公爵令嬢に転生した魔王様の平和を望むセカンドライフ

白波ハクア

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第8話 最後のチャンス

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「いい加減、仲直りしてください」

 驚愕に目を見開く両親に一礼した私は、ダッとその場を走り去る。

 背後で何か声が聞こえた気がしたが、そんなの知らん。
 後のことは全て二人に丸投げだが、それが一番手っ取り早いと判断したのだ。

 本音を言うのであれば、近くで見守っていたい。
 二人がどのような会話をするのか、どんな思いを胸に秘めているのか。
 それを特等席で見ていたかった。

 だが、それではダメだということを私は理解していた。
 あそこに私が居ては、二人は本音を言い合えない。だから私は、あの場から逃げた。

 一番ダメなのは、つまらないミスで全てが台無しになってしまうことだ。
 私自身が頑張って築き上げた計画のラストに、私程度のつまらない私欲が入ってはいけない。
 こんな面白いものを前にして逃げることは悔しいが、成功のためならばと私は心を鬼にしたのだ。

 ──これでダメなら諦める。
 ──これが最後のチャンスだ。

「どうか、上手くいきますように」

 私は自室に走りながら、そう願った。

「──お嬢様!」

 私室前で待機していたエルシアと合流する。
 促されるまま中に入り、冷やされた果実水をごくごくと飲んだ。

「……はぁ……復活した後だと、走るのもやっとね」
「お疲れ様ですお嬢様。……お二人は、どうでしたか?」
「どうかしら……今は、上手くいくことを願うのみよ」

 私は作戦実行の前日、エルシアにこのことを話していた。

 理由は単純、普通にバレたからだ。彼女は一番近くで私のことを見ていた。だから何かを企んでいると察したのだろう。
 でもそれは確信を持ってのことではなく、もしかしたらと思っての質問だったらしい。
 ちなみに私は最後まで隠し通せる気でいたので、エルシアの鋭さには驚くばかりだった。

 私は私で、もうここまで来れば逆に知ってもらった方が動きやすいと判断した。
 その後エルシアにメイド長ローナと父親の秘書コンコッドを呼んで来てもらい、三人に今回の計画の全てを話した。

 どうしてエルシアだけではなくメイド長と父親の秘書にまで話したかというと、それもやはりその後の動きやすさを重視した結果だった。

 朝、私は強引に動いてしまったがために、母親と手を繋いで中庭に行く様子を数人の使用人に目撃された。
 ここまで大きく動くと、使用人は何があったのかと気になってしまい、時間が空き次第中庭へと向かうだろう。
 私としては折角作った両親の空間を邪魔して欲しくない。
 なので、ローナにはそれを抑えてもらうために協力してもらった。

 コンコッドには申し訳ないが、父親の仕事を任せた。
 昨晩の夕食時、私は父親に「明日だけ全ての仕事を休んでくれ」とお願いした。
 しかし普通に考えれば、一日も全ての仕事を放り投げるのは流石にまずい。だから彼にはその負担を背負ってもらったのだ。

 それを聞いた二人は、私のお願いを快く受け入れてくれた。

 二人も両親の仲がどうにかならないものかと思っていたらしく、最初は驚いて空いた口が塞がらなくなっていたが、理解したと同時に少しばかりの涙を目元に溜めながら頷いたのだ。

 一方その時のエルシアは……凄まじいの一言だった。

 涙を鼻水をダバダバと流し、嗚咽まじりに言葉にならない何かを言うその姿は、魔王であったこの私でも戦慄したほどだ。
 だが、彼女もそれだけ嬉しかったのだろう。
 特に6歳の娘が両親のために奔走する。という点に感動したらしく、めちゃくちゃに褒められて頭を撫で回された。そのせいで彼女の涙や鼻水の犠牲となり、もう一度風呂に入り直したのはちょっとした事件であった。

 その後、エルシアは「公爵家のメイドに相応しい言動を」とローナによってこってりと絞られていたが、私が彼女のことを庇ったことで穏便に事は済んだ。



「……私、正直信じられないんです」

 走ったことで体の限界が訪れ、椅子にどっかりと座る私に、エルシアが静かに己の本心をポツリポツリと話し始める。

「もう旦那様と奥様の関係は直らないのかと、ここまま悲しく終わってしまうのかと……そう、諦めていたんです。他の同僚達もそうでした。二人の関係を戻すことは私達には出来ない。だからこのまま終わりを迎えるまで、私は身寄りのない私を拾ってくれた二人への感謝を忘れずに働こうって……そう思っていました」
「そうはさせない」
「お嬢様……」
「終わるだなんて、そんな未来は許さない。絶対に」
「…………6歳なのに自分のことをちゃんを考え、本当に実行に移してしまった、お嬢様は、素晴らしいお方です」
「……ありがとう」

 だが、これは他ならぬ『私』のために動いているだけだ。
 結果的に他の者がどう思おうが、私にとってはどうでもいい。

 そう思っていたのだが、な。

「……私も、いつの間にかそれを望んでいたのだな……」

 あの温もりを知ってしまった私は、再びそれを望むようになっていた。
 全てが終わってしまったら、もう二人の温もりを感じることは出来ない。私は片方ではなく、両方が欲しかった。だからこうして少々無茶なことをしているのだろう。

 シェラローズのためだと動いていた私は、いつしか私自身のために動いていたのだ。

 以前の、魔王だった頃の私には考えられないことだった。
 人の温もりを求めるなど、全種族を恐怖で支配する『魔王』にはあってはならないことなのだ。
 ……しかし、今の私は魔王ではなく6歳の公爵令嬢だ。こういう甘えた心も、たまには良いだろう。

「お嬢様?」
「…………何でもない。少し休憩するわ。後はよろしく」
「はい! お任せください」

 私は服を脱ぎ、エルシアに渡してからベッドに潜り込む。
 フローラルの香りが鼻腔をくすぐり、眠気はすぐにやって来た。
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