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第19話 お出かけ
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太陽が一番上に登る昼真っ只中。
私はエルシアと共に王都の街の中を歩いていた。
「お嬢様、私から離れないでください!」
と、少し後ろを歩いているエルシアから注意が飛ぶ。
先日のように私が転ぶことを危惧しての言葉なのだろうが。私には余計なお世話というものだった。
「大丈夫よ。今日は走らないから転ぶ心配が無いわ」
「そう言って転ぶのがお嬢様なんです!」
エルシアよ。人をドジっ子みたいに言ってくれるな。
だが、そうだな。よくよく考えてみれば、私はもしかしたらエルシアの言うような『ドジっ子』なのかもしれない。それは魔王としてどうなのだとは思うが、思い返してみれば魔王だった頃も、言ったそばから問題を起こしていたような気がする。
最後の時だってそうだ。一番重要であり、決まったら最高にかっこいい部分で台詞を噛み、私が思い描いたような『輪廻転生』ではなくなってしまった。
そして先日の「そんなヘマはしない」からの見事なつまづき。
──もしかしたら私はドジっ子なのか!?
「お嬢様? いきなり立ち止まって、どうしたのですか?」
「…………エルシア。もしかしたら私はダメな子なのかもしれないわ」
「本当にどうしたのですか!?」
唐突に弱気になった私に驚愕したエルシアは、慌てて駆け寄って来て私のおでこを触った。
「熱は……無いようですね」
「あるわけないじゃない」
「だとしたら……精神的な病気?」
「待って? どうしてそうなるの?」
急におでこを触られたことには驚いたが、病人だと疑われるのは心外だ。
本気で私に何もないかを確認しているエルシアに、私は半眼でツッコミを入れた。
だが、エルシアの疑いはそれでは終わらなかった。
「一度、腕の良い魔法師に診てもらいましょう」
「そこまでしなくて良いから! 私は何もないわよ!」
「それをせずに後から問題があっては、私の首が飛びます!」
「飛ばないわよ!?」
アトラフィード家に仕える人達は、誰もが私に対して過保護になっている。
コンコッドやエルシアの証言によれば、私が可愛いという理由で昔からマスコット的な扱いになっていたようだ。それに加え、両親の仲をたった一人で懸命に取り戻したという話が出てから、私の株は大きく跳ね上がったらしい。
そのせいで動きづらいったらありゃしない。
今日だって外出しようと屋敷を出るようとすると、玄関先で数十人の使用人が集まっていた。
それが見送りならばまだ良かったのだが、全員が揃って「お嬢様の護衛です」と言い出すものだから、開いた口が塞がらなかった。
流石に全員を連れて歩くのは邪魔だということで、最初から一緒に行動するつもりだったエルシアだけに同行を許したのだが、その時彼女に注がれた使用人達からの羨ましそうな視線は、直接向けられていない私でも居心地が悪かった。
それでゆっくりと街中を探索できると思っていたのだが、ここでまさかのエルシアの暴走だ。呆れて溜め息が出てしまうのは仕方のないことだろう。
「もうっ、ふざけているのならエルシアの同行も拒否するわよ」
「お嬢様!? それだけは嫌です! というか私が居なければ誰がお嬢様をお守りするのですか!」
「自分の身くらいは自分で守れるわよ!」
「お嬢様はまだ6歳ではないですか。流石に無理がありますって」
「……エルシアよりも強い自信はあるわ」
「ひどい!?」
一応私は元魔王だ。
この体になっているし、魔王の証である『深遠の宝玉』は失われているが、それでも知識と流れ込んだ魔王の力のおかげでそれなりに強いと自覚している。
そこらにいる大人など私にとっては赤子同然。護衛が必要かと問われれば、全く必要ではないのだ。
それに私を守ると言っても、エルシアでは役不足だろう。それなりに武術を嗜んでいるような身のこなしを見せているが、普段の彼女を見ているとどうにも強そうに思えない。
「もう! 私だってそれなりに強いんですからね!」
「へぇ~」
「あ、これは信じていませんね? これでも私は屋敷の中でもかなり強い方なんですから!」
