煙草屋さんと小説家

男鹿七海

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第二十八章

二日酔いと新たな酒

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 畳の上で、霧弥と龍臣はほとんど同時に目を覚ました。
 鼻をくすぐるのは、昨夜飲んだ酒の残り香。換気の甘い部屋に、まだしつこく漂っている。

「……頭痛ぇ」
 霧弥は額に手を当て、そのまま天井を見上げた。視界の隅がわずかに揺れる。

「俺もだ……」
 畳にうつ伏せになっていた龍臣も、顔をしかめて小さく息を吐く。

 しばらく沈黙が流れたあと、霧弥が布団の端に手をつき、ゆっくりと上半身を起こした。体は重い。だが、その目には妙な輝きがある。

「……でも、まだいけそうだな」

「お前、まだ酒のこと考えてるのか?」
 呆れたように龍臣が言うと、霧弥は軽く肩をすくめた。
「いや、観光のほうな」

 そのやり取りを見ていた龍二は、内心で深くため息をつく。
(ほんと懲りないなぁ……)

 簡単に朝食を済ませ、三人は外へ出た。
 冷たい風が頬を打ち、こもっていた酒の熱を少しだけ攫っていく。

「二日酔いでも、観光は楽しんでこう」
 龍臣がいつも通りの調子で言い、霧弥も無言で頷いた。

 街を歩いている途中、霧弥がふいに足を止める。
 視線の先には、小さな酒屋。ガラス越しに見える棚には、見慣れないラベルの瓶が並んでいた。

「お、これ限定らしいぞ」
 一気に目を輝かせる霧弥に、龍臣が眉をひそめる。
「まさか、二日酔いで酒を買う気か?」

「……関係ねぇ」
 そう言い残し、霧弥はすでに店の中だった。

 慌てて龍臣も後を追い、二人は棚の前であれこれと品定めを始める。
 結局選んだのは、小さな瓶の地酒と、特別醸造と書かれた一升瓶。

「これ、買っとこうぜ」
 満足そうに笑う霧弥を見て、龍臣は諦めたように頷いた。

 店の外で、酒の入った袋を抱える二人を見た龍二は、思わず声を漏らす。
「……え、二人共信じられない」

 二日酔いのまま街を歩き、しかも限定酒を買い込む。
 その行動力に、言葉が追いつかない。

「いいじゃねぇか」
 霧弥は袋を肩に掛け、にやりと笑った。

「楽しまなきゃ、勿体無いだろ」
 龍臣も、小さく同意するように頷く。

 龍二はしばらく二人の背中を見つめたまま、開いた口を閉じられずにいた。

 ――昨夜の酒豪っぷりを思えば、これでもまだ序の口なのだろう。

 二日酔いの重さに顔をしかめながらも、霧弥と龍臣は街を歩き回り、観光と酒探しを楽しみ続ける。
 その様子に、龍二は呆れと笑いが混じったため息をつくしかなかった。


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