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第十九章
守るという事
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夕暮れの商店街は、オレンジ色の光に沈み、店先のガラスに長い影を落としていた。
霧弥はカウンターに肘をつき、気づけば煙草を立て続けに吸っている。灰皿に溜まっていく灰をぼんやり眺めながら、胸の奥のざわつきがどうしても消えなかった。
――南雲さん、か。
そう思った瞬間、すぐに首を振る。
違う。本当に引っかかっているのは、龍二のそばにいた時間、その余韻だ。
ゆっくりと煙を吐き出す。白い煙が静かな店内に広がっていくのを見つめながら、霧弥は自分の手に視線を落とした。無意識に拳を握りしめている。
「……ほんと、バカだな」自嘲するように呟く。
龍二のことを考えるだけで、胸が妙に熱くなる。何気ない仕草や、表情の端々が、頭から離れない。
そのとき、店のドアが開き、軽い足音が響いた。
「霧弥、今日も遅くなった……」
振り返ると、龍二が立っていた。少し疲れた顔。片手には原稿の束、もう片方には、まだ温かそうなコーヒー。
霧弥は肩をすくめる。
――まただ。こうして顔を見るだけで、胸がざわつく。
「……おかえり」
「ただいま。遅くなってごめん」
短い言葉のやり取り。それだけなのに、二人の間に流れる空気は静かに熱を帯びていた。
霧弥は煙草に手を伸ばしかけて、龍二の視線に気づき、思わず止める。
「……煙草吸うのか?」
「……ああ。ちょっと、落ち着きたくて」
龍二は小さく息を吐き、霧弥の隣に腰を下ろした。肩がかすかに触れる。
霧弥は一瞬身を強張らせたが、逃げなかった。
「……霧弥。さっきの南雲さんとの話だけど」
「……別に、気にしてねぇよ」顔を逸らして答える。
嘘ではない。ただ、胸の奥で小さな嫉妬と不安が渦を巻いているだけだ。
「……少し気になっただけ。変に思ったならごめん」
龍二の声は穏やかで、まっすぐだった。その視線が、じわりと霧弥の胸に染み込んでくる。
「……気にすんなって」
そう言いながら、指先がわずかに震えているのを、霧弥自身が感じていた。
次の瞬間、その手を龍二がそっと包む。
「……落ち着いて。俺は、霧弥の味方だよ」
その一言で、胸のざわめきが少しだけ静まった。
霧弥は目を伏せ、煙草の残り香を吸い込みながら、心の奥で一つの事実を認める。
――俺、こいつに頼ってる。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
多くは語らない。それでも、確かな温度がそこにあった。
霧弥は無意識に、付箋の入った引き出しに触れる。誰にも見せない、小さな宝物を胸の奥にしまい込む。
――昨日、想いを伝えた。
――今日は、守られている。
その静かな積み重ねが、霧弥に確かな安心を与えていた。
1
その夜、二階の自宅。
霧弥はソファに深く腰を下ろし、龍二は隣で原稿を広げている。距離は近いが、不自然さはない。
霧弥はふと、龍二の手元へ自分の手を伸ばした。
「……今日、なんか疲れた」
「俺も。打ち合わせが長引いて」
短い会話の合間に、静寂が落ちる。
胸の奥には、嫉妬も独占欲もある。それでも、それ以上に安心感が勝っていた。手が触れるだけで、心臓が強く打つ。
「……やっぱさ。龍二のそば、落ち着く」
「……そう言われると、嬉しい」
龍二は微笑み、霧弥の手を握り直す。
その瞬間、煙草に伸ばしかけていた自分の癖に気づき、霧弥はそっと手を引っ込めた。
――落ち着きたくて吸ってた。でも今は、隣にいる。
煙草を置き、二人は手を繋いだまま夜の静けさに身を委ねる。
小さな温もりが胸に染み込み、互いの存在を確かめ合う。
霧弥の胸元にしまわれた付箋は、今夜も静かにそこにある。
誰にも見せない、二人だけの秘密として。
霧弥はカウンターに肘をつき、気づけば煙草を立て続けに吸っている。灰皿に溜まっていく灰をぼんやり眺めながら、胸の奥のざわつきがどうしても消えなかった。