「…………私を心配させないために、そんな嘘まで言って……わかったわ。今はエルシアの度胸に免じて信じてあげる」
「あれ! 信じられてない!?」
「信じているわよー。信じているわよー」
大切なことだから二回言ってみたが、どうやらそれは逆効果だったようだ。
エルシアは徐々に目元に涙を浮かべ、わーんわーんと泣き始めた。
「………………」
相手にするのも面倒になった私は、泣きわめくエルシアを放置してトコトコと歩き出す。
「あ、お嬢様!? ちょ、置いていかないでください!」
「すいません、近寄らないでいただけますか?」
「また敬語になってる!? 最近なんか扱いが雑になっていませんか!」
「なっていないわよ。もうエルシアったら心配性ね」
「……あ、そっか……私が心配しているだけだったんですね。はぁ、よかったぁ」
エルシア、ちょろい。
「にしても、エルシアがかなり強いってのだけは信じられないわ」
「まだ疑っているのですか? 仲間内でも信じてくれている人は極少数なので、困っているんですよ」
「…………ああ、そう」
それは単にエルシアがそう思い込んでいるだけなのでは? と思ったが、それを口にしたらまた泣かれそうなので、私は本音を心の中だけに留めておいた。
「でもそれだけ強いのなら、エルシアから武術でも習おうかしら」
「…………お嬢様、どうして私が武術専門だと?」
不意に漏らした言葉に、エルシアが反応した。
彼女から発せられる雰囲気が若干変化する。それはとても微弱で、ほとんどの人は気付かないような変化ではあったが、幾度となく死線を乗り越えてきた私にははっきりと感じられた。
だが、エルシアはそれを隠せていると思っているらしい。誰よりも私を大切に思ってくれる彼女が、私に隠し事をしている。それはきっと彼女にとっては知られたくない内容なのだろう。
だから私は、あえてその気配の変化に気付かないふりをした。
「その身のこなしを見ていればわかるわ。それを悟らせない動き方だから気づくのが遅れたけれど」
「そう、ですか……でも、私からは教わらない方がいいですよ。教わるのなら大人しく他から雇った方がいいと思います。…………私の戦い方は、教えていいものではありませんから」
その言葉で確信した。
エルシアは私に言えない何かを持っている。
彼女が私には言いたくないと判断したのだ。
そこを強引に突っつくのは、あまりにも酷なことだろう。
しかし、これだけは言っておきたかった。
「あなたが何を思っているのかなんて、私にはわからない。……でもね、これでも私は、エルシアを誰よりも信用しているの。今更何を言われたってその気持ちは変わらないわ」
エルシアは難しい顔をした。
「そんな顔をしなくても無理に聞こうとは思っていないわよ。あなたが私に言っても良いと思うその時まで、私はのんびり待つことにするわ」
「お嬢様……」
「しんみりとした空気は嫌いなの。早くいつも通りのエルシアに戻ってくれるかしら?」
「──っ! はいっ、お嬢様!」
何かを後悔しているような暗い表情から、こちらまで笑顔になりそうな明るい笑顔に切り替わるエルシア。
それを見た私は、満足気に頷いた。
「やっぱり、エルシアにはそれが似合うわ」
私はエルシアと共に王都の街の中を歩いていた。
「お嬢様、私から離れないでください!」
と、少し後ろを歩いているエルシアから注意が飛ぶ。
先日のように私が転ぶことを危惧しての言葉なのだろうが。私には余計なお世話というものだった。
「大丈夫よ。今日は走らないから転ぶ心配が無いわ」
「そう言って転ぶのがお嬢様なんです!」
エルシアよ。人をドジっ子みたいに言ってくれるな。
だが、そうだな。よくよく考えてみれば、私はもしかしたらエルシアの言うような『ドジっ子』なのかもしれない。それは魔王としてどうなのだとは思うが、思い返してみれば魔王だった頃も、言ったそばから問題を起こしていたような気がする。
最後の時だってそうだ。一番重要であり、決まったら最高にかっこいい部分で台詞を噛み、私が思い描いたような『輪廻転生』ではなくなってしまった。
そして先日の「そんなヘマはしない」からの見事なつまづき。
──もしかしたら私はドジっ子なのか!?
