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第41話 再会
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作戦決行の早朝、私は身支度を整えていた。
すでに屋敷の外には、父親が用意してくれた兵士達が集まっているらしく、部屋からも外の賑わいは聞こえていた。
大人数ではないはずだが、それでも6歳の娘のために集まるような戦力ではない。集まってくれた者達の中にも、少しの不満を持った者は存在するだろう。それでも集ってくれたのだから、当事者として感謝を述べなければならないだろう。
でもその前にと、エルシアが化粧を始めたのだ。
戦闘に行くのだから化粧をする意味はない。むしろピクニック気分なのかと勘違いされ、不満を持たれるのは困る。そう言ったのだが、大勢の男の前に出るのだから綺麗に着飾るのは貴族として当然のことです! と押し気味に言われてしまい、折れたのは私の方だった。
ならせめて、あざとくならないよう落ち着いた化粧をと頼んだ。
それを聞いたエルシアが変に気合を入れていたので心配していたが──
「出来ました!」
その言葉に鏡を見ると、いつもよりも若干華やかになった私の顔があった。
化粧は私が言った通り控えめで、ケバい感じはしない。張り切っていたから正直大丈夫なのかと思っていたが、どうやらお願い通りにやってくれたようだ。
「今日はより一層お綺麗です!」
「ありがとう。エルシア」
エルシアが手放しで褒めちぎる。興奮したように頬を赤く染め、抱き付いてくる──のは流石に手を伸ばして防御した。
「…………ふむ」
にしても可愛いな、私。
化粧は初めてだったが、コンコッドの言う通り私は美人なのかもしれない。いや、まだ幼い感じは残っているのは致し方無いとは思うが、成長すればかなりの美人になることは予想される。
父親も母親も揃って美形なので、その娘である私も美形になるのは当然のこと──ってちょっと待て。そもそも私の容姿は魔王グラムヴァーダに寄せられているので、二人とはあまり関係のないことだったな。
それでも将来有望だということがわかっただけでも十分か。
「とにかく、これで人前に出るには恥ずかしくない顔になったかしら?」
「お嬢様は化粧してなくても可愛いですけどね。すっぴんなのにどうしてそんなに可愛いのか、小一時間問い詰めたいくらいです」
「それは、ちょっと勘弁願いたいわね……」
どうして私が可愛いのかなんて知らないし、そんなのを問い詰められるのも面倒だ。勿論エルシアも本気で言っているのではないとわかっていたが、彼女の目が怖かったので一応嫌だと言っておく。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい、お嬢様」
季節は秋。
まだ冬とまではいかないが、早朝の外はかなり冷える。
動くのに邪魔にならないワンピースの上に防寒用のローブを羽織り、ようやく準備が整った。
「…………」
扉に手を掛けた私は、不意に部屋の角……ピンク色のシーツが敷かれているベッドを振り返った。
そこに横たわってスヤスヤと可愛らしい寝息を立てるのは、真っ白な毛並みを持つ双子の獣人──ティアとティナだ。
昨日、日中はずっと遊び続けていたため、二人も疲れが溜まっていたのだろう。こうしてエルシアと話していても、起きる様子はなかった。
私も疲れていると言えばそうなのだが、疲労を回復させる魔法を自身に流し込んだため、一眠りしたら元気になった。
これは魔王の時にも使っていた魔法で、書類整理で死にそうになっていた時には毎時間使っていたのは、今となっては懐かしい思い出だ。
「……行ってくるわね。二人とも」
安らかに眠り続ける二人の頬に唇を落とし、私は静かに部屋を出た。
玄関先にはすでに両親と幾人かの使用人が集まっていた。どうやら私達が最後だったらしい。
「遅くなってしまい、申し訳ありません」
「いや、時間通りだ」
「私達はお話があったから、少し早く来ただけよ。シエラちゃんが謝る必要はないわ」
両親が兵士と話すこと? その内容は気になるが、別に今聞く必要はないだろう。それよりも集まっている兵士達に挨拶するのが先だ。
「兵士の方々は?」
「庭先に居るぞ」
父親にも私の考えが伝わったらしく、庭を指差して「挨拶してくるといい」と言ってくれた。
エルシアを連れて庭に向かうと、次第に兵士達の話し声が聞こえるようになった。部屋に居た時もわかっていたことだが、裏社会の全てを相手するというのに、聞こえてくる楽しそうな話し声からは緊張感が感じられない。
