転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第1章

さようなら

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 私は傍観を決めました。
 本音を言ってしまえば、面倒だからです。場を導くなんて、どうしてそんなことをしなければいけないんでしょうか?

 なので私は、ミリアさんがどのような選択をするのか。それを見させていただきます。

 国王が「我は何もしていない!」などと喚いていますが、ミリアさんはそれを無視して目を閉じ、何かを考え込んでいるようでした。

 約一分という時間が妙に長く感じます。

「うむ、決まった」

 永遠に続くかと思われた静寂の中、ようやくミリアさんが口を開きました。

「殺すか」
「いやいや、ちょっと待ってください」

 手の上に黒炎を纏わせながらそう言うミリアさんの肩を、私はガッと掴みました。
 傍観すると決めたばかりなのですが、すぐにそれは崩壊しましたね。

「まさかの無慈悲で私少し驚いています」
「……だって、仕方がないだろう。余は考えることが苦手なのだ。だから一番手っ取り早いのを選択しただけだ」
「ふむ、ミリアの言う通りじゃな。この場合……全員殺しておいた方が妾達にとって一番利益がある」

 ……むぅ……実際その通りなので言い返せません。

 私達は魔王軍です。
 この機会に人の国を一つ落とすことが出来れば、魔族の生活は楽になるでしょう。
 しかもこの国は歴史が長く、前国王のおかげで軍事力もあります。そこらの小国を潰すこと以上に、この効果は絶大です。潰せる時に潰しておいたほうが、私達のためにもなります。

 そもそも、生かす意味がありません。
 意思を持って魔王を殺そうとしてきた敵を、誰が許すでしょうか?
 私が魔王だったら絶対に殺します。

 私が驚いた点は、ミリアさんの決断があまりにも早かったことです。
 彼女はまだ幼いです。人の大量虐殺をそんなに早く決めるとは思っていませんでした。

 ……そうですか。

 ミリアさんは、魔王としての自覚をしっかりと持っているのでしたね。
 ならば文句はありません。
 もとより私は傍観を決めた者です。主人の決定にとやかく言うつもりはありません。

「お、お前ら! 突っ立ていないで早く武器を構えろ!」

 国王は半狂乱になって叫びます。

 それまで怖気付いていた騎士達は、恐れながらも剣を振り抜きます。
 主人の命令に忠実に従うのは素晴らしいことですが、残念なことに剣の切っ先は恐怖で震え、狙いは定まっていませんでした。
 腰は引けていて、戦意なんてあったものではありません。

 この程度、敵とは呼べません。
 騎士の数は30名と大勢います。普通の人を相手にしているのでしたら、それは驚異的な数だったでしょう。
 ですが、私達魔王軍幹部の前では、その程度の数は無いに等しいです。

「さ、どうしましょうかね」

 私は困ったように言います。

「リーフィアとウンディーネは休んでいるといい。お前達は十分に働いてくれたからな」
「……そういうことであれば、喜んで休ませていただきます」
「ハッ! よく言うわ。元から休む気満々でいたくせに」
「あ、バレました?」

 傍観するということは、つまりそういうことです。
 椅子に座ったが最後、私にはもう動くつもりはありませんでした。
 勿論、私と同じように傍観を決めているウンディーネも、動かせるつもりはありません。

 ……ま、何もするなと国王に言われてしまっているので、仕方ないですよね。

「早く殺せ! 早く魔王を殺すんだ!」
「ふん、小童が騒ぎよる……」

 アカネさんは腕を振るいます。
 たったそれだけの動作で、騎士達は獄炎に包まれ骨も残らず灰となりました。

「おお……危ない危ない」

 完全反応に従い、私はその余波から逃げました。
 振り向くと、私が座っていた場所は完全に融解されていました。おそらくあのまま座っていたら、私は熱い思いをしていたことでしょう。

「ちょっと、危ないですよ」

 アカネさんに文句を言います。

「すまんすまん。久しぶりに力を使ったのでな。調整をミスったわ」

 あっはっはと笑い返されました。
 ……笑い事ではないんですけど、まぁいいです。どうせあれに当たっても、私が死ぬことはありませんでした。ちょっと熱かったかもしれませんが、その程度です。

「こ、古谷殿! 貴公は勇者だろう。早くこいつらを殺せ!」

 騎士が瞬殺されたことにより、国王は更に焦ります。
 そして勇者がいることを今更思い出し、古谷さんの背に隠れました。

「ほほう? さぁどうする勇者。余達と戦うか?」
「……いえ、ミリアさん達は黙っていてください」
「なぬ!?」

 私は立ち上がり、ミリアさん達の前を塞ぎます。

「お前は何もしないと言っていただろう!」
「ええ、ですが……相手が彼ならば話は違います。古谷さんは私が──殺しましょう」
「だが、お前は──」

 ミリアさんが何かを言おうとしたところ、アカネさんが彼女の肩を叩きました。

「ミリア、ここはリーフィアに任せよう」
「……アカネ……わかった。リーフィアに任せる」
「はい、ありがとうございます」

 協力してくれたアカネさんに礼を言い、私は古谷さんに立ちはだかります。

「さぁ古谷さん。選択の時です」
「くっ、俺は、どうすればいいんだ……!」
「それはあなたが決めることです」

 古谷さんがここで私と戦うのであれば、それは『勇者』としての選択です。
 古谷さんが戦いを拒否するか、命令とは別の理由で戦うというのであれば、それは『古谷幸樹』の選択です。

 その選択は、私が決めるものではありません。
 私が決めていいものでもありません。

「私は迷いません。あなたがミリアさんを殺そうというのであれば……とてつもなく面倒ですけど、配下としてあなたを殺します」

 後ろの方で「おい、面倒とはどういうことだ! おいお前ぇ!」という声が聞こえましたが、そんなもの無視です。

「もし、俺が戦わないと言えば?」
「あなたを見逃してあげましょう。まだあなたは、私達の敵ではありませんからね」
「……そうか。だったら、俺の考えは決まった」

 古谷さんは私に剣の切っ先を向けました。

「俺はリーフィアさんと戦う。勇者としてではない。一人の男として、このままみっともなく逃げるわけにはいかない!」
「一人の男として、ですか?」
「そうだ。王の命令とか、勇者としての使命とか関係ない。俺は俺のために、リーフィアさんと戦う」
「……はは、なるほど」

 そうですか。あなたはそっちを選択しましたか。

「では、戦うということでよろしいのですね?」
「そうだ!」

 わかりました。
 それが古谷さんの選択だというならば、私は止めません。
 ただ、なんでしょうか。この気持ちは……そう、言い表すとするならば────

「残念です」

 私は憂鬱に手を上げました。
 そして最後に一言、彼にこの言葉を贈ります。

「さようなら」
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