56 / 78
第54話 別れの言葉は未だ遠く
しおりを挟むあの事件から一ヶ月が経った。
シルヴィア様に掛けられた呪いは私が解呪した。しかし、彼は呪いの影響で身体共に憔悴しきっており、一週間ほど治療生活を送っていたが、今は無事に回復し、現場に復帰している。
私と彼が出会った『謎の男』については、再び襲撃があるかもしれないとしばらく警戒がされていたのだが、なにも音沙汰が無いことから完全に国外へ逃げたと判断されたらしく、最近は奴の話はもう聞かない。
男、ラヴェットはすでに私の手で葬ってある。記憶から忘れられた方が、私にとってもありがたい。
奴が魔族だということは、誰にも話していない。正直に話したのであれば、父親含む今回の関係者の魔族に対する敵対心が刺激されてしまうと予想した。これは魔王である私の、今出来る最大限の温情である。
それと、闇ギルドに対して行った強行手段について、他の貴族からあった反発も完全に収まったと父親から報告を受けた。どうやら、私とサイレスが入手した書類が、彼らの不満に対して大きな手助けをしてくれたらしい。私のやったことに意味があったのなら、私はそれで十分だ。
騎士団本部に捕らえたベッケンとその部下は、正式に王城の牢獄へ移送され、ベッケンは死罪、部下達は無期限の牢獄生活を言い渡されたらしい。
ちなみに今回の活躍を賞して、国王陛下から私へ何か褒美を与えると父親から聞かされたのだが、表向きでは父親が発案したとしてあるので、褒美を受け取るのならば父親の方にしてくれと私はそれを断った。
私は目立とうとして行動したわけではなく、何か褒美を貰おうとしていたわけでもない。
逆に目立つのは嫌いなのだ。秘密裏に褒美を贈呈されると言われても、やはり受け取る気にはなれなかった。
だが、父親はそれで満足しなかった。
どうしても今回一番頑張った我が子に何かご褒美を……と一向に譲らず、事あるごとに私に何かご褒美を与えようとした来たのだ。流石にうざくなった私は、ならばと父親にお願い事を言ってみた。
それを聞いた時の彼の反応は──今思い出しても笑ってしまいそうになる。
「──お嬢様」
朝一のホットミルクを楽しみつつ、もう過去のものとなった事件を思い出していた私に、エルシアの声が掛かる。
「そろそろお時間です」
「ええ、わかったわ」
残り僅かだったミルクを飲み干し、私は外に出るため暖かいコートを着込んだ。
もう季節は『冬』に片足を突っ込んでいる状態だ。まだ完全な冬とはいかないものの、朝はかなり冷え込む。冷気で動きが鈍らないよう防寒するのは当然のことだった。
準備の音に気が付いたのだろう。ベッドの方で、もぞもぞと動き出す影が二つ。
「ん、んにゅ……しぇら、ろーず、さまぁ……?」
「しぇらろーずさま、おはよぉ……」
寝起きのせいで雪のように真っ白な尻尾と耳は垂れ下がり、しょぼしょぼした目をゴシゴシと擦るのは、私が親代わりとなった白狼族の双子。ティアとティナだ。
「おはよう、ティア。ティナ」
双子の頭に手を置き、ゆっくりと動かした。
ふわふわの感触はいつまでも触っていたい気分になる。
エルシアが呆れている様子から、今の私は令嬢には相応しくない表情をしているのだろう。自分でも顔の筋肉が緩んでいると自覚している。
「シェラローズさま、お出かけ……?」
「……する、の……?」
私が普段着ではないことを察したのだろう。
二人して腕に抱きつき、懇願するような視線を向けてくる。
「いっしょに行っちゃ……」
「…………だめ?」
「え? ……うーん、二人はコンコッドとのお勉強会があるでしょう?」
その言葉に、二人は難色を示した。
声には出していないが、不満を言いたげだというのは良くわかる。
「遊びに行くわけじゃないのよ。私も、私のお勉強をしに行くの。だから二人もお勉強を頑張って。ね?」
「……ん、わかった」
「おべんきょう……がんばる……」
頭を撫で続けていると、二人して気持ちが良くなったのか、うつらうつらと船を漕ぎ始めた。
「ほら、眠るなら横になって…………おやすみなさい、二人とも」
可愛らしい双子に微笑み、私は部屋を出て玄関に向かう。
すると、そこには大勢の使用人と、覚悟の色を瞳に宿じた両親が待ち伏せしていた。
「シエラ。行ってしまうのだな」
「シエラちゃん……」
両親は私に歩み寄り、小さな体を抱いた。
「覚悟は決めていた、のだがな……やはり、寂しくなってしまうな」
「……やだ、私ったら、お別れの時は泣かないって決めていたのに……」
「カナリア……私同じ気持ちだよ」
今度は二人して慰め合い、悲しみの雰囲気を全身から表現している。
そんな姿に感化されたのか、側に立っていた使用人達も「しくしく」と涙を流し、酷い者は嗚咽までしていた。ギリギリ泣かなかった者も俯き、プルプルと肩を震わせている。
「だが、子供を見送るのに、涙していてはシエラも不安になってしまう。そうだろう?」
「…………ええ、そうね。こういう時こそ、笑顔で見送るのが親の務めよね」
二人は頷き合い、そして私に向き直った。
「シエラ、私達のことは気にせず、行ってこい」
「あなたの無事を祈っているわ。元気でやってくるのよ」
「…………く、──っ、やはりダメだ!」
涙は流さないと言っていた父親は、やはり我慢出来なくなったのは涙腺を崩壊させ、情けなく「カナリアァアアア……」と母親に抱きついた。彼女も拒絶することはなく、同じように涙腺を崩壊させ、泣き崩れる。
「お父様、お母様……」
そんな彼らの様子を見つめ、私は一言。
「騎士団本部にお邪魔する程度で、大袈裟です」
今日も両親は、相変わらずの親馬鹿であった。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました
藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。
逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、
“立て直す”以外の選択肢を持たなかった。
領地経営、改革、そして予想外の縁。
没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。
※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる