2 / 15
2. 買われるみたいだった
しおりを挟むそして冒頭に戻る。
「ちょ、ちょっと待って!」
スマホを取り出した私が警察に電話すると、女性は顔を青くさせてストップを掛けてきた。
「待ってと言われたので、少し待ってください。……ええ、すいません。多分大丈夫だとは、いや、ちょっと厳しいかもですね。相手が冷静でいることを願うばかり……その通りですよね。私もそれを切に願いますよ、本当に」
「この状況で普通に電話してる!? ──って、違うから。私は健全な人だから!」
女子高生と裸で寝ておいて、自分は健全だと言い張れるその図太い精神に尊敬の意を表します。もちろん嘘です。
でも、私は私で彼女を受け入れたに違いない。そうじゃなければ、こうなっている現状に説明がつかない。記憶はないけれど。……思えば、何で記憶がないんだろう?
「すいません。話でケリをつけられそうなので、一旦切ります。……はい。何かあればすぐに。お願いします」
電話を切り、スマホの画面を閉じた。
それを見た女性は心底安堵したように息を漏らし、下着を着始めた。
いや、そっち優先ですかと内心ツッコミを入れながら、私も自分の下着を探す。
──見つけた。
ベッドの下に乱雑に脱ぎ捨てられている。上は綺麗だったけれど、下はなぜか濡れている。これを履いても気持ち悪いだけだと諦めて、代わりに布団を腰に巻きつかせた。
「貴女は誰ですか」
「私は、貴女の恋び──」
「ふざけたら、今度こそ本気で通報するので」
「…………私は玲香。朝比奈玲香よ」
流石に二度も通報されるのは嫌だったのか、ちゃんと答えてくれた。
朝比奈? ……うーん、どこかで聞いたことのあるような名前な気がするけれど、多分気のせいだよね。そもそも顔を知らないから、知り合いというわけじゃなさそうだ。
「私はどうしてここに?」
「私が梓ちゃんを連れてきたの。そしたら何を思ったのか、急に私のお酒を飲み始めちゃって……未成年はお酒を飲んだらダメなのよ? 今日だけは見逃してあげるわ」
どの口が言いやがると、そう思ったのは内緒だ。
「どうして私の名前を……って、私が話したのですか?」
「そうよ。まさか、昨晩の記憶がないの?」
素直に頷く。
すると朝比奈さんは額に手を当て、あちゃーと口にした。
「どこまでなら覚えているのかしら?」
「夜に出て、適当なおじさんを引っ掛けたところまで……ですかね」
「そこまで、か……ねぇ梓ちゃん。貴女、自分がどれほど危険なことをしようとしていたのか、理解しているかしら?」
真摯の眼差しが私を貫き、言葉に詰まる。
「理由がなんであれ、自分の体を大切にしなきゃダメ。もしかしたら貴女は、二度と戻れなくなっていたかもしれないのよ?」
「二度と、戻れない……?」
「そうよ。本番を無理強いするような人だったら、どうするつもりだったの? 男の人を振り払えるほどの力は無いでしょう? ホテルに行こうとしていたところを私が止めたから良いものの、本当に危なかったわ」
危険なことをしようとしていた。その自覚はある。でも、なかばヤケクソ気味だったから、それがどんな結末になるかは考えていなかった。
……いや、正しく言えば『考えることすらどうでも良くなっていた』か。
「世の中の大人は欲望に塗れているのだから、軽率に大丈夫だと信じちゃダメよ。だからって私まで警戒しないでね? 私は、ちゃんと梓ちゃんのことを思って──」
「でも、貴女も結局、私のことを弄びましたよね?」
「…………自分の体は大切にしなさい。まだ高校生なのだから、何がなんであれ、あのようなことはしちゃダメ。二度としないって約束して」
自分のことに関してはスルーか。
でも、朝比奈さんの言っていることは間違っていない。
間違っているのはこっちで、普通は彼女と同じような考えを持つと思うから。
「心配いりませんよ」
それでも私は、大丈夫だと嘯く。
「私のことを心配してくれるような、優しい人はいません。今まで、誰もいませんでした。だから、もう──どうでもいいんです」
「っ、そんな……!」
「朝比奈さんも、どうかこんな私に気を遣わないでください」
どうせこの人も、本気で私のことを怒ってくれない。
偶然その場に居合わせて、正義感が湧いたから見過ごせなかっただけで、内心では面倒なことをしてしまったと思っているんだ。
そんな相手に何を思われ、何を言われても──もう私の心には響かない。
「もう、そんな偽善を私に向けないでください」
じゃないと、また誰かに期待をしてしまう。
願って近づいて、何度も突き放された。
もう誰も信じたくない。
心が痛くなるのは、嫌だから。
「偶然でも助けてくれて、ありがとうございました。……それと、変に疑ってしまったことも、ごめんなさい。──さようなら」
皺だらけになった制服に袖を通し、お辞儀をして出口へ向かう。
「待って! 待ちなさい!」
玄関のドアノブを握る直前、後ろから強く抱きしめられた。
それをしたのは朝比奈さんだ。振り向くと、彼女は今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。……どうして貴女がそんな顔をするのですか。
「……貴女はこの後、どうするつもり?」
「借りているアパートに戻ります。学校は……そうか、今日は土曜日でしたね。ああ、警察に行くかもしれないと疑っていますか? それは安心してください。今日のことは忘れますから、警察沙汰になることは」
「違うでしょ!」
言葉を遮られ、怒鳴られてしまった。
こんな強く言われたのは初めてで、私は驚いた。
「梓ちゃんは、また……体を売るでしょう」
「そうですね。家からの仕送りはありませんし、アルバイト代だけでは厳しいので。いつかはやるでしょうね」
「なら、」
朝比奈さんは一度、そこで言葉を区切った。
そして、己の覚悟を示すようにゆっくりと次の言葉を口にする。
「なら、私が貴女の全てを買うわ」
………………………………はい?
0
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる