煙草屋さんと小説家

男鹿七海

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第二十一章

巻き込まれた週末

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 朝の光がキッチンに差し込み、霧弥と龍二はいつもと変わらぬ距離で食卓に向かっていた。
 味噌汁の湯気がゆらゆらと立ち上り、龍二はそれを一口すすると、満足そうに息をつく。

「霧弥、今日も凄く美味しかった」

 小さな笑顔を向けられ、霧弥は横目でちらりと見るだけで、箸を置いた。

「……そっか」

 短くそう返すと、煙草に火をつけ、流しへ向かう。皿を洗いながら、紫煙をくゆらせるその背中は、どこか気だるげだ。

 龍二はというと、少しだけ手伝ったかと思うと、棚のほこりを払ったり、レジ周りを軽く整えたりする。
 けれど長くは続かず、すぐに椅子に腰を下ろし、ノートに何かを書きつけ始めた。思いついた言葉を逃がさないように、指は迷いなく動く。
 小説家らしい仕草だった。

 霧弥は黙々と皿を洗い続ける。
 そのとき、商店街のスピーカーから明るい声が響いた。

「本日、どなたでも参加可能なコスプレ大会を開催します!」

 その瞬間、龍二の目がぱっと輝いた。

「霧弥、行こうよ! 絶対面白いって!」

 霧弥は眉をひそめ、皿をすすぎながらぼそりと呟く。

「……なんで俺まで巻き込まれなきゃいけねぇんだ」

 けれど、期待に満ちた龍二の表情を前に、強く断る気にもなれない。
 霧弥は小さくため息をつき、肩をすくめた。

「……仕方ねぇな。やるからには、中途半端は嫌だ」

 店のシャッターを上げると、商店街はすでに週末の賑わいを見せていた。
 八百屋のおばちゃんが、遠くから手を振る。

「おはよう!二人も大会に出るのかい?」

 霧弥は軽く会釈する。

「おはようございます」

 隣で龍二も笑顔を向け、元気よく答えた。

「はい、霧弥と一緒に参加します!」

「そりゃ楽しみだねぇ。今日は盛り上がりそうだよ!」

 霧弥は言葉を返さず、肩をすくめるだけだったが、胸の内では「……まあ、そうだな」と小さく思っていた。
 龍二は張り紙を眺めながら、くすっと笑う。



 1

 会場へ向かう途中、隣町で煙草屋を営む知り合い――神崎龍臣とばったり出くわした。
 龍臣は気さくに手を振り、声をかけてくる。

「お、霧弥と龍二じゃないか。こんなところで会うとはな。君たちも参加か?」

「……まあな」

 霧弥は相変わらず素っ気ない。

 龍二は張り紙を指差し、目を輝かせたまま話し出す。

「優勝は旅行券ですよ! 二位はお米、三位は商品券で、四位以下も参加賞があるんですって!」

 霧弥はわずかに眉を寄せながらも、心の中で静かに気合を入れる。

 ――やるからには、きちんとやる。

 こうして霧弥は、面倒くさそうな顔を浮かべつつも、結局は龍二に引っ張られる形で、コスプレ大会へと足を運ぶことになったのだった。


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