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第二十六章
余分な鞄と、語られる背中
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卓の上の灯りだけが、畳を柔らかく照らしていた。
缶ビールはもう空で、代わりに売店で買ってきた小さな徳利と猪口が並ぶ。
霧弥は龍臣の荷物を一瞥し、眉をひそめた。
服等が入った大きな鞄、ショルダーバッグ……だが、それだけでは終わらない。小さな鞄がもう一つあり、霧弥はそれをじっと見つめた。
「ちょっと待て、なんで鞄が三つもあるんだ?二泊三日分くらいだろ?」
「え?あぁ、まぁ……必要だからさ」
「いや、必要な量じゃねぇだろ」
霧弥は小さな鞄を手に取り、中身を覗き込む。
その瞬間、目に入ったのは……六本の酒瓶。
「……ゴリラかよ」思わず呆れと笑いが混じった声が出る。
龍臣はくすりと笑うだけで、特に言い返さない。
霧弥は小さくため息をついた。
「……まあ、付き合えるけどな」
龍臣は軽く笑い、徳利を霧弥の猪口にそっと注ぐ。
三人は自然に、畳に円を作って座っていた。誰が決めたわけでもない。ただ、気づけばそうなっていた。
龍二は酒を口に運びながら、静かに二人のやり取りを見守る。頷きや視線の動きだけで、口は挟まない。
しばしの沈黙のあと、龍臣が低い声で言った。
「なぁ、霧弥……ちょっと、お前のこと話していいか」
「……俺のこと?」
霧弥は疑問を浮かべつつ、猪口を手に取り喉を湿らせる。
龍臣は中ぐらいの酒瓶を手に取り、猪口に注ぎながら話し始めた。
「俺が初めてお前に会った頃のこと、覚えてるか?」
霧弥は視線をわずかに下に向け、眉をひそめる。
「お前は……無口で、少し近寄りがたくて、目つきも今より鋭かった。周りに対して警戒心が強くて、言葉よりも背中で何かを訴えてる感じだったな。最初は、ちょっと怖くて近づきにくかった」
龍臣の声には、柔らかさと力強さが混ざっている。
「でも気づくと、そこには不思議な強さがあった。硬さじゃなくて、誰にも見せない優しさの強さだってことを。頼れるけど、無理に誰かに合わせようともしない、そんな背中だった」
霧弥は徳利から注がれる酒を受け取り、猪口を軽く持ち上げる。
龍臣はさらに続ける。
「今の霧弥を見てると、昔より少し肩の力が抜けた気がする。人と飲むことも、笑うことも、少しずつ自然にできるようになった」
横で龍二は酒を飲みながら静かに聞いている。時折、軽く頷いたり、視線を龍臣と霧弥に交互に送ったりするだけだ。
酒の香りと畳の柔らかさの中、三人の時間は静かに流れる。
龍臣はさらに話を重ねる。
「覚えてるか、あの頃お前が一人で夜を越してたこと……家族との距離に悩んで、誰にも見せずに耐えてたお前。あの頃の目つきは尖ってたけど、今はその鋭さの奥に落ち着きが見える」
霧弥は短く息をつき、猪口を手に少し微笑んだ。
龍臣の語る背中には、重さと同時に温かさがあることを、霧弥は静かに感じていた。
その夜、三人はただ座り、酒を飲み、語り合った。
荷物の多さや六本の酒瓶は、もはや些細なことだった。大事なのは、今この瞬間を共有しているという事実だけだ。
徳利が空になり、猪口も空になる。
だが、胸の奥に残る温かさは、消えることはなかった。
夜はまだ長い。
だが、この瞬間、この場所、そして酒の記憶は、霧弥と龍臣、そして龍二の心に確かに刻まれていた。
缶ビールはもう空で、代わりに売店で買ってきた小さな徳利と猪口が並ぶ。
霧弥は龍臣の荷物を一瞥し、眉をひそめた。
服等が入った大きな鞄、ショルダーバッグ……だが、それだけでは終わらない。小さな鞄がもう一つあり、霧弥はそれをじっと見つめた。
「ちょっと待て、なんで鞄が三つもあるんだ?二泊三日分くらいだろ?」
「え?あぁ、まぁ……必要だからさ」
「いや、必要な量じゃねぇだろ」
霧弥は小さな鞄を手に取り、中身を覗き込む。
その瞬間、目に入ったのは……六本の酒瓶。
「……ゴリラかよ」思わず呆れと笑いが混じった声が出る。
龍臣はくすりと笑うだけで、特に言い返さない。
霧弥は小さくため息をついた。
「……まあ、付き合えるけどな」
龍臣は軽く笑い、徳利を霧弥の猪口にそっと注ぐ。
三人は自然に、畳に円を作って座っていた。誰が決めたわけでもない。ただ、気づけばそうなっていた。
龍二は酒を口に運びながら、静かに二人のやり取りを見守る。頷きや視線の動きだけで、口は挟まない。
しばしの沈黙のあと、龍臣が低い声で言った。
「なぁ、霧弥……ちょっと、お前のこと話していいか」
「……俺のこと?」
霧弥は疑問を浮かべつつ、猪口を手に取り喉を湿らせる。
龍臣は中ぐらいの酒瓶を手に取り、猪口に注ぎながら話し始めた。
「俺が初めてお前に会った頃のこと、覚えてるか?」
霧弥は視線をわずかに下に向け、眉をひそめる。
「お前は……無口で、少し近寄りがたくて、目つきも今より鋭かった。周りに対して警戒心が強くて、言葉よりも背中で何かを訴えてる感じだったな。最初は、ちょっと怖くて近づきにくかった」
龍臣の声には、柔らかさと力強さが混ざっている。
「でも気づくと、そこには不思議な強さがあった。硬さじゃなくて、誰にも見せない優しさの強さだってことを。頼れるけど、無理に誰かに合わせようともしない、そんな背中だった」
霧弥は徳利から注がれる酒を受け取り、猪口を軽く持ち上げる。
龍臣はさらに続ける。
「今の霧弥を見てると、昔より少し肩の力が抜けた気がする。人と飲むことも、笑うことも、少しずつ自然にできるようになった」
横で龍二は酒を飲みながら静かに聞いている。時折、軽く頷いたり、視線を龍臣と霧弥に交互に送ったりするだけだ。
酒の香りと畳の柔らかさの中、三人の時間は静かに流れる。
龍臣はさらに話を重ねる。
「覚えてるか、あの頃お前が一人で夜を越してたこと……家族との距離に悩んで、誰にも見せずに耐えてたお前。あの頃の目つきは尖ってたけど、今はその鋭さの奥に落ち着きが見える」
霧弥は短く息をつき、猪口を手に少し微笑んだ。
龍臣の語る背中には、重さと同時に温かさがあることを、霧弥は静かに感じていた。
その夜、三人はただ座り、酒を飲み、語り合った。
荷物の多さや六本の酒瓶は、もはや些細なことだった。大事なのは、今この瞬間を共有しているという事実だけだ。
徳利が空になり、猪口も空になる。
だが、胸の奥に残る温かさは、消えることはなかった。
夜はまだ長い。
だが、この瞬間、この場所、そして酒の記憶は、霧弥と龍臣、そして龍二の心に確かに刻まれていた。
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