24 / 51
第二十四章
行き先と、助手席の余談
しおりを挟む
旅行券は、三枚綴りだった。
封筒を開けた霧弥は中身を確認し、無言でテーブルに置く。 それを覗き込んだ龍二が、わずかに眉を上げた。
「……三人分だね」
「……あぁ」
それだけで、十分だった。
霧弥は煙草を一本取り、ベランダへ出る。冷たい夜気が肺に入った。そのまま、スマホを耳に当てる。
「……神崎か」
『おう。どうした、魔王』
「切るぞ」
電話越しに、笑いを含んだ息が漏れる。
『冗談だ。で、用件は?』
「旅行券が三枚ある。行くか」
一拍、間が空いた。
『行く』
即答だった。
「予定は」
『合わせる』
「……決まりだな」
短いやり取りで、話は終わった。
1
出発は、その週末になった。店の休みと龍二の原稿の区切り、龍臣の都合が、珍しく噛み合った。
朝は早かったが、空気は澄んでいる。霧弥の車は古いが、余計な音を立てない。
「じゃあ、最初は俺が運転する」
「うん」
「了解」
助手席に龍二、後部座席に龍臣。エンジンがかかり、車は静かに走り出した。
「相変わらず渋い車だな」
「うるせぇ」
「魔王の私物って感じがする」
「……それ、褒めてんのか」
「多分」
龍二が小さく笑う。 霧弥は前を見たまま、ハンドルを切った。
街を抜け、高速に入る。 朝日がフロントガラスに反射し、一瞬だけ視界が白くなる。
「遠出、久しぶりだね」
龍二の声は、どこか楽しそうだった。
「……まぁな」
後部座席から、龍臣が思い出したように言う。
「そういえばさ」
「なんだ」
「改めて思ったけど、あの魔王姿」
「言うな」
「いや、言う」
龍臣は笑いを含んだ声で続けた。
「不機嫌そうな顔で腕組んで、ライト浴びてさ。客席の反応、完全に“ラスボス登場”だったぞ」
「……聞いてねぇ」
「俺は聞いた。『あの人だけ世界観違う』って」
龍二が、控えめに言葉を添える。
「迫力は、確かにありました」
「お前まで言うな」
霧弥は、わずかにアクセルを踏んだ。
「煙草吸ってない魔王ってのも新鮮だった」
「……それ以上言うんだったら、今すぐ運転変われ」
「はいはい」
車内に、軽い笑いが落ちる。 霧弥は黙ったままだったが、耳の奥が少し熱い。
2
最初の休憩で、サービスエリアに寄った。
「次、俺運転する」
龍臣が自然に言い、霧弥も何も言わずに鍵を渡す。
「ぶつけんなよ」
「信用低いな」
運転席が交代し、霧弥は助手席へ移る。 龍二は後部座席に座り直した。
「この並び、なんか新鮮だね」
「……だな」
龍臣はルームミラー越しに霧弥を見る。
「助手席の魔王」
「まだ言うか」
「だってさ、似合いすぎなんだよ」
「衣装の話は終わっただろ」
「終わってない」
龍臣は楽しそうだった。
「魔王って、守るもんがあるから強いんだろ?」
霧弥は、一瞬だけ黙る。「……知らねぇよ」
「でもさ」龍臣は前を見たまま続けた。「お前、前より柔らかくなった」
後部座席で、龍二が静かに聞いている気配がする。
「余計なお世話だ」
「否定しないのな」
霧弥は、窓の外へ視線を逃がした。
「……変わっただけだ」
それ以上、龍臣は踏み込まなかった。
3
山道に入ると、空気が変わる。木々の影が、流れるように車内を横切っていく。
「着くな」
「思ったより早いね」
「運転、交代したからな」
車を停め、三人は外に出た。 深く息を吸うと、胸の奥まで澄んでいく。
「……悪くねぇな」
霧弥がそう言うと、龍二が笑った。
「そうだね」
龍臣は伸びをする。
「三枚入り、正解だったな」
「……あぁ」
魔王だの、助手席だの、余談だらけの道中だったが、今ここに立つと、それらはどうでもよくなる。
三人で来た。それだけで、充分だった。
霧弥はポケットの中の煙草に触れ、まだ火はつけない。
「行くぞ」
「うん」
「おう」
三人の足音が、同じ方向へ重なっていった。
封筒を開けた霧弥は中身を確認し、無言でテーブルに置く。 それを覗き込んだ龍二が、わずかに眉を上げた。
「……三人分だね」
「……あぁ」
それだけで、十分だった。
霧弥は煙草を一本取り、ベランダへ出る。冷たい夜気が肺に入った。そのまま、スマホを耳に当てる。
「……神崎か」
『おう。どうした、魔王』
「切るぞ」
電話越しに、笑いを含んだ息が漏れる。
『冗談だ。で、用件は?』
「旅行券が三枚ある。行くか」
一拍、間が空いた。
『行く』
即答だった。
「予定は」
『合わせる』
「……決まりだな」
短いやり取りで、話は終わった。
1
出発は、その週末になった。店の休みと龍二の原稿の区切り、龍臣の都合が、珍しく噛み合った。
朝は早かったが、空気は澄んでいる。霧弥の車は古いが、余計な音を立てない。
「じゃあ、最初は俺が運転する」
「うん」
「了解」
助手席に龍二、後部座席に龍臣。エンジンがかかり、車は静かに走り出した。
「相変わらず渋い車だな」
「うるせぇ」
「魔王の私物って感じがする」
「……それ、褒めてんのか」
「多分」
龍二が小さく笑う。 霧弥は前を見たまま、ハンドルを切った。