──だが勘違いしないでもらいたい。
緊張感が無いのが悪いとは思わない。むしろ緊張することで変なミスをされる方が困る。
彼らは父親が用意した歴戦の戦士達だ。緊張しているしていないと言うよりは、こういう場面には慣れているのだろう。彼らからはふざけた雰囲気はなく、それなりに気を引き締めていることは理解している。
だからなのか、私も安心して任せられると素直に思った。
「──ん、なんだい嬢ちゃん?」
鎧を纏った兵士……というより『騎士』と名称した方がいいだろう。綺麗に磨かれた鎧と、質の良さそうな武器。荒々しい雰囲気は男達らしいのだが、その中にもどこか誠実さが感じられる。
私の二倍はある体格で見つめられ、数歩後ろに下がるが、それでも貴族の礼儀として優雅にお辞儀した。
「シェラローズ・ノーツ・アトラフィードです。お集まりいただいた皆様にお礼を申し上げたく、ここにまいりました。皆様の責任者はどこにいらっしゃいますか?」
「おお、嬢ちゃんが! ──っと、失礼しましたシェラローズ様。無礼をお詫びします」
途端に雰囲気が変わり、紳士のような態度に変わる騎士。
「いえ、気にしないでください。それより……」
「はい。団長は向こうに、ほら、あの赤髪の者ですよ」
「……えっ?」
──赤髪。
そう聞いて脳裏を過ぎったのは、あの日出会った、彼。
朱色のサラサラとした髪と、美しく整った顔立ち。
彼の──シルヴィア様のことを思い出しながら、私は振り向く。
「──っ!」
そして、息を飲んだ。
私が振り向いたと同時に、『彼』もこちらを見たのだろう。
──視線が交差する。
その時、庭に風が起こった。
揺れる真っ赤な髪と、それを手で抑える動作。その一つ一つに、私は釘付けとなっていた。
「まさか……」
まさかこんなところで再開出来るとは、夢にも思っていなかった。
「お嬢様?」
エルシアの声も、騎士達の話し声も、風のせせらぎの音も、全てが遠のくような感覚がした。だが、それさえもどうでもいいと思えるほど、私はただそれだけに目を奪われていたのだ。
「うそ……そんな、ことが……」
私はようやく理解した。
父親が用意してくれた援軍というのは、王国の抱える騎士団だったのだと。
そして、彼らは応援に駆けつけてくれたのだと。
その部隊を仕切るのは────
「シルヴィア、さま……?」
王国騎士団第二師団の団長、シルヴィア・アークハイド。
「お久しぶりです。シェラローズ様」
呆然とする私に目を細め、彼は優しく微笑むのだった。
すでに屋敷の外には、父親が用意してくれた兵士達が集まっているらしく、部屋からも外の賑わいは聞こえていた。
大人数ではないはずだが、それでも6歳の娘のために集まるような戦力ではない。集まってくれた者達の中にも、少しの不満を持った者は存在するだろう。それでも集ってくれたのだから、当事者として感謝を述べなければならないだろう。
でもその前にと、エルシアが化粧を始めたのだ。
戦闘に行くのだから化粧をする意味はない。むしろピクニック気分なのかと勘違いされ、不満を持たれるのは困る。そう言ったのだが、大勢の男の前に出るのだから綺麗に着飾るのは貴族として当然のことです! と押し気味に言われてしまい、折れたのは私の方だった。
ならせめて、あざとくならないよう落ち着いた化粧をと頼んだ。
それを聞いたエルシアが変に気合を入れていたので心配していたが──
「出来ました!」
その言葉に鏡を見ると、いつもよりも若干華やかになった私の顔があった。
化粧は私が言った通り控えめで、ケバい感じはしない。張り切っていたから正直大丈夫なのかと思っていたが、どうやらお願い通りにやってくれたようだ。
「今日はより一層お綺麗です!」
「ありがとう。エルシア」
エルシアが手放しで褒めちぎる。興奮したように頬を赤く染め、抱き付いてくる──のは流石に手を伸ばして防御した。
「…………ふむ」
にしても可愛いな、私。
化粧は初めてだったが、コンコッドの言う通り私は美人なのかもしれない。いや、まだ幼い感じは残っているのは致し方無いとは思うが、成長すればかなりの美人になることは予想される。
父親も母親も揃って美形なので、その娘である私も美形になるのは当然のこと──ってちょっと待て。そもそも私の容姿は魔王グラムヴァーダに寄せられているので、二人とはあまり関係のないことだったな。
それでも将来有望だということがわかっただけでも十分か。
「とにかく、これで人前に出るには恥ずかしくない顔になったかしら?」
「お嬢様は化粧してなくても可愛いですけどね。すっぴんなのにどうしてそんなに可愛いのか、小一時間問い詰めたいくらいです」
