元王女は二度目の舞台で幸せを欲する

白波ハクア

文字の大きさ
41 / 42

38. 決戦当日

しおりを挟む



 様々な準備にあっちこっち行き来している間に、なんとパーティー当日になっていた。

 ルディに「明日はパーティーですね」と言われた時は、思わず変な声を出しちゃったけれど、時間が経つの早すぎじゃないかしら?

 周りのことはルディがほとんどやってくれているからと、気を抜きすぎていたのかもしれない。予定管理もままならないようでは、ほかの令嬢達に舐められてしまう。

 頬を叩き、気持ちを切り替える。


「と言っても、私の出番は夜からなのよねぇ」

 昼のパーティーは辞退した。
 人が多く集まるところは苦手だ。

 業務や信頼に支障が出る場合は仕方なく出席していたけれど、絶対ではないならば参加する必要はない。


 トントンッ。


 扉が控えめにノックされた。
 朝早くから私の部屋に来る物好きは、一人しかいない。

「どうぞ」

 少しして外側からゆっくりと扉が開かれる。
 現れたのは、やはり一人の男だった。

「おはようございます、お嬢様」

 私の執事。
 たった一人の、この家での味方。

「おはよう、ルディ。いつものことだけれど、朝早いわね」

「そろそろ起きられることだと思ったので……。紅茶をご用意いたしました」

「ええ、おかげさまで寝起きよ。いただくわ」

 茶葉の良い香りと砂糖の甘みが寝起きの体に染み渡る。
 …………って、少し年寄り臭かったかしら?

「ルディ。今日の予定は?」

「はい。午前は何もありません。夕刻からは、まずマダムが仕立てあげたドレスを届けに、屋敷へ来ていただけるようです。微調整もその場で行うと仰られていました」

「……そう。ドレスの出来は?」

 そう問いかけると、ルディは満面の笑みを浮かべた。

 返事を聞かなくてもわかる。
 過去最高の出来らしい。本当に、頼りになる協力者だ。


「マダムには後でお礼をしなきゃね」

「あの人ならば、良いドレスを作れたからそれでおあいこだと、笑顔で言いそうなものですが……」

「ダメよ。恩には報いる。それが礼儀だもの」

 言い切ると、苦笑を返された。
 『お嬢様らしいですね』と思っているのでしょう。

「では、俺の方から菓子折りを贈っておきます。それでよろしいですね?」

「ええ、頼んだわ。いつも悪いわね」

「いえいえ、お任せを。ちょうど街に面白そうなお店を見つけたので、遊ぶついでです」

 何それ私も行きたい。

「前言撤回。私も一緒にお菓子選びをするわ」

「ダメですよ。公爵令嬢が勝手に出歩いては危険です」

「危険? 誰に物を言っているの?」

「…………そうだった。この人、異常に強いんだったわ」

 おい聞こえているぞ。
 ったく、本当に失礼な執事よね。

「ですが、あの人達は絶対に反対しますよ?」

 あえて『旦那様』や『奥様』と言わないあたり、心底嫌っているんだなぁ……と、しみじみ思う。

「別に構いやしないわよ。どうせあの人達は私に興味ないでしょうし、ちょっと屋敷を出たくらい気付きやしないわよ」

 侍女がバラさなきゃの話だけれど……まぁ、そこも大丈夫だろうと私は踏んでいる。

「学校帰りの寄り道なら誰も見ていないわ。事前に少し帰りが遅くなると言っておけば、むしろ彼らは喜ぶのではなくて? 私がいないから何でもし放題だと、奮発して高級レストランに行きそうよね」

「あはは、確かに……あの人達ならやりそうです」

 それでもまだルディは首を縦に降らない。
 大方、貴族が街を出歩くと危ないと危惧しているのでしょう。

 主人を守る執事としては正しい判断だけれど、残念ながらそれは杞憂というものだ。

 それでも心配だと言うのであれば…………

「大丈夫だってば。変な奴らに絡まれたら、私が守ってあげるわ」

「逆なんだよなぁ」

「……? 何が?」

「いいえ、何でもありませんよ」

 嘘つけ。
 文句ありますって言いたげな顔をしているくせに。
 この私の目を誤魔化そうだなんて、100年早いわ。


「まだ渋るなんて、本当に強情なのね」

「どこかのご主人様に似ちゃったのかもしれませんね。ほら、ペットは飼い主に似るって言いますし」

「あら、自分のことをペットだと自覚しているのかしら?」

「言葉の綾ですよ。ほら、馬鹿言っていないで、早く朝食を食べてください」

「わかっているわよ。……もうっ、せっかく私からデートのお誘いをしてあげているのに、それを無下にするなんて……世の中の男たちに嫉妬で呪われてしまうわよ?」

「勘弁してください。お嬢様のデートをお断りするのだって、心苦しいのですからね」

 なら、その首を縦に振ればいいのにね。
 たったそれだけの簡単な動作なのに、何を迷う必要があるのかしら。

 ──まぁ、いいわ。
 嘆息し、ベッドから起き上がる。

 私が強引に行くと言えば、ルディは逆らえない。
 ずるいと言われるでしょうけれど、私が街に出歩くためだ。仕方ない、仕方ない。



 でも、その前に────



「はぁ……考えるだけで鬱になりそう……」

 夜は第二王子の誕生パーティー。
 まずはそれを乗り切らないといけない。

 デートだ何だという話は、その後だ。



しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...