公爵令嬢に転生した魔王様の平和を望むセカンドライフ

白波ハクア

文字の大きさ
42 / 78

第41話 再会

しおりを挟む
 作戦決行の早朝、私は身支度を整えていた。

 すでに屋敷の外には、父親が用意してくれた兵士達が集まっているらしく、部屋からも外の賑わいは聞こえていた。
 大人数ではないはずだが、それでも6歳の娘のために集まるような戦力ではない。集まってくれた者達の中にも、少しの不満を持った者は存在するだろう。それでも集ってくれたのだから、当事者として感謝を述べなければならないだろう。

 でもその前にと、エルシアが化粧を始めたのだ。

 戦闘に行くのだから化粧をする意味はない。むしろピクニック気分なのかと勘違いされ、不満を持たれるのは困る。そう言ったのだが、大勢の男の前に出るのだから綺麗に着飾るのは貴族として当然のことです! と押し気味に言われてしまい、折れたのは私の方だった。

 ならせめて、あざとくならないよう落ち着いた化粧をと頼んだ。
 それを聞いたエルシアが変に気合を入れていたので心配していたが──

「出来ました!」

 その言葉に鏡を見ると、いつもよりも若干華やかになった私の顔があった。
 化粧は私が言った通り控えめで、ケバい感じはしない。張り切っていたから正直大丈夫なのかと思っていたが、どうやらお願い通りにやってくれたようだ。

「今日はより一層お綺麗です!」
「ありがとう。エルシア」

 エルシアが手放しで褒めちぎる。興奮したように頬を赤く染め、抱き付いてくる──のは流石に手を伸ばして防御した。

「…………ふむ」

 にしても可愛いな、私。
 化粧は初めてだったが、コンコッドの言う通り私は美人なのかもしれない。いや、まだ幼い感じは残っているのは致し方無いとは思うが、成長すればかなりの美人になることは予想される。

 父親も母親も揃って美形なので、その娘である私も美形になるのは当然のこと──ってちょっと待て。そもそも私の容姿は魔王グラムヴァーダに寄せられているので、二人とはあまり関係のないことだったな。

 それでも将来有望だということがわかっただけでも十分か。

「とにかく、これで人前に出るには恥ずかしくない顔になったかしら?」
「お嬢様は化粧してなくても可愛いですけどね。すっぴんなのにどうしてそんなに可愛いのか、小一時間問い詰めたいくらいです」
「それは、ちょっと勘弁願いたいわね……」

 どうして私が可愛いのかなんて知らないし、そんなのを問い詰められるのも面倒だ。勿論エルシアも本気で言っているのではないとわかっていたが、彼女の目が怖かったので一応嫌だと言っておく。

「それじゃあ、行きましょうか」
「はい、お嬢様」

 季節は秋。
 まだ冬とまではいかないが、早朝の外はかなり冷える。
 動くのに邪魔にならないワンピースの上に防寒用のローブを羽織り、ようやく準備が整った。

「…………」

 扉に手を掛けた私は、不意に部屋の角……ピンク色のシーツが敷かれているベッドを振り返った。
 そこに横たわってスヤスヤと可愛らしい寝息を立てるのは、真っ白な毛並みを持つ双子の獣人──ティアとティナだ。

 昨日、日中はずっと遊び続けていたため、二人も疲れが溜まっていたのだろう。こうしてエルシアと話していても、起きる様子はなかった。

 私も疲れていると言えばそうなのだが、疲労を回復させる魔法を自身に流し込んだため、一眠りしたら元気になった。
 これは魔王の時にも使っていた魔法で、書類整理で死にそうになっていた時には毎時間使っていたのは、今となっては懐かしい思い出だ。

「……行ってくるわね。二人とも」

 安らかに眠り続ける二人の頬に唇を落とし、私は静かに部屋を出た。



 玄関先にはすでに両親と幾人かの使用人が集まっていた。どうやら私達が最後だったらしい。

「遅くなってしまい、申し訳ありません」
「いや、時間通りだ」
「私達はお話があったから、少し早く来ただけよ。シエラちゃんが謝る必要はないわ」

 両親が兵士と話すこと? その内容は気になるが、別に今聞く必要はないだろう。それよりも集まっている兵士達に挨拶するのが先だ。

「兵士の方々は?」
「庭先に居るぞ」

 父親にも私の考えが伝わったらしく、庭を指差して「挨拶してくるといい」と言ってくれた。

 エルシアを連れて庭に向かうと、次第に兵士達の話し声が聞こえるようになった。部屋に居た時もわかっていたことだが、裏社会の全てを相手するというのに、聞こえてくる楽しそうな話し声からは緊張感が感じられない。

 ──だが勘違いしないでもらいたい。

 緊張感が無いのが悪いとは思わない。むしろ緊張することで変なミスをされる方が困る。
 彼らは父親が用意した歴戦の戦士達だ。緊張しているしていないと言うよりは、こういう場面には慣れているのだろう。彼らからはふざけた雰囲気はなく、それなりに気を引き締めていることは理解している。

 だからなのか、私も安心して任せられると素直に思った。

「──ん、なんだい嬢ちゃん?」

 鎧を纏った兵士……というより『騎士』と名称した方がいいだろう。綺麗に磨かれた鎧と、質の良さそうな武器。荒々しい雰囲気は男達らしいのだが、その中にもどこか誠実さが感じられる。

 私の二倍はある体格で見つめられ、数歩後ろに下がるが、それでも貴族の礼儀として優雅にお辞儀した。

「シェラローズ・ノーツ・アトラフィードです。お集まりいただいた皆様にお礼を申し上げたく、ここにまいりました。皆様の責任者はどこにいらっしゃいますか?」
「おお、嬢ちゃんが! ──っと、失礼しましたシェラローズ様。無礼をお詫びします」

 途端に雰囲気が変わり、紳士のような態度に変わる騎士。

「いえ、気にしないでください。それより……」
「はい。団長は向こうに、ほら、あの赤髪の者ですよ」
「……えっ?」

 ──赤髪。
 そう聞いて脳裏を過ぎったのは、あの日出会った、彼。

 朱色のサラサラとした髪と、美しく整った顔立ち。
 彼の──シルヴィア様のことを思い出しながら、私は振り向く。


「──っ!」


 そして、息を飲んだ。
 私が振り向いたと同時に、『彼』もこちらを見たのだろう。

 ──視線が交差する。

 その時、庭に風が起こった。
 揺れる真っ赤な髪と、それを手で抑える動作。その一つ一つに、私は釘付けとなっていた。

「まさか……」

 まさかこんなところで再開出来るとは、夢にも思っていなかった。

「お嬢様?」

 エルシアの声も、騎士達の話し声も、風のせせらぎの音も、全てが遠のくような感覚がした。だが、それさえもどうでもいいと思えるほど、私はただそれだけに目を奪われていたのだ。

「うそ……そんな、ことが……」

 私はようやく理解した。
 父親が用意してくれた援軍というのは、王国の抱える騎士団だったのだと。
 そして、彼らは応援に駆けつけてくれたのだと。

 その部隊を仕切るのは────

「シルヴィア、さま……?」

 王国騎士団第二師団の団長、シルヴィア・アークハイド。

「お久しぶりです。シェラローズ様」

 呆然とする私に目を細め、彼は優しく微笑むのだった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

処理中です...