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番外編
霧弥が居ない午後
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昼過ぎ、店のシャッターは半分まで下ろされていた。
午後の光が斜めに差し込み、ガラスケースの縁に淡く反射している。カウンターの中に立っているのは、龍二だった。
店番をするのは初めてではない。やることも分かっている。煙草の銘柄も、値段も、常連の顔も。それでも、少しだけ勝手が違った。
カウンターの端に置かれているはずの灰皿が、見当たらない。一拍遅れて、カウンターの下にあることを思い出す。
霧弥が、そういう置き方をしていた。
「ああ、そっちか」
誰に聞かせるでもなく呟き、元の位置に戻す。
午後の客は少ない。
一人、二人。
「いつもの」と言われれば、問題なく用意できる。
ただ、受け渡しのとき、声が半拍遅れる。
「……どうも」
言葉は合っている。動作も間違っていない。
それでも、店の空気がわずかに違う。
常連の一人が、何気なく言った。
「今日は一人か」
「ええ。少し出てて」
それ以上、会話は続かない。それで十分だった。
コーヒーを淹れるもカップは二つ出してしまい、片方を戻す。霧弥が居ないことを、ここで思い出す。
二階から物音はしない。
当然だ。今日は、誰も居ない。
キーボードを叩く必要もない。原稿も今は進めなくていい。
午後三時を少し回った頃、通りの音が遠のく。シャッターをもう少し下ろすか迷ってやめた。
霧弥なら、どうするだろう。そう考えて、すぐに思考を切る。考えなくていい。店は、今も店だ。
カウンターを拭き、釣銭を確認する。帳簿を一度だけ見て閉じる。
霧弥の字で書かれたメモが、棚の端に貼られていた。
『夕方までに戻る』
それだけ。
龍二はそれを剥がさず、そのままにしておく。
午後の時間は、静かに過ぎていく。
問題は起きない。ミスもない。ただ、霧弥が居ない午後は、いつもより少しだけ、長く感じられた。
夕方の気配が近づくころ、龍二はカウンターの内側を一度見回す。店はきちんとしている。
いつも通りだ。
「……おかえり、って言うのは、まだだな」
誰も居ない店内で、そう呟き龍二は静かに息を吐いた。
霧弥が戻るまで、この時間はまだ続く。
日常は崩れない。
ただ、主が一時的に席を外しているだけだった。
午後の光が斜めに差し込み、ガラスケースの縁に淡く反射している。カウンターの中に立っているのは、龍二だった。
店番をするのは初めてではない。やることも分かっている。煙草の銘柄も、値段も、常連の顔も。それでも、少しだけ勝手が違った。
カウンターの端に置かれているはずの灰皿が、見当たらない。一拍遅れて、カウンターの下にあることを思い出す。
霧弥が、そういう置き方をしていた。
「ああ、そっちか」
誰に聞かせるでもなく呟き、元の位置に戻す。
午後の客は少ない。
一人、二人。
「いつもの」と言われれば、問題なく用意できる。
ただ、受け渡しのとき、声が半拍遅れる。
「……どうも」
言葉は合っている。動作も間違っていない。
それでも、店の空気がわずかに違う。
常連の一人が、何気なく言った。
「今日は一人か」
「ええ。少し出てて」
それ以上、会話は続かない。それで十分だった。
コーヒーを淹れるもカップは二つ出してしまい、片方を戻す。霧弥が居ないことを、ここで思い出す。
二階から物音はしない。
当然だ。今日は、誰も居ない。
キーボードを叩く必要もない。原稿も今は進めなくていい。
午後三時を少し回った頃、通りの音が遠のく。シャッターをもう少し下ろすか迷ってやめた。
霧弥なら、どうするだろう。そう考えて、すぐに思考を切る。考えなくていい。店は、今も店だ。
カウンターを拭き、釣銭を確認する。帳簿を一度だけ見て閉じる。
霧弥の字で書かれたメモが、棚の端に貼られていた。
『夕方までに戻る』
それだけ。
龍二はそれを剥がさず、そのままにしておく。
午後の時間は、静かに過ぎていく。
問題は起きない。ミスもない。ただ、霧弥が居ない午後は、いつもより少しだけ、長く感じられた。
夕方の気配が近づくころ、龍二はカウンターの内側を一度見回す。店はきちんとしている。
いつも通りだ。
「……おかえり、って言うのは、まだだな」
誰も居ない店内で、そう呟き龍二は静かに息を吐いた。
霧弥が戻るまで、この時間はまだ続く。
日常は崩れない。
ただ、主が一時的に席を外しているだけだった。
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