「お嬢様? いきなり立ち止まって、どうしたのですか?」
「…………エルシア。もしかしたら私はダメな子なのかもしれないわ」
「本当にどうしたのですか!?」
唐突に弱気になった私に驚愕したエルシアは、慌てて駆け寄って来て私のおでこを触った。
「熱は……無いようですね」
「あるわけないじゃない」
「だとしたら……精神的な病気?」
「待って? どうしてそうなるの?」
急におでこを触られたことには驚いたが、病人だと疑われるのは心外だ。
本気で私に何もないかを確認しているエルシアに、私は半眼でツッコミを入れた。
だが、エルシアの疑いはそれでは終わらなかった。
「一度、腕の良い魔法師に診てもらいましょう」
「そこまでしなくて良いから! 私は何もないわよ!」
「それをせずに後から問題があっては、私の首が飛びます!」
「飛ばないわよ!?」
アトラフィード家に仕える人達は、誰もが私に対して過保護になっている。
コンコッドやエルシアの証言によれば、私が可愛いという理由で昔からマスコット的な扱いになっていたようだ。それに加え、両親の仲をたった一人で懸命に取り戻したという話が出てから、私の株は大きく跳ね上がったらしい。
そのせいで動きづらいったらありゃしない。
今日だって外出しようと屋敷を出るようとすると、玄関先で数十人の使用人が集まっていた。
それが見送りならばまだ良かったのだが、全員が揃って「お嬢様の護衛です」と言い出すものだから、開いた口が塞がらなかった。
流石に全員を連れて歩くのは邪魔だということで、最初から一緒に行動するつもりだったエルシアだけに同行を許したのだが、その時彼女に注がれた使用人達からの羨ましそうな視線は、直接向けられていない私でも居心地が悪かった。
それでゆっくりと街中を探索できると思っていたのだが、ここでまさかのエルシアの暴走だ。呆れて溜め息が出てしまうのは仕方のないことだろう。
「もうっ、ふざけているのならエルシアの同行も拒否するわよ」
「お嬢様!? それだけは嫌です! というか私が居なければ誰がお嬢様をお守りするのですか!」
「自分の身くらいは自分で守れるわよ!」
「お嬢様はまだ6歳ではないですか。流石に無理がありますって」
「……エルシアよりも強い自信はあるわ」
「ひどい!?」
一応私は元魔王だ。
この体になっているし、魔王の証である『深遠の宝玉』は失われているが、それでも知識と流れ込んだ魔王の力のおかげでそれなりに強いと自覚している。
そこらにいる大人など私にとっては赤子同然。護衛が必要かと問われれば、全く必要ではないのだ。
それに私を守ると言っても、エルシアでは役不足だろう。それなりに武術を嗜んでいるような身のこなしを見せているが、普段の彼女を見ているとどうにも強そうに思えない。
「もう! 私だってそれなりに強いんですからね!」
「へぇ~」
「あ、これは信じていませんね? これでも私は屋敷の中でもかなり強い方なんですから!」
「…………私を心配させないために、そんな嘘まで言って……わかったわ。今はエルシアの度胸に免じて信じてあげる」
「あれ! 信じられてない!?」
「信じているわよー。信じているわよー」
大切なことだから二回言ってみたが、どうやらそれは逆効果だったようだ。
エルシアは徐々に目元に涙を浮かべ、わーんわーんと泣き始めた。
「………………」
相手にするのも面倒になった私は、泣きわめくエルシアを放置してトコトコと歩き出す。
「あ、お嬢様!? ちょ、置いていかないでください!」
「すいません、近寄らないでいただけますか?」
「また敬語になってる!? 最近なんか扱いが雑になっていませんか!」
「なっていないわよ。もうエルシアったら心配性ね」
「……あ、そっか……私が心配しているだけだったんですね。はぁ、よかったぁ」
エルシア、ちょろい。
「にしても、エルシアがかなり強いってのだけは信じられないわ」
「まだ疑っているのですか? 仲間内でも信じてくれている人は極少数なので、困っているんですよ」
「…………ああ、そう」
それは単にエルシアがそう思い込んでいるだけなのでは? と思ったが、それを口にしたらまた泣かれそうなので、私は本音を心の中だけに留めておいた。
「でもそれだけ強いのなら、エルシアから武術でも習おうかしら」
「…………お嬢様、どうして私が武術専門だと?」
不意に漏らした言葉に、エルシアが反応した。
彼女から発せられる雰囲気が若干変化する。それはとても微弱で、ほとんどの人は気付かないような変化ではあったが、幾度となく死線を乗り越えてきた私にははっきりと感じられた。
だが、エルシアはそれを隠せていると思っているらしい。誰よりも私を大切に思ってくれる彼女が、私に隠し事をしている。それはきっと彼女にとっては知られたくない内容なのだろう。
だから私は、あえてその気配の変化に気付かないふりをした。
「その身のこなしを見ていればわかるわ。それを悟らせない動き方だから気づくのが遅れたけれど」
「そう、ですか……でも、私からは教わらない方がいいですよ。教わるのなら大人しく他から雇った方がいいと思います。…………私の戦い方は、教えていいものではありませんから」
その言葉で確信した。
エルシアは私に言えない何かを持っている。
彼女が私には言いたくないと判断したのだ。
そこを強引に突っつくのは、あまりにも酷なことだろう。
しかし、これだけは言っておきたかった。
「あなたが何を思っているのかなんて、私にはわからない。……でもね、これでも私は、エルシアを誰よりも信用しているの。今更何を言われたってその気持ちは変わらないわ」
エルシアは難しい顔をした。
「そんな顔をしなくても無理に聞こうとは思っていないわよ。あなたが私に言っても良いと思うその時まで、私はのんびり待つことにするわ」
「お嬢様……」
「しんみりとした空気は嫌いなの。早くいつも通りのエルシアに戻ってくれるかしら?」
「──っ! はいっ、お嬢様!」
何かを後悔しているような暗い表情から、こちらまで笑顔になりそうな明るい笑顔に切り替わるエルシア。
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