度は絶賛急降下中だ。
正々堂々とした勝負を好む騎士だからとはいえ、女相手にも本気でぶつかるとか……それは決闘ではなく、ただの『弱い者いじめ』だ。
──機会があったら、第一王子に文句を言ってやる。
その野望を胸に、私は稽古場の中心にあるリングに立った。
「…………ヴィオラ嬢。防具を付けろ。流石に、ご令嬢に傷を付けるのは、」
「そのご令嬢に対して、感情的になって決闘を突きつけた貴方が今更、決闘相手に傷を付けたくないと? ……世迷言を。いいからさっさと始めましょう」
鎧は汗臭いし、重いから動きづらい。
私はただでさえ非力な女の子なのだから、余計に身に付けるなんて考えられない。
だが、ダインは納得していない様子だった。
「ふふっ、そんなに心配せずとも──当たらなければ問題ないでしょう?」
ダインの眉がピクリと動いた。
わかりやすい挑発に乗ってくれたようで、なによりだ。
「その威勢、いつまで持つかな」
「さぁ? どちらかが降参するまで、でしょうか?」
「──んじゃ、審判は俺が務めるぞ~。頑張ってな~」
「…………あの、うちのクラスの担任がどうしてここに居るのですか?」
稽古場の入り口から聞こえてきた呑気な声に、私は半眼になってツッコミを入れる。
出てきたのは、なんとクラスの担任、アストレイ先生だったのだ。ホームルームと変わらないのほほんとした彼の雰囲気に、若干やる気を削がれてしまう。
そんな私の内心を知ってか知らずか、担任はその態度を変えることなく、自分自身を指差して当然のように言う。
「え、だって俺、ここの顧問だから」
「…………本当ですの?」
私はダインに真偽の方を問う。
ここで彼を頼るのは誠に遺憾だけれど、この際だ。仕方ないと割り切る。
「そうだ」
「…………ああ、そうですか」
もうここまで来たら、どうでもいいや。
担任が剣術学科の顧問だとか、その人が審判を務めるとか、未来の騎士団長候補と決闘をするとか、もう全てを受け入れることにしよう。
「ではアストレイ先生。開始の合図を頼む」
「おう。始める前にもう一度ルールの確認だ。勝負はお互いに木剣を使用。先に一本取るか、降参した方の負け。急所への攻撃をした場合、反則負けとする。……これでいいよな?」
「ああ、問題ない」
「ヴィオラ嬢は?」
「問題ありませんわ」
ルールは至ってシンプル。でも、禁止されていることが少ないため、それだけに注意しておけば何でもありな自由な戦いができるということでもあるので、一番やりづらい決闘となるだろう。
特に私は、相手のことを何も知らない。戦いの型はもちろんのこと、戦闘の癖も、弱点も、本当の実力も。情報が少なすぎる。そんな中で戦うのだから、完全に不利な立場だろう。
だからってそれに文句を言うつもりはない。負けたとしても、それを盾に卑怯と罵ることだってしない。
全てを理解した上で了承したのは私なのだ。ここは騎士らしく、イカサマ無しの正々堂々とした勝負をするとしよう。
「両者。位置に付け」
互いに距離を置き、構える。
私は木剣を片手に持ち、ダインは両手持ちだ。
「──始め!」
こうして決闘の火蓋は切って落とされた。
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