転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第1章

長い歴史の終わりです

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 ボルゴース王国は今、業火に包まれていました。

 私達は少し離れたところに移動し、ミリアさん達が乗ってきた馬車の中から、その様子を見ていました。

「ふははー、汚物は消毒だー」
「何を言っているのだ?」
「……いえ、ちょっと言ってみただけです。気分ってあるじゃないですか」
「すまん。意味わからん」
「はい、私も自分が何を言っているのかわかりません」
「えぇ……?」

 めちゃくちゃ変な顔をされました。
 そんな「余の配下大丈夫か?」というようにマジ心配しなくてもいいじゃないですか。

「……なんじゃ、思ったよりも落ち込んでいないようじゃな」

 そう言うのはアカネさんです。

「落ち込んでいる、ですか?」

 私は落ち込んでいるように見えていたのでしょうか?
 もしそうだとしても、なぜそう見えたのでしょうか?

「私は落ち込んでいませんよ。むしろ、ようやく帰れると気分アゲアゲです」
「……そうか。お主がそう言うのであれば、妾は何も言わんよ」

 そういうのは自分で気づかないと意味がないからのぉと、アカネさんは笑いました。
 何か含みのある笑みです。彼女が何を言いたいのか気になりますが……今考えても答えが出ないような気がしたので、その話は記憶の片隅に置いておくことにします。

「なぁ、リーフィア」
「なんでしょうか? ミリアさん」
「お前は、本当にこれで良かったのか?」

 ミリアさんの意図が読めず、首を傾げます。

「これって、どれですか?」
「お前は元とは言え人間だろう? 同族を虐殺されるのは、抵抗があるのではないか?」
「ああ、そんなことですか……正直、どうでもいいですよ」

 元がどうであれ、私は魔王軍の一人です。
 いつかはこうなるだろうなとは思っていました。……諦めにも近いですかね。

 この世界は、地球と違って生易しい世界ではありません。優しさだけでは生きていけないのでしょう。
 確かに好んで人を殺そうとは思いません。
 ですがそれは、単に面倒だからです。

 人を殺せば誰かが不幸になる。私が放った凶刃が、いつ私の元に返ってくるかわかりません。
 誰かに恨まれるのが面倒だから、あまり人を殺そうとは思わない。
 必要とあれば殺すだけ。
 それくらいの覚悟でいなければ、ゆっくりと眠ることも出来ません。
 今回は必要な時だったというだけです。

「……そうだな。リーフィアらしい答えだ」
「ミリアさんこそ、これでよろしかったのですか?」
「ん? ……ああ、勇者のことか」
「はい、古谷さん……勇者はミリアさんにとって脅威となるでしょう。本当に生かしておいてよろしかったのでしょうか?」

 私の言葉を聞いたミリアさんは、一瞬呆けた顔をしていましたが、すぐにその表情を崩して笑い出しました。ミリアさんだけではありません。アカネさんも同じように笑っています。

「……何がおかしいのです?」
「おかしいも何も……お前が勇者を生かしたのではないか」
「そりゃぁ、そうですけど……」

 勝負は一瞬でつきましたが、私は勇者を殺しませんでした。
 ですが、それは私の決定であって、最終的にミリアさんの決定に従うつもりでした。
 国に炎を放ち、城を出る際、ミリアさんは古谷さんを担ぎ、安全な場所まで運んでそのまま置き去りにしました。

「いや、な……リーフィアのお気に入りだったようだから、生かしておいたのだ」
「は?」

 私のお気に入り?
 いったい何を言っているのでしょう、この主人は?

「なんだやはり気づいていなかったのか」
「いや、気づくも何も、意味がわかりません。確かに古谷さんは、同郷ということで気にかけることはありましたが……別に気に入っているわけでは」
「わかったわかった。そういうことにしておこう」

 ……少し、いやかなり遺憾の意を示したいところですが、これ以上何かを言っても無駄でしょう。

「リーフィアにも春が来たか」
「じゃが、難しいじゃろうな。何しろ相手は勇者で、こっちは魔王軍じゃ」
「いいではないか。身分が違い、立場も違う、そんな物語があったほうが面白い」
「それもそうじゃな」
「……あの……勝手に盛り上がらないでくれます?」

 誰に春が来たと?
 何が立場の違いですって?
 ……意味がわかりませんよ。

 そもそも、古谷さんは私の好みではありません。

 私に好みは『ずっと養ってくれる人』です。
 古谷さんは見るからに弱いですし、勇者なので一つの場所に留まっているのは難しいでしょう。お金もあまり持っていないようでしたし、養ってもらうには少々不安要素がありすぎです。
 確かに顔はいいですが、残念系イケメンですからねぇ……最後の方はマシになりましたが、それでも好意を持つほどではありません。

「では、リーフィアはどんなのが好みなのだ?」
「ミリアさんです」
「──ブフォ!? い、いきなり何を言うのだ! 余は女だぞ。女同士でなんて……そんなの……!」
「いえ……養ってくれそう候補では、ミリアさんが一番。という意味です」
「あっ、そう……」

 魔王なので資産はあります。
 魔王城という大きな家もあります。
 沢山の使用人が働いていて、養ってもらうには十分です。

 そう伝えたのに、どこか残念そうにしているのはどうしてでしょうか?

「なんでもない!」

 ミリアさんは拗ねて、そっぽを向いてしまいました。

「アカネさん、どうすればいいのでしょうか?」

 こういう時は、ミリアさんのことをよく知っている人物に助けを求めるだけ。
 なのでアカネさんに意見を求めたのですが────

「本当にお主達は面白いなぁ」

 という言葉が返ってきました。
 相変わらず意味がわかりません。

「まぁ、そのうちわかるじゃろう」
「……はぁ……そうですか」

 アカネさんがそう言うのであれば、そうなのでしょう。

 ……ミリアさんはまだ少し怒っているようです。

 私は他人に興味がありません。
 そのため、あの感情を理解出来るとは思いませんが……気長に待つことにします。

「ああ、終わりましたか……」

 その時、王国の城が崩壊しました。
 衝撃が遅れて届き、ボルゴース王国の長い歴史が終わりを告げたのだと悟ります。

 ふと私は、あの場に置いてきた勇者のことを考えていました。

「さようなら、古谷さん」

 あなたはこれから沢山の人と出会い、沢山の別れを経験するでしょう。
 味方はどこにでも溢れています。その人達と共に強くなり、いつか私の元まで辿り着いてください。その時は、本当の本気で戦いましょう。


「…………さ、帰りましょう」


 それを合図に、馬車は動き出しました。
 ガタゴトと揺れる振動が、微かに眠気を誘います。

 私はそれに逆らうことはせず、ゆっくりと瞼を閉じました。
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