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拾壱.伍
白廻、その後
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私は、白い部屋で目を覚ました。
霧はない。 鈴の音もない。 耳を澄ませても、世界はひどく静かだった。
「……生きてる、のね」誰に聞かせるでもなく、呟く。
身体は重い。獣人としての感覚は、まだ残っている。
だが、以前のような鋭さはなく、音の輪郭も曖昧だった。
婚姻弾の反動。──いや、“否定された反動”。
私は天井を見つめる。
(私は……負けたのかしら)
黒角にではない。葵にでもない。
龍之介と凛。“選び合った二人”に。
「……くだらない」
そう言いながら、声は震えていた。
私は思い出す。
抱き合う二人。 逃げない男。 噛まなかった少女。
獣人としての常識。 研究者としての理屈。それらすべてを、あの瞬間、越えられた。
(私は……越えられなかった)
私は、ゆっくりと身体を起こす。
壁際に置かれた、小さな鈴。あれほど依存していた音具に、今は触れる気になれなかった。
「……婚姻弾」
人を“人に戻すもの”だと思っていた。だから憎んだ。だから壊そうとした。
だが、違った。
あれは──人と獣のどちらかを選ばせるものではない。
「……選ばせない、のね」
選ぶのは、姿ではない。立場でもない。
“誰と生きるか”だけ。
私は、思わず小さく笑った。「……残酷」
それは、逃げ場がない選択だ。誰かを選べない者には、最初から届かない。
(だから、私は……)
被害者だった。確かに。
だが同時に──選ばなかった。
誰とも、命を分け合う覚悟を。
私は、そっと目を閉じる。
涙は出なかった。後悔も、はっきりとは感じない。
ただ、胸の奥に “未完”だけが、静かに残っていた。
「……葵」
恨みでも、許しでもない名前。
「貴方の息子は……ずるいわ」
優しすぎて、逃げない。だからこそ、残酷だ。
私は立ち上がる。
歩ける。まだ、生きられる。
「……研究は、終わり」
少なくとも、あの形では。
だが──世界から目を背ける気もなかった。
扉の前で、私は一度だけ振り返る。
「次は……」
言葉は、最後まで出なかった。
霧は、もう使わない。音も、操らない。
それでも彼女は、まだ“獣人”だ。
そして──まだ、この世界にいる。
私は扉を開け、静かな昼の光の中へ歩き出した。
霧はない。 鈴の音もない。 耳を澄ませても、世界はひどく静かだった。
「……生きてる、のね」誰に聞かせるでもなく、呟く。
身体は重い。獣人としての感覚は、まだ残っている。
だが、以前のような鋭さはなく、音の輪郭も曖昧だった。
婚姻弾の反動。──いや、“否定された反動”。
私は天井を見つめる。
(私は……負けたのかしら)
黒角にではない。葵にでもない。
龍之介と凛。“選び合った二人”に。
「……くだらない」
そう言いながら、声は震えていた。
私は思い出す。
抱き合う二人。 逃げない男。 噛まなかった少女。
獣人としての常識。 研究者としての理屈。それらすべてを、あの瞬間、越えられた。
(私は……越えられなかった)
私は、ゆっくりと身体を起こす。
壁際に置かれた、小さな鈴。あれほど依存していた音具に、今は触れる気になれなかった。
「……婚姻弾」
人を“人に戻すもの”だと思っていた。だから憎んだ。だから壊そうとした。
だが、違った。
あれは──人と獣のどちらかを選ばせるものではない。
「……選ばせない、のね」
選ぶのは、姿ではない。立場でもない。
“誰と生きるか”だけ。
私は、思わず小さく笑った。「……残酷」
それは、逃げ場がない選択だ。誰かを選べない者には、最初から届かない。
(だから、私は……)
被害者だった。確かに。
だが同時に──選ばなかった。
誰とも、命を分け合う覚悟を。
私は、そっと目を閉じる。
涙は出なかった。後悔も、はっきりとは感じない。
ただ、胸の奥に “未完”だけが、静かに残っていた。
「……葵」
恨みでも、許しでもない名前。
「貴方の息子は……ずるいわ」
優しすぎて、逃げない。だからこそ、残酷だ。
私は立ち上がる。
歩ける。まだ、生きられる。
「……研究は、終わり」
少なくとも、あの形では。
だが──世界から目を背ける気もなかった。
扉の前で、私は一度だけ振り返る。
「次は……」
言葉は、最後まで出なかった。
霧は、もう使わない。音も、操らない。
それでも彼女は、まだ“獣人”だ。
そして──まだ、この世界にいる。
私は扉を開け、静かな昼の光の中へ歩き出した。
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