――南雲さん、か。
そう思った瞬間、すぐに首を振る。
違う。本当に引っかかっているのは、龍二のそばにいた時間、その余韻だ。
ゆっくりと煙を吐き出す。白い煙が静かな店内に広がっていくのを見つめながら、霧弥は自分の手に視線を落とした。無意識に拳を握りしめている。
「……ほんと、バカだな」自嘲するように呟く。
龍二のことを考えるだけで、胸が妙に熱くなる。何気ない仕草や、表情の端々が、頭から離れない。
そのとき、店のドアが開き、軽い足音が響いた。
「霧弥、今日も遅くなった……」
振り返ると、龍二が立っていた。少し疲れた顔。片手には原稿の束、もう片方には、まだ温かそうなコーヒー。
霧弥は肩をすくめる。
――まただ。こうして顔を見るだけで、胸がざわつく。
「……おかえり」
「ただいま。遅くなってごめん」
短い言葉のやり取り。それだけなのに、二人の間に流れる空気は静かに熱を帯びていた。
霧弥は煙草に手を伸ばしかけて、龍二の視線に気づき、思わず止める。
「……煙草吸うのか?」
「……ああ。ちょっと、落ち着きたくて」
龍二は小さく息を吐き、霧弥の隣に腰を下ろした。肩がかすかに触れる。
霧弥は一瞬身を強張らせたが、逃げなかった。
「……霧弥。さっきの南雲さんとの話だけど」
「……別に、気にしてねぇよ」顔を逸らして答える。
嘘ではない。ただ、胸の奥で小さな嫉妬と不安が渦を巻いているだけだ。
「……少し気になっただけ。変に思ったならごめん」
龍二の声は穏やかで、まっすぐだった。その視線が、じわりと霧弥の胸に染み込んでくる。
「……気にすんなって」
そう言いながら、指先がわずかに震えているのを、霧弥自身が感じていた。
次の瞬間、その手を龍二がそっと包む。
「……落ち着いて。俺は、霧弥の味方だよ」
その一言で、胸のざわめきが少しだけ静まった。
霧弥は目を伏せ、煙草の残り香を吸い込みながら、心の奥で一つの事実を認める。
――俺、こいつに頼ってる。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
多くは語らない。それでも、確かな温度がそこにあった。
霧弥は無意識に、付箋の入った引き出しに触れる。誰にも見せない、小さな宝物を胸の奥にしまい込む。
――昨日、想いを伝えた。
――今日は、守られている。
その静かな積み重ねが、霧弥に確かな安心を与えていた。
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その夜、二階の自宅。
霧弥はソファに深く腰を下ろし、龍二は隣で原稿を広げている。距離は近いが、不自然さはない。
霧弥はふと、龍二の手元へ自分の手を伸ばした。
「……今日、なんか疲れた」
「俺も。打ち合わせが長引いて」
短い会話の合間に、静寂が落ちる。
胸の奥には、嫉妬も独占欲もある。それでも、それ以上に安心感が勝っていた。手が触れるだけで、心臓が強く打つ。
「……やっぱさ。龍二のそば、落ち着く」
「……そう言われると、嬉しい」
龍二は微笑み、霧弥の手を握り直す。
その瞬間、煙草に伸ばしかけていた自分の癖に気づき、霧弥はそっと手を引っ込めた。
――落ち着きたくて吸ってた。でも今は、隣にいる。
煙草を置き、二人は手を繋いだまま夜の静けさに身を委ねる。
小さな温もりが胸に染み込み、互いの存在を確かめ合う。
霧弥の胸元にしまわれた付箋は、今夜も静かにそこにある。
誰にも見せない、二人だけの秘密として。
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※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】
※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】
□ショートストーリー
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