煙草屋さんと小説家

男鹿七海

文字の大きさ
28 / 51
第二十八章

二日酔いと新たな酒

しおりを挟む
 畳の上で、霧弥と龍臣はほとんど同時に目を覚ました。
 鼻をくすぐるのは、昨夜飲んだ酒の残り香。換気の甘い部屋に、まだしつこく漂っている。

「……頭痛ぇ」
 霧弥は額に手を当て、そのまま天井を見上げた。視界の隅がわずかに揺れる。

「俺もだ……」
 畳にうつ伏せになっていた龍臣も、顔をしかめて小さく息を吐く。

 しばらく沈黙が流れたあと、霧弥が布団の端に手をつき、ゆっくりと上半身を起こした。体は重い。だが、その目には妙な輝きがある。

「……でも、まだいけそうだな」

「お前、まだ酒のこと考えてるのか?」
 呆れたように龍臣が言うと、霧弥は軽く肩をすくめた。
「いや、観光のほうな」

 そのやり取りを見ていた龍二は、内心で深くため息をつく。
(ほんと懲りないなぁ……)

 簡単に朝食を済ませ、三人は外へ出た。
 冷たい風が頬を打ち、こもっていた酒の熱を少しだけ攫っていく。

「二日酔いでも、観光は楽しんでこう」
 龍臣がいつも通りの調子で言い、霧弥も無言で頷いた。

 街を歩いている途中、霧弥がふいに足を止める。
 視線の先には、小さな酒屋。ガラス越しに見える棚には、見慣れないラベルの瓶が並んでいた。

「お、これ限定らしいぞ」
 一気に目を輝かせる霧弥に、龍臣が眉をひそめる。
「まさか、二日酔いで酒を買う気か?」

「……関係ねぇ」
 そう言い残し、霧弥はすでに店の中だった。

 慌てて龍臣も後を追い、二人は棚の前であれこれと品定めを始める。
 結局選んだのは、小さな瓶の地酒と、特別醸造と書かれた一升瓶。

「これ、買っとこうぜ」
 満足そうに笑う霧弥を見て、龍臣は諦めたように頷いた。

 店の外で、酒の入った袋を抱える二人を見た龍二は、思わず声を漏らす。
「……え、二人共信じられない」

 二日酔いのまま街を歩き、しかも限定酒を買い込む。
 その行動力に、言葉が追いつかない。

「いいじゃねぇか」
 霧弥は袋を肩に掛け、にやりと笑った。

「楽しまなきゃ、勿体無いだろ」
 龍臣も、小さく同意するように頷く。

 龍二はしばらく二人の背中を見つめたまま、開いた口を閉じられずにいた。

 ――昨夜の酒豪っぷりを思えば、これでもまだ序の口なのだろう。

 二日酔いの重さに顔をしかめながらも、霧弥と龍臣は街を歩き回り、観光と酒探しを楽しみ続ける。
 その様子に、龍二は呆れと笑いが混じったため息をつくしかなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

恋の闇路の向こう側

七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。 家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。 ──────── クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

処理中です...