「それは、ちょっと勘弁願いたいわね……」
どうして私が可愛いのかなんて知らないし、そんなのを問い詰められるのも面倒だ。勿論エルシアも本気で言っているのではないとわかっていたが、彼女の目が怖かったので一応嫌だと言っておく。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい、お嬢様」
季節は秋。
まだ冬とまではいかないが、早朝の外はかなり冷える。
動くのに邪魔にならないワンピースの上に防寒用のローブを羽織り、ようやく準備が整った。
「…………」
扉に手を掛けた私は、不意に部屋の角……ピンク色のシーツが敷かれているベッドを振り返った。
そこに横たわってスヤスヤと可愛らしい寝息を立てるのは、真っ白な毛並みを持つ双子の獣人──ティアとティナだ。
昨日、日中はずっと遊び続けていたため、二人も疲れが溜まっていたのだろう。こうしてエルシアと話していても、起きる様子はなかった。
私も疲れていると言えばそうなのだが、疲労を回復させる魔法を自身に流し込んだため、一眠りしたら元気になった。
これは魔王の時にも使っていた魔法で、書類整理で死にそうになっていた時には毎時間使っていたのは、今となっては懐かしい思い出だ。
「……行ってくるわね。二人とも」
安らかに眠り続ける二人の頬に唇を落とし、私は静かに部屋を出た。
玄関先にはすでに両親と幾人かの使用人が集まっていた。どうやら私達が最後だったらしい。
「遅くなってしまい、申し訳ありません」
「いや、時間通りだ」
「私達はお話があったから、少し早く来ただけよ。シエラちゃんが謝る必要はないわ」
両親が兵士と話すこと? その内容は気になるが、別に今聞く必要はないだろう。それよりも集まっている兵士達に挨拶するのが先だ。
「兵士の方々は?」
「庭先に居るぞ」
父親にも私の考えが伝わったらしく、庭を指差して「挨拶してくるといい」と言ってくれた。
エルシアを連れて庭に向かうと、次第に兵士達の話し声が聞こえるようになった。部屋に居た時もわかっていたことだが、裏社会の全てを相手するというのに、聞こえてくる楽しそうな話し声からは緊張感が感じられない。
──だが勘違いしないでもらいたい。
緊張感が無いのが悪いとは思わない。むしろ緊張することで変なミスをされる方が困る。
彼らは父親が用意した歴戦の戦士達だ。緊張しているしていないと言うよりは、こういう場面には慣れているのだろう。彼らからはふざけた雰囲気はなく、それなりに気を引き締めていることは理解している。
だからなのか、私も安心して任せられると素直に思った。
「──ん、なんだい嬢ちゃん?」
鎧を纏った兵士……というより『騎士』と名称した方がいいだろう。綺麗に磨かれた鎧と、質の良さそうな武器。荒々しい雰囲気は男達らしいのだが、その中にもどこか誠実さが感じられる。
私の二倍はある体格で見つめられ、数歩後ろに下がるが、それでも貴族の礼儀として優雅にお辞儀した。
「シェラローズ・ノーツ・アトラフィードです。お集まりいただいた皆様にお礼を申し上げたく、ここにまいりました。皆様の責任者はどこにいらっしゃいますか?」
「おお、嬢ちゃんが! ──っと、失礼しましたシェラローズ様。無礼をお詫びします」
途端に雰囲気が変わり、紳士のような態度に変わる騎士。
「いえ、気にしないでください。それより……」
「はい。団長は向こうに、ほら、あの赤髪の者ですよ」
「……えっ?」
──赤髪。
そう聞いて脳裏を過ぎったのは、あの日出会った、彼。
朱色のサラサラとした髪と、美しく整った顔立ち。
彼の──シルヴィア様のことを思い出しながら、私は振り向く。
「──っ!」
そして、息を飲んだ。
私が振り向いたと同時に、『彼』もこちらを見たのだろう。
──視線が交差する。
その時、庭に風が起こった。
揺れる真っ赤な髪と、それを手で抑える動作。その一つ一つに、私は釘付けとなっていた。
「まさか……」
まさかこんなところで再開出来るとは、夢にも思っていなかった。
「お嬢様?」
エルシアの声も、騎士達の話し声も、風のせせらぎの音も、全てが遠のくような感覚がした。だが、それさえもどうでもいいと思えるほど、私はただそれだけに目を奪われていたのだ。
「うそ……そんな、ことが……」
私はようやく理解した。
父親が用意してくれた援軍というのは、王国の抱える騎士団だったのだと。
そして、彼らは応援に駆けつけてくれたのだと。
その部隊を仕切るのは────
「シルヴィア、さま……?」
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