煙草屋さんと小説家

男鹿七海

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第二十三章

拍手の中で、隣に居る

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 特設ステージの前には、人が集まり始めていた。
 商店街の常連、家族連れ、スマホを構えた若者たち。
 思った以上の人だかりに、霧弥は小さく舌打ちする。

「聞いてねぇぞ、こんなに人いるなんて」

「大丈夫だって。ほら、楽しそうだよ」

 龍二は周囲を見回しながら、完全に祭り気分だった。
 衣装もきっちり着こなしていて、無駄に様になっているのがまた腹立たしい。

 龍臣はというと、余裕の笑みで腕を組んでいた。

「霧弥、肩に力入りすぎだ。こういうのはな、堂々としてりゃいい」

「……アンタは慣れてそうだな」

「人前に立つのは嫌いじゃないだけだ」

 そのやり取りを聞いて、龍二がくすっと笑う。

「三人並ぶと、なんかチームみたいだね」

「言うな」

 霧弥はそう返しつつも、龍二がすぐ隣にいることを、無意識に確認するように視線を落とした。



 1

「それでは次の組、エントリーナンバー十五番!」

 司会に呼ばれて、三人がステージに上がる。
 拍手と、少しのどよめきが起こった。

 ライトが当たり、視線が集まる。
 霧弥は一瞬、居心地の悪さに眉をひそめたが、龍二が一歩前に出たのを見て、腹を決めた。

 ――どうせ出るなら、半端はやらねぇ。

 
龍臣が軽くポーズを決めると、龍二もそれに合わせて動いた。
霧弥は一拍遅れて、腕を組んで無愛想に立った。それがかえって好評だったようだ。

「渋い!」「かっこいい!」

客席から声が飛んできた。
霧弥は驚いたように一瞬目を瞬き、それから小さく息を吐いた。

「……なんなんだよ」

 隣で龍二が、声を殺して笑っている。

「ほら、霧弥。人気者」

「調子乗んな」

 そう言いながらも、霧弥は逃げなかった。
 龍二が隣にいる。その事実が、妙に背中を支えてくれる。





 全組の発表が終わり、審査の時間に入る。
 三人はステージ脇で並んで立っていた。

「なぁ、霧弥」

「……なんだ」

「来てくれて、ありがと」

「……別に」

 龍臣は二人を見て、面白そうに目を細める。

「いい関係だな」

 霧弥は何も言わず、ただ煙草を思い出してポケットに手を入れかけ、ここでは吸えないことを思い出してやめた。





「結果発表です!」

 司会の声が会場に響く。
「第三位……エントリーナンバー一番!」
「第二位……エントリーナンバー七番!」

そして――

「優勝は……エントリーナンバー十五番!」

 一瞬、理解が遅れた。

「……え?」

 龍二が目を見開き、龍臣が低く笑う。

「ほらね」

 拍手と歓声の中、三人は再びステージに呼ばれた。
 龍二は素直に嬉しそうで、霧弥はどこか落ち着かない顔のまま立っている。

 トロフィーと旅行券を受け取り、次々と写真を撮られる。

 その最中、龍二が小さく霧弥に囁いた。

「ね、楽しかったでしょ」

「……まあな」

 それが精一杯だった。



 4

 夕暮れ、商店街を歩きながら帰る道すがら、人影はまばらになり、祭りの熱気がゆっくり冷めていった。
龍臣とは途中で手を振り、別れを告げた。
「じゃあな、いい週末だった」

「……おう」

 龍二も頭を下げる。

「ありがとうございました!」

 二人きりになると、急に静かになる。

 霧弥は歩きながら、ようやく煙草に火をつけた。
 煙が夕暮れに溶けていく。

「……なあ、龍二」

「ん?」

「お前が楽しそうだと、悪くねぇな」

 龍二は少し驚いた顔をして、それからゆっくり笑った。

「それ、褒めてる?」

「……たぶん」

 しばらく並んで歩き、商店街の明かりが一つ、また一つと灯っていく。
 霧弥は煙草をくわえ直し、思い出したように言った。

「今更だけどさ──」

「なに?」

「なんで俺の格好、魔王だったんだよ」

 龍二は一瞬きょとんとして、それから、ほんの少しだけ口元を押さえた。
 笑いをこらえているのが、はっきり分かる。

「え……?あー……」

「……おい」

「似合ってたから、いいでしょ」

 龍二はそう言って、視線を前に戻した。──龍臣さんが霧弥の近くにさりげなく衣装を掛けたことは、黙っておこうかな。

 龍二の反応で察したのか、霧弥は軽く舌打ちした。「……アイツ、絶対わざとだろ」

「どうかなぁ」

 龍二は肩をすくめるだけで、否定もしなかった。

 煙草の匂いが、夕暮れの空気に溶けていく。
 隣を歩く気配は、さっきよりも少し近い。

 拍手の中でも、雑踏の中でも、結局戻ってくる場所は、ここだった。

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