街を抜け、高速に入る。 朝日がフロントガラスに反射し、一瞬だけ視界が白くなる。
「遠出、久しぶりだね」
龍二の声は、どこか楽しそうだった。
「……まぁな」
後部座席から、龍臣が思い出したように言う。
「そういえばさ」
「なんだ」
「改めて思ったけど、あの魔王姿」
「言うな」
「いや、言う」
龍臣は笑いを含んだ声で続けた。
「不機嫌そうな顔で腕組んで、ライト浴びてさ。客席の反応、完全に“ラスボス登場”だったぞ」
「……聞いてねぇ」
「俺は聞いた。『あの人だけ世界観違う』って」
龍二が、控えめに言葉を添える。
「迫力は、確かにありました」
「お前まで言うな」
霧弥は、わずかにアクセルを踏んだ。
「煙草吸ってない魔王ってのも新鮮だった」
「……それ以上言うんだったら、今すぐ運転変われ」
「はいはい」
車内に、軽い笑いが落ちる。 霧弥は黙ったままだったが、耳の奥が少し熱い。
2
最初の休憩で、サービスエリアに寄った。
「次、俺運転する」
龍臣が自然に言い、霧弥も何も言わずに鍵を渡す。
「ぶつけんなよ」
「信用低いな」
運転席が交代し、霧弥は助手席へ移る。 龍二は後部座席に座り直した。
「この並び、なんか新鮮だね」
「……だな」
龍臣はルームミラー越しに霧弥を見る。
「助手席の魔王」
「まだ言うか」
「だってさ、似合いすぎなんだよ」
「衣装の話は終わっただろ」
「終わってない」
龍臣は楽しそうだった。
「魔王って、守るもんがあるから強いんだろ?」
霧弥は、一瞬だけ黙る。「……知らねぇよ」
「でもさ」龍臣は前を見たまま続けた。「お前、前より柔らかくなった」
後部座席で、龍二が静かに聞いている気配がする。
「余計なお世話だ」
「否定しないのな」
霧弥は、窓の外へ視線を逃がした。
「……変わっただけだ」
それ以上、龍臣は踏み込まなかった。
3
山道に入ると、空気が変わる。木々の影が、流れるように車内を横切っていく。
「着くな」
「思ったより早いね」
「運転、交代したからな」
車を停め、三人は外に出た。 深く息を吸うと、胸の奥まで澄んでいく。
「……悪くねぇな」
霧弥がそう言うと、龍二が笑った。
「そうだね」
龍臣は伸びをする。
「三枚入り、正解だったな」
「……あぁ」
魔王だの、助手席だの、余談だらけの道中だったが、今ここに立つと、それらはどうでもよくなる。
三人で来た。それだけで、充分だった。
霧弥はポケットの中の煙草に触れ、まだ火はつけない。
「行くぞ」
「うん」
「おう」
三人の足音が、同じ方向へ重なっていった。
0
あなたにおすすめの小説
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
恋の闇路の向こう側
七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。
家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。
────────
クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。
朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。
幼馴染みとアオハル恋事情
有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。
「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。
明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!?
思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。
アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ!
【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】
※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています
※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定
※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】
※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】
□ショートストーリー
https://privatter.net/p/9716586
□イラスト&漫画
https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/
⇒いずれも不定期に更新していきます
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる